ロンドンに拠点を置くソーシャルメディアエージェンシー「ウィーアーソーシャル(We Are Social、以下WAS)」が、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)をアンカークライアントに日本で事業を開始する。
クリティカルマス (Critical Mass)社のアカウントディレクターだった戸野真維(まさゆき)氏が東京事務所のマネージングディレクターに就任。WAS北アジア担当マネージングディレクターのピート・リン氏(在中国)によれば、これまでに3名のスタッフを確保、あと2名を雇用する予定だという。「現在はクリエイティブディレクターの候補者と交渉中。もう1名はデザインのバックグラウンドを持つ人材を求めています。コアのチームは日本人で編成しますが、必要に応じて海外事務所と連携していきます」。
これまでWASは日本関連の仕事を電通に委託してきたが、「今後は日本市場で独自の活動をしていく」とリン氏。同社の事業の中核はインフルエンサーマーケティングだ。
日本企業はソーシャルメディアにかける予算が比較的少ない。「東京事務所もソーシャルサービス主導で運営していきますが、PRやマスメディア広告といったサービスも提供していく」(リン氏)。事業の大部分はインフルエンサーマーケティングになろうが、バーチャルユーチューバーやVチューバーといった成長分野にも強い関心を示す。
また、国際ブランドの日本関連事業のサポートをする一方、中国で確立させた地位と経験を生かし、中国市場に狙いを定める日本企業のサポートも行っていく。中国事務所には110人のスタッフがおり、22社のクライアントと長期にわたる関係を築いているという。
「中国市場はデジタルエコシステムや国の規制、変化のペースなどが独特で、外部の者にとって理解しにくい」と戸野氏。その一方、「日本企業は中国市場での成長をより真剣に考えるようになってきています」。更に訪日中国人は依然として増加傾向で、多くの中国人は日本製品の方が中国製品よりも優れているという印象を抱く。日本製品へのニーズは大きいのだ。
「こうした状況は中国市場に進出しようという日本企業にとって大きなアセットの一つ。この評価は生かしていくべきです」
「以前は日中間に政治的摩擦が起きると、中国政府は日本企業をターゲットにした。だが今は、日本は敵ではありません。尖閣諸島を巡る領土問題は日本とのビジネスに直接影響を及ぼしましたが、そうした方針を政府は改めたのです」(リン氏)。
「今の中国の敵は米国です。中国政府の関心はかつての日本との緊張状態からシフトした。今はいかにトランプ(大統領)を打ちのめすかが問題なのです」
加えてWASが日本で成長を狙う分野がモバイルだ。リン氏は中国ブランドに大きな成長機会があると考えている。以前は日本の消費者は中国ブランドに好意的な印象を抱いていなかったが、「その傾向は変わりつつあり、特に若い世代はブランドの発祥国を気にしなくなった。製品の良し悪しだけで判断するようになりました」(戸野氏)。
近年、中国から外国人が流出し、中国政府は企業の外国人労働者を制限する。このため、「英語のコピーライティングといった分野で問題が生じている」(リン氏)。一方で日本は外国人材の受け入れに積極的で、「冒険心に富んだ若い労働者たちにとって魅力ある移住先になりつつある。中国企業は日本での外国人材の採用を考えるようになりました」。
「(アジアが拠点のブランドにとって)スタッフに海外でコンテンツ制作をさせるのなら、ロンドンよりも東京の方がはるかに遠隔操作が容易ですから」
(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:水野龍哉)