ちょうど2017年の展望を書いているときに、DeNAのキュレーションメディアに関する問題が起き、同様の他社サービスも次々と閉じられていくこととなった。また、それに先立つ2016年9月には、電通グループ内でトヨタ自動車に対してデジタル広告費の過大請求が行われていたことが発覚した。これらの「事件」は2017年の動向に大きな影響を与えるだろう。
2016年に起きたこの2つの事件は、「ネット上のコンテンツに対する信頼」と「デジタル広告に対する信頼」を毀損することとなった。まず前者について。日本でキュレーションメディアと呼ばれるサイトが多数のコンテンツを量産し、グーグルなどの検索結果の上位を占めるようになった理由は、クラウドソーシングにおいてアマチュアを集め、剽窃記事を多数準備したことにある。
これは、資本力のある企業が大量の「安価な」記事をクラウドソーシングプラットフォームに発注できることで起きた。実際に日本のクラウドソーシングのプラットフォームサイトを見ると、ウェブサイト向けのコンテンツ制作の取引が最も多いように見える。今回のDeNAをはじめとするキュレーションメディア事件の共犯は、明らかにクラウドソーシングのプラットフォームであり、これらのサービスの淘汰ないしは縮小が進むのではないだろうか。
これは企業の「オウンドメディア」にも間接的に影響を及ぼす。オリジナルのコンテンツを作れないオウンドメディアは、次々となくなっていくだろう。いわばキュレーションメディアの死、クラウドソーシングの死、そしてコンテンツマーケティングの死につながりかねない。しかし、この中で質の高いコンテンツやオウンドメディアは生き残る可能性があり、ゴミの山と化していたネットの「浄化」が始まる可能性に期待したい。
また一方で、今回の事件はグーグルのような検索エンジンに対して、いわゆる「ブラックハット」的なSEOハック を行って上位を狙ったわけではないということにも注目したい。ある意味、グーグルがウェブマスタ―向けに提供しているガイドラインには極端に従っているのだ。しかし、アルゴリズムはコンテンツの中身を把握することはできないので、記事が量産されればそのサイトで上位を占めるという、極めて基本的な検索エンジンの仕組みを悪用したと言える。
これは、コンテンツを大量に制作できる資金力さえあれば検索エンジンの結果を歪められることを露呈したのであり、極端な資本主義へのグーグルの敗北、そしてページランクの敗北である。この事件から、AIやディープラーニングを用いた「より(コンテンツの)意味を把握する検索エンジン」へと進化していく可能性がある。
2つ目の電通問題に絡む広告不信については、アドベリフィケーションや ビューアビリティなどの普及につながる可能性が高い。そもそも一部のブランドを除けば、日本ではクリックやコンバージョンといった数値以外に、自社の広告の数値について興味のない広告主が実は多い。これをきっかけに、大手の広告主を中心としてネット広告の「質」を求める動きが起きてくるだろう。故に、アドベリフィケーションやビューアビリティに関するサービス提供者の事業が盛んになる可能性が高い。
いずれにせよ、2016年に日本で起こった2つの事件はネットにおけるメディア事業や広告事業の暗部を明らかにし、業界に大きなキズを残した。しかしながら、2017年にはこれらが改善されてオーセンティシティが重視され、日本のネット環境が「健全」になっていく流れが生まれるだろう。
(文:高広伯彦 編集:水野龍哉)
高広伯彦氏は、マーケティングコミュニケーションのコンサルティングを行う「スケダチ」の設立者であり代表。米国のネイティブ広告のプラットフォーム「Sharethrough」の日本代表も務める。