カンヌライオンズで、フィリップ モリス インターナショナル(PMI) がGoodトラック(主催者によれば「前向きな変化を推進する」活動を評価する賞のカテゴリー)に入れられ、批判が巻き起こっている。大手たばこ会社であるPMIは、インドネシアとイスラエルで新しいたばこブランドを立ち上げ、そのキャンペーンを行っていることが分かったからだ。
各国の公衆衛生システムの改善を支援し、エージェンシーに「大手たばこ産業から手を引くよう」求めているコンサルティング会社、バイタルストラテジーズ(本拠地ニューヨーク)は、セサミストリートやUN Women(ジェンダー平等と女性のエンパワーメントのための国連機関)、グリーンピースなどとともに、カンヌライオンズのGoodトラックにフィリップ モリスを入れたことは「良く言って理解に苦しむ。悪く言えば、極めて問題」と語った。
「カンヌの主催者たちは一体何を考えているのでしょうか」と、同社シニア・バイス・プレジデントのサンドラ・マリン氏。「PMIなどのたばこ会社は、世界で年間700万人以上を死に追いやっています。PMIの主な目的は相変わらず、子どや女性、そして環境にも害を与える製品を市場に出すこと。それなのにGoodトラックに選ばれるなんて、本当に皮肉です」
「カンヌでのPMIの活動は当然のことながら、評判のよくない企業が時流に乗り遅れず利益を上げ続けるため、巧妙に計算した上でのもの。PMIは『煙のない社会』の実現に向け、良心に基づいた信頼の刷新というミッションを掲げ、マーケティング戦略としています。その一方で、2019年には計8000億本のたばこを世に送り出している。空疎なレトリックであり、健康を軽視していることの証です」
「カンヌの主催者が、PMIのトリックにまんまとひっかかっているのは残念。同社は社会的利益の対極にある企業。青少年相手にたばこを推進し、味つきたばこを売り、学校付近でたばこの販売を積極的に行っているのです」
PRWeek(Campaignの系列メディア)はカンヌライオンズの主催者に、なぜPMIをGoodトラックに入れたのか質問したが、期限までに回答を得ることはできなかった。
PMIは、カンヌライオンズでトークセッションに参加したり、自由に立ち寄れる大きなラウンジを設置したことの正当性を主張。自社がGoodトラックに入れられていたことは知らなかったとし、たばこの代替品について議論をすることがカンヌ参加の目的だったとしている。カンヌでは大規模なブランディング活動は行わなかったが、女優のローズ・マッゴーワンなど有名人を招いた。PMIは昨年も、カンヌで大規模な野外スペースを設けている。
同社の「煙のない未来を」というスローガンは偽善的だと禁煙推進団体は主張したが、これに対して同社は、ニューヨーク・ポスト紙に広告を出した。
広告はこのように述べている。「当社は、喫煙をする10億の人々の生活を変えたいと願っています。当社がカンヌライオンズに参加したのは、最もすぐれたクリエイティブの人材や最高のプラットフォームにインスピレーションを得てもらい、このミッションに参加してもらうため。我々だけでは実現できないのですから」
「残念なことに、NGOの中には、喫煙者のためのより良いソリューションについて話し合うことをよしとしない向きもあります。むしろ、当社を含め、オープンな姿勢でカンヌに参加している人や団体を怖がらせるべく、誤った考えを広め、この社会問題についてのオープンダイアローグ(開かれた対話)をことごとく阻止しようとしているのです」
フィリップ モリスは「煙のない社会」のマーケティングに多額の投資を行い、喫煙者を通常のたばこから加熱式たばこ「アイコス(IQOS)」(同社によれば通常のたばこに比べて健康への害がはるかに少ない)に切り替えさせる戦略を展開している。
だが一方で、たばこ販売に関する規制が緩いイスラエルやインドネシアなどでは、通常のたばこの販促活動をしている。
NGO団体「Campaign for Tobacco-Free Kids(子どもの喫煙被害をなくすキャンペーン)」によれば、フィリップ モリスはイスラエルでマルボロの価格を引き下げ、「You Decide(決めるのはあなた)」キャンペーンを展開している。インドネシアでは、有名リゾート地のバリなどで、若いモデルを起用したビルボード(看板広告)による販促キャンペーンを行っている。また最近現地では、新ブランド「フィリップ・モリス・ボールド」をローンチしたばかり。大きなビルボードやテレビ広告などで宣伝している。
(文:アーヴィンド・ヒックマン 翻訳・編集:田崎亮子)