David Blecken
2018年8月24日

PMIから広告代理店への「ラブコール」

加熱式たばこの売上を伸ばそうと、マーケティングの強化を図るフィリップ・モリス。広告代理店との密な関係づくりを目指すが、代理店にとってたばこブランドとの協働はいまだ複雑な問題だ。

写真:Shutterstock
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今月初旬、Campaignは日本のマッキャン・ワールドグループ傘下にある「サーティーン」がフィリップ・モリス・インターナショナル(PMI)の加熱式たばこ「アイコス(IQOS)」の新たなキャンペーンを担うとお伝えした。この動きは様々な意味で重要だが、とりわけマッキャンとその親会社であるIPGは、IPGの主要なビジネスを成すマッキャンヘルスケアとの利益相反を考慮し、たばこブランドとの協働を避けてきたからだ。

PMIなどのたばこ会社が健康への害が少ない製品を市場にデビューさせたことで、たばこ業界にまつわる「汚名」は軽減され、たばこ会社と広告代理店の関係は変わることになろう。PMIは熟慮の上、代理店に総合的「クリエイティブ・コミュニティー」への参画を促した。その活動の一環が、6月のカンヌライオンズでテック企業などと並び、海辺に大きなPRブースを設置したことだ。

PMIは今、何を成し遂げようとしているのか。同社コミュニケーション部門のグローバルディレクターを務めるトマソ・ディ・ジョバンニ氏に聞いた。

ディ・ジョバンニ氏は、PMIが加熱式たばこを20年かけて開発し、「たばこ業界におけるはじめての大きなイノベーションを達成した」ことを強調する。だが、業界に対する認識は「いまだ変わっていない」とも。

通常のたばこがいまだに「世界の日常」であることは確かだ。先進国でのたばこの消費量は減ったが、新興国市場では確実に増加。世界保健機関(WHO)が今年3月に出した報告書によると、世界の喫煙者11億人の8割が低・中所得国の人々だという。例えば7000万人の喫煙者がいるインドネシアは、世界最大のたばこ市場だ。

現在アイコスは40カ国で販売されているが、新興国市場での加熱式たばこや電子たばこの普及率はいまだに低い。ディ・ジョバンニ氏は、「従来型のたばこを無煙たばこに切り替えるのがPMIの長期的目標」という。「2025年までに、総売上高の30%を無煙たばこにする目標を掲げています。数にして2500億セット。そうなれば、収益の40%を占めるようになります」

新興国市場では通常のたばこのマーケティングが積極的に行われ、当然ながら喫煙者も増加している。「アイコスを新たなユーザーではなく、現在の喫煙者に向けてアピールしていく」と同氏。

「もしあなたが健康への影響を深く憂慮しているのであれば、たばこをやめるべきです。やめない人たちは、より害の少ないたばこに切り替えることに強い興味を抱くでしょう。完璧に安全な製品はありませんから」。

「今の世界にはあり余るほどの喫煙者がいます。我々は喫煙者を増やそうとしているのではありません。それは正しい活動ではない。新たな喫煙者は、もう必要ないのです。喫煙者を無煙たばこに替えさせることは、社会に広く貢献する機会。我々のビジネスを理にかなうものにするのです」。

こうした活動を促進するために、「新製品に合った法令に変えていく運動が必要」。「我々は今、喫煙体験の再現を試みているのです。本物のたばことは違います。喫煙者を無煙たばこに替えさせるには製品のメリットを訴える必要がありますが、ほとんどの法令がそれを禁じています。こうした法令の多くが1990年代に草案され、アイコスのような製品は考慮されていないのです」。

法令を変えるためのロビー活動や、既存の枠組みの中で効果的なマーケティング活動をするには、「コミュニケーション業界の人々ともっと密に仕事をする必要がある」。

「クリエイティブコミュニティには重要な役割があると考えています」。同氏はカンヌで存在感をアピールした理由をこう語る。「(クリエイティブコミュニティは)常に社会的変革の最前線にいます。それゆえカンヌでの企画を試みました。消費者のメンタリティーを変え、通常のたばこに馴れた喫煙者を変えるのは重要なテーマ。だからこそ我々は、クリエイティブコミュニティーを協働できるパートナーと見たのです」。

