David Blecken
2017年6月20日

ブルームバーグ・メディアCEO、メディア企業の将来を語る

テクノロジー企業の躍進が著しいメディア界。既存のメディア企業はこれに対抗するため、どのような戦略が必要なのか。ブルームバーグ・メディアのトップがCampaignのインタビューに答える。

ジャスティン・スミス氏
ジャスティン・スミス氏

ブルームバーグ・メディアのジャスティン・スミス最高経営責任者(CEO)が先週、東京を訪れた。ブルームバーグは最近、ビジネス週刊誌「ブルームバーグ・ビジネスウィーク」をリニューアルしたばかり。同社の最近の動向、そして今日のパブリッシャーや広告主にとっての課題とは何か。テクノロジー企業のプラットフォームが権勢を振るう時代、パブリッシャーが生き残っていくためのカギは「クライアントに対するサービス革新」にあると説く。

ブルームバーグ・メディアはヤフーとパートナーシップを結び、初めての日本語のビデオコンテンツを展開することになりました。その背景には何があるのでしょう?

我々は商業的重要性が高い多くの市場で、現地の言語によるメディア活動に取り組んでいます。特に日本市場は規模が大きくダイナミックで、我々も主要事業を展開しています。ビデオコンテンツを展開する意図は、こうした市場の特性を生かし、ブルームバーグの豊富なデジタルビデオのリソースを活用することです。英語では既に何百万もの人々にリーチしていますが、日本のような市場に進出するにはもっと現地の言語を使用せねばなりません。素材を選んで日本語に翻訳し、それをヤフージャパンや我々の日本におけるプラットフォームで提供していく – それが今回の事業の概要になります。

ツイッターのライブ動画チャンネルも活用していく予定です。どのようなものになるのでしょう?

このプロジェクトにはとても大きな期待をしています。ツイッターは今や世界最大のニュースメディアで、ブルームバーグは世界有数のニュース・情報収集機関と言えます。その2社のリソースが「結婚」するわけです。 ツイッターはユーザーがコンテンツを作るので、「速報性」という意味で優るメディアはありません。ただし問題点は、その内容が事実かそうでないか不明瞭なことです。速報性においては一番でも、きちんと検証されたコンテンツが提供される場にまだなっていないのです。そこに、ブルームバーグのジャーナリスティックな特性が加味される。我々のジャーナリストたちがツイッター上の速報をいち早く検証し、そのコンテンツをパッケージングして発信すれば、ツイッターのスピードとブルームバーグの精度が合体します。今このプロダクトを開発しているところで、今年の第4四半期には配信を始められるでしょう。まずは米国が中心になりますが、他の言語での提供も検討していく予定です。

ブルームバーグの「Trigr(トリガー)」は、世界の出来事や市場の状況に応じて広告主が様々な広告を配信できる新しいサービスです。どれほどの成長を見込んでいますか?

広告主と協力し、世界の出来事に合わせてメッセージを最適化できる仕組みは実に強力です。ジャーナリズムに基づいた市場主導型の組織という我が社の「核心部分」にも直結します。こうしたサービスをブルームバーグが展開するのは理にかなったことなのです。グーグルやフェイスブックとの激しい競争を考えると、広告のイノベーションは今日のデジタルパブリッシャーにとって大切な要素です。両社を「2大独占企業」と我々は呼びますが、アマゾンを加えれば「トロイカ」になりますね。増え続けるデジタル予算の75%がGoogleとFacebookに投下されている今、パブリッシャーやブランドが自らコンテンツを所有し、安全な環境を整えて広告ソリューションを革新していくことは不可欠です。

PwCのデータによると、インターネット広告費がテレビのそれを上回りました。パブリシャーはこれをどう捉えるべきでしょう?

5年前にこの会話が出たとしたら、パブリッシャーは小躍りしていたでしょうね。この数年、従来型ビジネスで多くのものを失ったメディアブランドにとって、デジタルへの移行は勢いや収益を取り戻す素晴らしいチャンスになるはずでした。しかし、ソーシャルメディアやテクノロジープラットフォームの台頭、そしてその2つがデジタル広告のエコシステムに果たす役割などの影響で若干雲行きが変わってきた。「急速なデジタル成長」という大きな希望が奪われてしまったわけです。強力なブランドを持つ多くのメディア企業でも、デジタル収入は失速しています。幸い我が社はこうした事態を回避できていますが、我々の成長を可能にしているのはTrigrやその他の広告におけるイノベーションです。

依然として「ブランドの安全性」は大きな懸念材料ですが、これ以上事態は悪くならないのでしょうか?

