既存の企業向けマーケティングテクノロジーはコストがかかり、欠点も多い −− それを克服しようと、R/GAがクライアントに向けた新たなプロダクトを開発した。小規模に展開する多くのテクノロジープロバイダーの中から、より効果的なコンテンツとCRMを提供できるプロバイダーを選び出すというもの。
この「リーンエクスペリエンススタック」は当初、ヘアケアブランド「資生堂プロフェッショナル」のために編み出された。目的は、同社製品を使った正しいトリートメントをヘアスタイリストに伝えるための、リコメンデーションエンジンの構築。だが、そのソリューションには「600万米ドル(約6億6000万円)の費用と18カ月の準備期間が必要だった」(R/GA APACエグゼクティブテクノロジーディレクター、アントニー・ベーカー氏)
アドビ(Adobe)やセールスフォース(Salesforce)などが提供するコンテンツとCRMはコストと時間がかかるだけでなく、「画一的なものでした」。
「ほとんどのソリューションは建売住宅を丸ごと一軒売るようなもの。我々の構築したソリューションは、いわば『レゴ』です。すべてのピースが互いに関連性を持っている」と同氏。「大企業から視点を外して業界を見渡してみると、世界の様々な地域で多くのスタートアップがイノベーションを生んでいることが分かる。ヘッドレスCMS(コンテンツマネジメントシステム)であれ、コンピュータビジョンのプラットフォームであれ、サーバーレスのクラウドであれ、これらは顧客行動にリアルタイムで反応できるものです」
R/GAのアプローチは、クライアントが本当に必要なソリューションを実行できるよう、コンテンツマネジメントやアセットマネジメント専門の小規模プロバイダーを複数選び出す。資生堂プロフェッショナルに関しては、コンテンツとアセットライブラリをアジア太平洋の全域で統合、どこでもリアルタイムで編集や公開ができる新たなプラットフォームに作り変えた。
R/GAがこれまで選んだテクノロジープロバイダーは、ヘッドレスCMSプラットフォームの「コンテントフル(Contentful)」や「プリズミック(Prismic)io」、クラウドベースのイメージ・動画マネジメントサービスの「クラウディナリー(Cloudinary)」、コンピュータビジョンのプラットフォーム「クラリファイ(Clarify)」、クラウドプロバイダーの「AWS」など。
これによって迅速な対応だけでなく、運営コストの削減も可能になった。テクノロジープロバイダーの多くは、クライアントが使用した分だけを請求するシステムだからだ。
「美容業界のトレンドは急速に変化している。その最前線にとどまるには、迅速に対応できるコネクテッドプラットフォームが必要でした。R/GAは我が社のデジタルイノベーションプラットフォームを強化するため、迅速に対応できるエコシステムを構築してくれた。その結果、何千というヘアスタイリストがより迅速かつシームレスに美を創造し、自己表現できるようになったのです」(資生堂プロフェッショナルVP兼グローバルブランドディレクター、クローディア・キム氏)
R/GAは今後、このアプローチをアジア全域で他のクライアントに推進していく予定だ。
「今の企業にとって最も必要なのは、『レイヤー』を薄くした形での統合。新たなソリューションを導入し、それらをカスタマイズされたレイヤーの中で一体化することが重要です」とベーカー氏。
ただし、このアプローチは「企業向けソリューションに取って代わるものではない」とも。「クライアントが持つ既存のプラットフォームと重ね合わせ、ギャップがある所に必要なパートナーを加えていくもの」。
より効果的なテクノロジーを見出すというのは決して新しいコンセプトではないが、「迅速かつ柔軟にそれを実行するエージェンシーやコンサルティング会社はまだ稀です」。
「今でもソリューションの実現まで2年かかるようなコンセプトがまかり通っているのですから」
(文:ジェシカ・グッドフェロー 翻訳・編集:水野龍哉)