新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが長引くなか、マーケターはいかにしてブランドを維持するかを模索している。かつてはアップルの、そして現在はグラフィックデザインプラットフォーム、キャンバ(Canva)のエバンジェリストであるガイ・カワサキ氏は、今行っていることを継続することや、この困難な時間を使って製品ラインを合理化することなどを提案している。
マーケティングとブランディングのカンファレンス「マーケティング・パルス・オンライン」に登壇したカワサキ氏は、この時期に自らを鍛え直し、新しい時代の顧客とのコミュニケーションを学びながら、デジタルの未来に備えようとするマーケターに対し、アドバイスを贈った。
カワサキ氏が参加者に語った10のアドバイスを以下に紹介する。
1. マラソンではなく、十種競技のつもりで備える:ワクチン接種の拡大やトラベルバブル(2国間相互の自己隔離免除)の話に歓喜している人がいるかもしれないが、日常に戻るまでには長い時間がかかるとカワサキ氏は指摘し、こうアドバイスする。「ひとつのことに満足してはいけない。さまざまなことを向上させる必要がある」
2. 確かな収入源を育てる:どんな会社の製品ラインにも、最新の状態を維持するためにそれほど多くの投資を必要とせずとも、事業を継続するための価値あるキャッシュを生みだすものがある。たとえば、アップルは安定収益をもたらす「Apple II」シリーズを育てて、革新的な「Macintosh」シリーズの投入資金にあてた。「キャッシュは全てであり、マーケティングの観点では生死を左右する」
3. ぜい肉を落とす:「マーケティングプラットフォームやマーケティングミックスから機能していないものを取り除くべき時があるとすれば、まさに今がその時だ」
4. 直接ビジネスを行う:パンデミック時にマーケティング担当者が直面する問題は非常に多い。リセラーが営業活動を行えなかったり、倒産したりする可能性もある。自社製品がオンラインカタログ企業から蔑ろにされるかもしれないし、さらに言えば、コンテナ船がスエズ運河で立ち往生し、世界の貿易が停滞することだって起きる。Merge4のソックスの例を考えてみよう。これは主に米国のサーフストアで販売されていたが、パンデミックによって事業が大打撃を受け、軸足を移そうとしたオンライン小売業者からはあまり評価されなかった。それでも、消費者への直接販売に転換することで生き残ることができた。
5. データベースを活用する:D2C(Direct-to-Consumer)ビジネスに乗り出すと決めたら、顧客データベースを駆使して成功の可能性を高める必要がある。「私ならば、ソーシャルメディアのフォロワーよりもメールアドレスを手に入れたい」
6. 提供物をシンプルに:パンデミックが始まった時、カワサキ氏は90日間家から出ず、ピーナッツバターなどのごく基本的な商品の買いだめをオンラインの配送に頼っていた。実店舗では選択肢が多くても、インスタカート(Instacart)で買い物をすると、配達されたのは(いつもと違うブランドの)ピーナッツバター2パックだけだった。しかし「どんなピーナッツバターであれ」手に入っただけありがたいと感じたという。この一件は、万人受けのために高いコストをかけて過剰な品数を取り揃えるより、むしろ消費者のために選択肢を絞ることの利点を示している。
7. 非常時と平時のハイブリッドモデルに対応する:マーケターはワクチン接種で平時のビジネスに戻れると熱狂しているが、企業はハイブリッドモデルを選択する可能性のほうが高いとカワサキ氏は警告する。
8. 逆向きに考える(目指す未来から、今行うべきことを導き出す):「多くの企業は、パンデミックの有無にかかわらず、今行っていることや今できることから、将来に向けた戦略を立てている」とカワサキ氏は指摘する。「もしコダックが逆向きに考えていたなら、将来、自分たちは化学製品のビジネスをしているのではなく、思い出を作るビジネスをしているべきことに気づけただろう」
9. マーケターは問う必要がある:では、何を問うのか。自分の業界やセグメント、市場に影響を与えるトレンドを考えてみよう。マーケティング担当者は、顧客が何を求めているかを逆向きに考える必要がある。将来の教育現場は、すべての教室がバーチャル化されているだろうが、学校や保護者が本当に必要としているのは何かと問いかけてもいい。あるいは、スマートフォンの高性能化(処理能力と接続の高速化)を予見できていたから、インスタグラムのような大人気のベンチャーが成功したと言えるかもしれない。
10. ユニークで価値のあるビジネスを構築する:「iPod」を考えてみよう。発売当初から携帯性に加え、「誰でも操作できる」インターフェースを備え、豊富な楽曲を99セントという手頃な価格で購入できる点で非常にユニークだった。対照的に、オンラインフードデリバリーのようなビジネスは、ほとんど差別化要因がなく、生産性が低いことで、マーケティングに苦労している。「牛肉の缶詰1つを届けるのに、配送業者が運び、配送先で誰かが荷物を受け取らなければならない」のだ。