Erik Jenkins
2016年5月10日

ソーシャルコンテンツの効果的な活用には、マインドセットを変えることが必要

マーケティングとは、消費者とのコミュニケーションを確立するために、アートとサイエンスの適切な配合を見つけ出すことだ。ただし、アートとサイエンスの正しいバランス配合は、昔の方がずっと簡単だった。

エリック・ジェンキンス氏
エリック・ジェンキンス氏

これまでは、コミュニケーション・チャネルが限られていたので、消費者へのリーチは単純だった。また、テクノロジーやイノベーションを牽引するのはブランドの役目で、文化的進化の中でおこる変化や、消費者の会話をリードしてきたのもブランド側だった。

ところが、それが一変した。

コミュニケーション・チャネルが広がり、ソーシャルメディアやデジタルメディアが登場した。コミュニケーションの量が増えたばかりではなく、消費者が、いつ、どのようにコミュニケーションをとるか、という傾向も大きく変わった。それに伴って、消費者がブランドに期待するコンテンツの種類も変わってしまった。消費者は、マーケティング活動サイクルに合わせて発信される「クリエイティブアイディア」ではなく、リアルタイムで行われる、本物の会話を求めるようになった。 

事実、消費者の66%が、ソーシャルメディアで投稿した質問に対して、1時間以内の回答が当然だと考えている。また、その回答が、彼らの生活に関連性があり、意味のあるものであることを期待している。

この変化により、コミュニケーションにおける従来のルールは通用しなくなり、前述のアートとサイエンスの新たなバランス、新しいマーケティングが求められるようになった。皮肉なことに、この進化が、消費者とのつながりや、ブランドの成長を担うマーケターたちを苦しめている。リソースをどこに投資すべきか、どのように成功を判断するか等、企業はジレンマを抱えている。 

結果として、マーケターは、大きく2つのタイプに陥っているように思われる。 

トラディショナル(従来型)マーケター - ソーシャルメディアを行動ではなく、チャネルの一種として捉えるタイプ。トラディショナルマーケターは、マーケティング活動とは、コンテンツの配信であって、ソーシャルメディアは、むしろ邪魔な存在で、エンゲージメント機会だとは捉えていない。従来型のマーケティング手法を続けることで、必要なリーチの量に達することができると考えている。

ソーシャルメディアマーケター - ソーシャルメディアだけを駆使した戦略に集中し、包括的なマーケティング手法やコミュニケーション確立には興味がないタイプ。ソーシャルメディアマーケターは、ブランド戦略やクリエイティビティ、ストーリーテリングよりも、テクノロジーを優先しがちで、最新プラットフォームの目新しさによって、ブランドのビジネス的な成功を測る傾向がある。

マーケターは、「従来型 vs ソーシャルメディア」のどちらかに偏るのではなく、ソーシャルメディアによって便利になったこの世界で、消費者とつながる最善の方法を模索するべきだ。なぜなら、ブランドよりも先を走っている消費者を相手に、ブランドはその存在感を保ちつつも、一定のビジネスの結果を確保しなければならない。 

念のため付け加えるが、すべてのソーシャルメディアを駆使して、コンテンツの大量露出を実行すべき、と言っているわけではない。そんなことをしても、コンテンツの存在感は希薄化し、意味のない接点が増えてしまい、時間とリソースを無駄に費やすのが関の山だ。下手をすると、信憑性にかける、あるいは意味の無い情報だと思われ、ブランドの価値や消費者を失うはめになりかねない。

それよりも、マーケティングプランに組込み済みのプラットフォームに合わせ、適切かつ機転の利いたコンテンツを制作するアプローチを推奨したい。その取組みは、早いに越したことはない。ブランド、ビジネス、そしてレピュテーション(評判)の構築に焦点を置いたコンテンツ戦略は、コンテンツ制作を加速するからだ。既存のコンテンツを単純にソーシャルに流用するだけでは、リーチをさらに拡大するための追加措置でしかないことが、すぐにばれてしまうだろう。

ブランドが、リアルタイムのコンテンツ制作プロセスを、何と呼ぶかは重要ではない。「コンテンツ・スタジオ」、「ブランド・ニュースルーム」、または伝統的な「コミュニティ・マネージメント」などの例があるが、本当に大事なのは、「Content is King(コンテンツは王様である)」なのは、そのコンテンツが最適なタイミングで露出された場合のみである、ということだ。

だからこそ、マーケティング活動は、常にブランド戦略、そしてビジネスアンビションの設定から開始するべきで、同時に、コミュニケーション上の各タッチポイントでの関連性を確保するために、消費者のインサイト(思考や行動)も取り込むことが必要だ。それによりブランドは、オーガニック、あるいは有料を駆使したコンテンツ、消費者へのリーチやエンゲージメントを促進するコンテンツカレンダーを構築することが可能となる。

そうすれば、ブランドは時流に乗り遅れることなく、包括的なコミュニケーション戦略に統合されたコンテンツを発信しながら、消費者との関係を深めていくことができる。

エリック・ジェンキンス氏は、オグルヴィ・アンド・メイザー・ジャパンのSocial@Ogilvy代表を務めている。

 

提供:
Campaign Japan

関連する記事

併せて読みたい

3 日前

世界マーケティング短信:米司法省がグーグルにChrome売却などを要求

今週も世界のマーケティング界から、注目のニュースをお届けする。

2024年11月20日

トランプ再選 テック業界への影響

トランプ新大統領はどのような政策を打ち出すのか。テック企業や広告業界、アジア太平洋地域への影響を考える。

2024年11月20日

誰も教えてくれない、若手クリエイターの人生

競争の激しいエージェンシーの若手クリエイターとして働く著者はこの匿名記事で、ハードワークと挫折、厳しい教訓に満ちた1年を赤裸々に記す。

2024年11月15日

世界マーケティング短信:化石燃料企業との取引がリスクに

今週も世界のマーケティング界から、注目のニュースをお届けする。