第2オフィスの指揮を執るのはマーク・ウェセリング氏とジャン・フランソワ・テリー氏だ。
オランダ出身のウェセリング氏は、2007年にマイケル・シタール氏と東京でUSNをオープンした共同創業者で、現在は同社の取締役だ。2008年に入社し、今年から代表取締役を務める村上智一氏と共に、経営の舵取りに注力している。
USNのキャッチコピーは「東京、原宿にあるクリエイティブエージェンシー」。独立系や外資系のエージェンシーにとって、国内の大手広告会社との熾烈な競争を強いられる厳しい日本の市場において、同社はデジタルエージェンシーとして高い評価を得ている。
ウェセリング氏は東京とシンガポールを行き来しながら、両オフィスを運営することになる。
シンガポール人のテリー氏は、ブランドと戦略を担当。ハイパーアイランドでデジタルメディア・マネジメントの修士号を取得しており、カイル(Cheil)やBBHといったエージェンシーで働いた経験がある。
「クリエイティブの限界に挑戦したいと考える若く才気あふれるクリエイターたちと共に、USNは今後数カ月にわたって、チームの規模を拡大していく予定だ」とウェセリング氏。年内に4~5人のスタッフを確保しながら、「オフィス内の空気を常に新鮮に保つために」フリーランスのクリエイターと組んだり、東京とシンガポールのスタッフを入れ替えることも考えている。
シンガポールオフィスの最初のクライアントについては、秘密保持契約のため詳細を明かせないとしながら、「数社のパートナーのキャンペーンに取り組んでおり、6月中旬には発表できるだろう」と同氏は話す。
東京オフィスではハイネケン、レッドブル、アシックス、ナイキ、Miniなどをクライアントに持つUSNが、東南アジアにオフィスをオープンすることは「理にかなっている」とウェセリング氏。シンガポールオフィスのクライアントは、グローバル企業と日系企業の両方となるが、特に日系ブランドのアジア展開に大きな可能性を感じ、注力していくためだ。
テリー氏はシンガポールにおけるUSNのポジショニングについて説明する中で、東南アジアで生まれたクリエイティブな作品の多くが「いまだに昔ながらのスタイルだと感じた」と話す。
「多くの国々で、技術は持て余されているようです。技術と創造性が融合した作品はまだまだ少ないですね」
また、ウェセリング氏は、引き受ける仕事を厳選しながら、新興企業や起業家と協働していくことを楽しみにしている。「経費をまかなうためだけの仕事」は避けたい方針だ。
「私が広告界にいる理由は、コミュニケーションを楽しくて美しいものにしたいからです。多くのエージェンシーが、言われるがままに仕事をこなすことに終始している。でも、私たちはバナー広告の制作会社やプロダクションにはなりませんよ。収支報告書の作成のためにわざわざマッキンゼーに依頼する人は、誰もいないでしょう?」
ウェセリング氏は、東京とニューヨークにオフィスを持つPARTYが、日本におけるクリエイティブのレベルを引き上げた、と讃える。その高いクリエイティブ力には嫉妬さえ覚えたほどだという。
今後の新オフィス候補地としてジャカルタ、バンコク、香港、アムステルダム、ロンドンを挙げるUSNの、海外進出の野望はまだまだ続く。