実際にキックボクシングが行われている会場で、DV根絶を訴える −− 電通タイランドがやや刺激的な「ライブ公共広告」を行った。プロの試合を見に来た観客の前で、突如としてリングに上がる「夫婦」(動画上)。ゴングが鳴り、妻は夫から一方的に暴力を受ける。戸惑い、怒号を飛ばす観客。
「観客は皆、本当にキックボクシングの試合を見に来た人たち。誰もこのような『試合』があるとは知りませんでした」。電通ブランドのエージェンシー(Dentsu Brand Agencies)アジア太平洋地域チーフ・クリエイティブ・オフィサー(CCO)のテッド・リム氏はこう話す。
だが、リングに上がったのは実際の夫婦ではなく男女の役者。「DVは公共の場でも家庭内でも決して受け入れられない」 −− ウィメン・アンド・メン・プログレシブ・ムーブメント・ファウンデーション(WMP、男女進歩運動基金)のメッセージを伝えるため、DVを再現したのだ。
「金曜夜に行われたキックボクシングの会場で撮影しました。当日は6試合が予定されていて、この『デイリーファイト(日常の戦い)』は3試合目。プロモーターは我々のアイデアに全面的に賛同してくれ、できることは何でもすると約束してくれた。ですから観客もその反応も、100%リアルなものです」(電通タイランド、ジョン・チャルーンウォンCCO)
WMPは国際女性デーに合わせ、この動画をフェイスブックとユーチューブ上で公開。同基金は2017年にも、メッセージ発信の際にボクシングを題材に取り上げている(この時はジェイ・ウォルター・トンプソンと協働)。
Campaignの視点:
実際のキックボクシング会場で撮影した点が素晴らしい。もし観客が役者だったなら、このようなインパクトは出せなかっただろう。夫婦を演じる役者の演技力も秀逸。DVを見慣れているはずの観客に、芝居ではないと信じ込ませたのだから。驚くのは、観客が誰一人としてリングに上がって男を制止しようとしなかったことだ。
(文:マシュー・ミラー 翻訳・編集:水野龍哉)