今の状況への対応は、若干場当たり的ですね。大型プラットフォームはケースバイケースでこの危機を乗り切ろうとしていますが、問題はより構造的・システム的なものです。メディア企業という意識を捨てて(テクノロジープラットフォームの大半がそうですが)コンテンツの制作や配信をテクノロジーに任せっきりにすれば、悪意を持った人間が必ずシステムの抜け穴を利用し、再び問題を起こします。ですから、今後もより深刻な事態が起こり得るでしょう。フェイスブックは人的作業で品質チェックを行うため、米国で3〜4千人を雇いました(フェイスブックはメディア企業と見なされてないので、彼らはこうした品質管理責任者のことを編集者と呼びません)。これは正しい方向だと思います。しかしながら、ブランドの安全性に対する脅威は深刻かつ現在進行形で、人間の判断よりもテクノロジーを優先させた場合にどのような結果になるか、象徴する事態と言えるでしょう。

これは広告主にとって悪い状況ですが、改善のために業界全体で何に取り組めばよいのでしょう?

最近誰かが「広告主はメディアの良心」と発言しましたが、広告主主導で大きな変化がもたらされるなどと誰も考えなかったので、実に面白い展開になっていますね。例えば、JPモルガンは3万に及ぶプラットフォームを使用していましたが、それを環境の質に基づいて500まで絞りました。それからFOXニュースでは、ビル・オライリー(セクシュアルハラスメントで訴えられていた人気キャスター)が実質的に広告主たちの意向によって番組から降ろされた。彼は経済的損失をもたらす存在になったからです。今後テクノロジープラットフォームは、質の高いコンテンツを扱うプレイヤーともっときちんと付き合っていかねばなりません。つまり、質の高いコンテンツやブランドをフィードに表示したり、様々なアルゴリズムで質の高いジャーナリズムを詰め込んだりするだけでなく、プラットフォームとパブリッシャーの間のより有益な経済的関係性を重視しなければならないのです。

今後はどのようなパブリッシャーが影響力を持つと思いますか?

2種類あります。1つは、これまで購読で大きな収入を生んできた部類のパブリッシャーです。これまでのように広告主に潤沢な広告予算があった時代に比べれば、その規模は小さくなるでしょうが。彼らの市場はニッチなものになるでしょう。総合的な内容のコンテンツを提供し、購読料による収入で利益を生んでいる例はほとんどなく、思いつくのはニューヨーク・タイムズぐらいです。

もう1つは、広告ビジネスをマーケティングサービスビジネスに転換しているパブリッシャーです。オーディエンスとの親和性が高く、そのオーディエンスに合ったコンテンツを作成するための豊富なデータと知識を持つメディア企業は、広告のみならず他のサービスにおいても安定した大きな収入源を確保することができます。これはクライアントにクリエイティブを提供するだけでなく、ブランドコンサルティングやコーポレートコミュニケーションといったバリューチェーンにつなげていくことを意味します。これまで広告代理店やコンサルティング会社が提供してきた分野のサービスですね。我が社はハバス・クリエイティブでグローバルCEOを務めていたアンドリュー・ベネット氏を新たに迎え入れました。彼の使命はブルームバーグをこうした方向に牽引していくことです。核となる広告事業の補完となる、代理店とコンサルティング会社を融合させたハイブリッド型の企業 − 我々はそのように変貌しつつあるのです。

この手の新たなタイプの企業で、最も成功しているのがVice(バイス)です。Viceのモデルは多くの論議を呼んでいますが、ミレニアル世代に訴求したいと考える企業に向けてマーケティングサービス事業を築いたことは特筆すべき点です。これは他の分野にも応用できるモデルではないでしょうか。現時点で我が社はこうした事業を主に米国で行っていますが、将来的には日本やアジア、そして世界各国で展開していく予定です。

(文:デイビッド・ブレッケン 編集:水野龍哉)

提供:
Campaign Japan

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