ブルーカレント・ジャパンのマネージングディレクターを務めていた本田哲也氏が、新会社「本田事務所」を設立するために離職した。
同氏はコミュニケーションコンサルティング企業フライシュマン・ヒラード・ジャパン(ブルーカレントの親会社、以下フライシュマン)に20年間在籍。そのうち13年を自身が立ち上げたブルーカレント・ジャパンの代表取締役として過ごした。新会社では「今の日本に欠けている戦略PRのコンサルティング」を推し進めていく。
「エグゼキューションは行わず、PRストラテジーに特化していく」と同氏。一方で、プランを実行する際のディレクションや、広告代理店・PR会社など第三者によるプランのサポートも行っていく。
また、フライシュマンとの関係も継続。ブルーカレントのシニアストラテジストとして、引き続きコンサルタントの職責を果たしていく。ブルーカレントの運営はフライシュマン代表取締役社長の田中愼一氏が担っていく予定。
新会社に所属するのは本田氏と、同氏の妻でサイバーエージェント(無料インターネットテレビ局Abema TVを運営)の広報責任を務める上村嗣美氏。クライアント企業の名は明かさなかったが、現在大手製造メーカーやアパレル企業約10社と協議が進行中という。
今後は個人的ネットワークを生かし外部の幅広い人材と協働、各クライアントに応じた最適のチームを編成して業務にあたっていく。「効果的なPRを行うのに大切なのはPR会社の選択ではなく、個人の能力です」。
日本では会社員の自社に対する忠誠心は比較的高いが、PR会社の離職率は高い。若手社員が過剰な仕事量を嫌ったり、より大きな裁量権を求めたりという理由でインハウスに職を求めるケースがしばしばだ。
「クライアントの考え方は数年前まで非常に保守的だった。大手代理店1社に全てを任せておけば安全、という考え方でした。もちろん今もそう考える企業はあります。しかし大方は、仕事に適したベストのチームを作ろうという思考に変わりつつある。クライアントは代理店の担当者が周期的に変わることにうんざりしています。人材の新たな選び方があるはずだ、と」。それでも本田事務所はこれまで通り代理店と協働し、直接的な競合はしないという。
ではなぜ今、新会社を設立するのか。「日本のPR市場が成熟し、PRの専門家は10年前よりずっと高く評価されるようになった。日本という広告中心の市場では、PRは比較的新しい領域ですから」。
同時にPRはいまだ総合的な戦略プランがなく、短期的な取り組みになりがちだという。「『我々にはPRが必要だ。PRエージェンシーを使ってPRストラテジーを練ろう』とCEOやCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)が言っても、彼ら自身がPRストラテジーを理解していないことが多い。そして結局はストラテジーとは無縁の、プレスリリースを発信するだけの人間を雇うことになってしまうのです。こうした人材が役に立たないわけではないですが、企業幹部と現場とのギャップは大きい」。
また、企業が社内に「PR思考」を育めるようなサポートもしていきたいという。つまり、広告を含めたコミュニケーションの中核にアーンドメディアの活用を据えることだ。「PR主導のストラテジーとPRエグゼキューションはまったく異なるもの。PR主導のアイデアは総合的なキャンペーンの核となり得るのです。クライアントは早期の段階で、こうしたアイデアを議論に取り入れたいと考えている」。
結局、「今の日本のPR業界に必要なのはより多くの『建築家』です」。本田事務所が注力していくのはまさしくこの点だ。「建築の世界ではプランが独創的であっても、実際に建設業者が建てることができなければただの夢に過ぎません。現実的であることが肝要です。だからこそ建築家がデザインをし、ディレクションもする。こうしたコラボレーションがPR業界でも求められるようになるでしょう」。
(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:水野龍哉)