カンヌの主催者はPMIを軽視したが、様々な代理店や持株会社の首脳はPMIと会合を持ったことをCampaign は把握している。ディ・ジョバンニ氏は、たばこ業界が無煙たばこの研究・開発(PMIによれば、そのコストは2008年以来45億米ドル)に積極的で、数多くの科学者を参画(PMI曰く、300人ほど)させていることに一部の人々はまだ懐疑的だったという。

代理店がPMIの求めにどれだけ応じるかは、いまだ不透明だ。IPGのグローバルスポークスパーソンは、Campaignからの問いに答えなかった。オムニコムグループの代理店は、PMIやブリティッシュ・アメリカン・タバコと長年の付き合いがあるピュブリシスやWPPと異なり、近年たばこ会社との個別の関わりを避けきたことで知られる。オムニコムグループのコミュニケーション担当シニアバイスプレジデント、ジョアン・トラウト氏は、同グループには「たばこ会社との協働を禁じる公式の方針はない」という。

他の代理店の意見も様々だ。アイコスがデビューし、たばこに関する法令も比較的緩い東京で活動するある国際的代理店のトップは、「たばこ会社と協働することは原則的にやぶさかではないが、将来的に他業種のクライアントを失う恐れを考えると、やはりオファーを断るでしょう」と語る。

また、ある独立系エージェンシーのトップは「会社の方針に沿って考えれば、たばこ会社をクライアントにすることない」とコメント。「既に打診を受けましたが、消費者にとって明らかに良くないものをプロモーションするため、我々のリソースを使うことはできないのです」。ただし、こうも付け加える。「無煙たばこによるイノベーションに興味がないわけではありません。果たしてそれが状況を変られるか疑問ですが、ピッチを聞くことはやぶさかではありません」。

つい最近日本法人を設立した、スポーツやエンターテインメントを手がけるユナイテッド エンターテイメント グループ(UEG)の文原徹マネージングディレクターは「たばこ会社を受け入れる」と語り、「スポーツに関連する業務との利益相反はない」とも。「アイコスは市場の中で興味深い製品。今ある制約の中でプロモーションを展開するには、クリエイティブ思考が必要でしょう」。

代理店にとって、アイコスのようなクライアントを持つことがヘルスケア企業との関係を脅かすかどうかはいまだ判然としない。現在のところ、ヘルスケア企業はこの話題をあまり取り上げたくないようだ。Campaignは世界の8大製薬会社のグローバルスポークスパーソンにコメントを求めた。その中でバイエルだけが、第三者のサービス提供者に関する選考基準を語ったが、ロシュとメルク、ファイザーはコメントを拒否。ジョンソン・エンド・ジョンソン、ノバルティス、バイエル、GSK、サノフィからは回答がなかった。

バイエルのコミュニケーションビジネス・パートナーを務めるエリアナ・クラウシウス氏は、電子メールを通してこのような回答を寄せた。「我々がサービス提供者を選ぶ際には、倫理や環境、社会、経済的な規範に照らし合わせ、サービスの安全性や財政的貢献度、質的要件を考慮します。提供者のマネジメントにおけるサステナビリティは、環境や社会、倫理的基準に則って提供者と事業を行う我々の方針に沿うものであり、重要な要素です。我々と協働する広告代理店が特定の取引先や製品をどのように定義するかは、我々の関知するところではありません」。

無煙たばこに関する見解はまだまとまっておらず、PMIは将来におけるパートナーに製品のクオリティーを証明していかねばならない。それにはまだ時間がかかるだろう。

「多くの企業が我々に対して懐疑的なのは理解できます」とディ・ジョバンニ氏。「我々は喜んで精査を受けますが、どのような結論であれ、喫煙者を重んじ、科学と現実を踏まえたものであってほしいと願っています」。

この記事は8月25日に更新されました。

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:水野龍哉)

提供:
Campaign Japan

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