マッキャンエリクソンのプランニングディレクター、藤田正裕氏については3年前に本誌でご紹介した。
ALSに対する認知を広めようと、自身が写生のモデルとなったイベント。一切動くことができない身体を公にさらす勇気ある決断は、衝撃に近いインパクトを多くの人々に与えた。以降、毎年6月21日の世界ALSデーに合わせて開催されている。
現在、ALS患者は世界に40万人、日本に約9,200人。藤田氏は2010年に発病し、その翌々年に一般社団法人「END ALS」を設立、この病気に関する世間の啓発に努めてきた。
2013年に気管切開で声を奪われてからは、視線入力装置を通して目とその瞬きで他者とのコミュニケーションを取る。だがALS患者の約1割は視力をも失うとされ、今はその恐怖と闘う日々を過ごす。
折しも、クリスマスを迎えて街が華やぐ季節。同氏にも皆と同じように、多くの友人たちと賑やかで楽しいクリスマスを過ごしてほしい −− そんな思いから発案されたのが今回の取り組みだ。自宅に飾り付けられたイルミネーションは同氏の脳波によって作動。装飾を担ったのは日本映画美術界の第一人者である種田陽平氏、演出は映像作家の柿本ケンサク氏。いずれもボランティアとしての参加だ。
このテクノロジーを考案したのはマッキャングループのプロダクト・イノベーション・スタジオ「LAB13」。ニューロスカイ社が開発したEEGバイオセンサーを活用した。脳波を少しでも意識的に操作できるようにと、同氏にとってのトレーニングの意味合いも兼ねている。
Campaignの視点:
深刻な題材を、一般の人々にとっていかにアプローチしやすいものにするか −− この取り組みが背負う命題も、重い。言うまでもないが、啓発に肝要なのは「継続」であり、関わるスタッフの善意と熱意は広く賞賛されてしかるべきものだ。若い世代にもALSに対する認知を広げるべく、クリスマスという誰にとっても身近なイベントと結びつけた点は出色だろう。
END ALSのウェブサイトにもあるように、海外では未承認の治療薬で回復を遂げたALS患者がおり、日本でも今年3月、京都大学iPS細胞研究所のチームによって既存薬を使った第1相の治験(3段階で行われる治験の第1段階)が開始された。今後は是非、こうした医学的情報の普及にも努めてもらいたい。大きな希望を世間に示すことは、さらなる啓発につながると確信する。
(文:水野龍哉)