良いブランドフィルムを作ることは、決して簡単ではない。まして、多くの人々に愛されたシリーズの続編を、15年も経ってから作るなんて、非現実的な話だろう。
しかしそれを実現したのが、BMWのブランドフィルムだ。BMWは2001年、ドイツ車好きの謎めいた運転手役に英国人俳優クライブ・オーウェンを起用し、シリーズ「The Hire」のブランドフィルムを8本リリースした。当時はインターネットに電話回線経由でアクセスする時代で、DVD配布が一般的だったが、このシリーズは2年間で1億回を超える再生回数を記録した。
そして昨年、BMWはクライブ・オーウェンと当時の制作スタッフの多くを再び呼び集め、シリーズ続編となる「The Escape」の制作に取りかかった。今月開催された「2017ブランド・フィルム・フェスティバル」(米PRWeekとCampaign USの共催)の、「効果的なブランドフィルムの作り方」がテーマのパネルトークで、制作チームは自分たちの体験について話した。
「本物らしく表現することが大切です」。そうコメントしたのは、初期のシリーズと今回の作品の双方に携わったクリエティブディレクター、ブルース・ビルドステン氏だ。映像内で車がぼこぼこにされていくのを容認してくれたと、BMWをたたえる。
「BMWは車に銃弾が撃ち込まれ、汚されていくことにも躊躇しませんでした」
自動車ファンでもあるニール・ブロムカンプ監督は、敵がBMW5シリーズに飛び移る場面で、ボンネットのへこみ方が不十分と感じた。「そこで監督はスタントマンを、大きなはしごの上からボンネットにジャンプさせたのです」と、ビルドステン氏は振り返る。
「The Escape」は、広告というよりもむしろ映画のように作り込まれた動画だ。「制作クルーやスタントマン、俳優の選定には、長い時間をかけました」と、制作したアノニマスコンテント社のマネージングディレクター兼共同経営者、エリック・スターン氏は語る。
このシリーズで最も重視しているのはストーリーで、ここまで徹底している他社ブランドフィルムはそうそう見当たらないだろう。「他社の作品は宣伝くささが感じられ、それゆえ失敗してしまうのです」と語るのは、BMWで北米地域のマーケティングを担当するバイスプレジデント、トゥルーディー・ハーディー氏だ。
プロモーションの要素を最小限に抑えたことで、この作品は「良い広告映像」でなく「素晴らしい映画作品」へと高められたのだ。
「今では皆が、この作品は我が社がこれまでに行ってきた中で最高の投資だと考えています。ブランドエクイティーやブランドバリューだけでなく、売上においても、十分すぎるほどの大きな利益をもたらしてくれました」とハーディー氏。「きっと生涯のファンを獲得できたのではないでしょうか」
(文:イーシェン・シャーウッド 翻訳:岡田藤郎 編集:田崎亮子)