アジアは、世界最大のビデオゲーム市場で、15億人がPCゲームやモバイルゲームを楽しんでいる。これは膨大な数だが、もはや驚くべきことではない。ほぼすべての人が、単なるゲーム好きではなく「ゲーマー」なのだから。
ゲームには娯楽を超えた魅力がある。ゲーム領域特有の長所に加え、広大ながらリーチの難しいユーザー層に訴求できる。そのため、ゲームはブランドにとっても魅力的な活動の場となってきた。2022年には、ゲーム関連ブランドと非関連ブランドの両方で、業界を主導するような提携が見られた。ゲームを受け入れたマーケターは、未開拓だった顧客層からの購買と認知を獲得し、大きな成功を収めている。
ゲームのオーディエンスは、大半がZ世代で構成されており、そこにアルファ世代が加わる。彼らは、新しい消費行動を生み出し、文化の変革をけん引している世代だ。ブランドがゲームのもたらすメリットを最大限に引き出すためには、この世代が最も大切にしていることに取り組まなければならない。2023年はエキサイティングな年となり、これまでの取り組みがさらに発展する年になるだろう。
キュレーションから離れ、本物を求める消費者
アルゴリズムに支配されたエコーチェンバーの時代は終わり、フィルタリングされていない本物の体験がそれに取って代わった。人々が情報過多の世界を生きるなか、ユーザー生成コンテンツも進化を続けている。今は、フィルターを通さず、本物の生活をありのままに見せるコンテンツが求められている。
ソーシャルメディアの敷居が低くなり、ソーシャルメディア体験がより自由度を増す方向にシフトしてきことで、若いミレニアル世代や、Z世代、アルファ世代は、見栄えばかりを気にする完璧主義を拒否するようになってきた。その代わりに、彼らは純粋な人間関係や本物の体験を選ぶようになった。この傾向が特に顕著なのは、ストリーマー(ゲーム配信者)とフォロワーが会話を繰り広げる、ツイッチ(Twitch)の「雑談(Just Chatting)」カテゴリーだ。
ブランドは、話し方から価値観に至るまで、すべてをありのままに伝えるTikTokやビーリアル(BeReal)のようなプラットフォームを通じて、オーディエンスに語りかけるべきだ。このようなコミュニティの一員となった消費者は、ブランドに信頼感を抱き、関与する可能性が高い。
ダイナミックで、流動的で、コラボレイティブな体験が、ゲームでは重要
文化の変革をけん引しているのはZ世代だ。マーケターは古い教科書を捨て、さまざまな新しいフォーマットを試してみる必要がある。広告付きゲームストリーミングやコラボレーション、そしてコマース、拡張機能、ゲームなどネイティブ世代のコンテンツだ。
IRL(現実世界)とデジタル体験の境界線はますます曖昧になっており、若いミレニアル世代、Z世代、アルファ世代は、この2つの間を自由に行き来している。そして、このことが彼らのコンテンツの消費方法に影響を与えている。彼らは受け身の消費者でいたいとは思っていない。そうではなく、コンテンツの消費と制作、あるいはその両方で物語の一部となることを望んでいるのだ。
ブランドは、この点に細心の注意を払いつつ、ストリーマーと連携したダイナミックなコンテンツ展開を立案するといいだろう。実際、イヴ・サンローラン・ボーテが、ストリーマーと連携して、香水の「ブラック・オピウム・エクストリーム」を訴求したり、バーバリーがマインクラフトと、ラルフ ローレンがフォートナイトと提携して、ファッションコラボレーションを展開したり、といった事例も出てきている。
コミュニティとの共有体験がすべてに優先
ここ数年、人々はオンラインで集い、デジタルでの存在感を拡げている。そのなかで、明らかとなったのは、コミュニティの価値だ。TikTokは2020年から急成長を遂げ、2020年7月から2022年7月にかけて、月間アクティブユーザーが45%増加したと報告している。Twitchも、2021年の視聴者数は2010年の86倍を超え、2021年以降も2020年以前の視聴者数をすべての月で上回っている。
こうしたコミュニティは、ミレニアル世代、Z世代、アルファ世代が、友人と充実した時間を過ごし、新しいスキルを学び、自分の興味や趣味に没頭する場所となっている。また、ディスコード(Discord)やTikTokといったプラットフォーム、世界中で利用可能になったTwitchの「ゲストスター(Guest Star)」の様な仕組みによって、ストリーマー、クリエイター、オーディエンスは、それぞれリアルタイムでつながり、コミュニティで絆を深めあっている。
ライブストリーミングやゲーム、それにこうした仮想空間は、今年もコミュニティや共有体験のハブであり続けるだろう。したがってマーケターは、コミュニティーファーストの取り組みをもっと目にすることになるはずだ。それらの取り組みは、ストリーマーやコミュニティの心をつかみ、本物で魅力的なコンテンツを提供するだろう。
アテンションエコノミーが優先課題に
この数年でデジタル環境は大きく変化し、ブランドやマーケターにとっては、消費者のアテンション(注目)が、効果的に顧客を獲得しマネタイズするための、重要指標(カレンシー)となりつつある。消費者がデジタルに疲れ、デジタル「デトックス」を求めるようになった今、マーケターやブランドに求められているのは、彼らの興味を惹き、関心を維持するための、新しく魅力的な方法を考えることだ。Z世代を中心としたこの層は、2030年までに世界の所得の27%に相当する33兆ドル(約4570兆円)を稼ぐと予測されている。消費者としてますます影響力を高め、ブランドが無視できない存在となるはずだ。
一方、この層を取り込もうとしている広告主やマーケターは、すべてのインプレッションが同じ価値を持つわけではなく、ビューアビリティが必ずしもアテンション(注目)につながらないことを理解し始めている。したがって、今年は、さらに多くのブランドや広告主が、メディア購入の判断にアテンション指標を取り入れて、投資をより最適化しようとするだろう。
本物を伝えるサービスと提携することで、広告主は、テレビに匹敵するほど注目度が高い手段で、若いミレニアル世代にもリーチすることができる。若い世代は従来型のテレビを見なくなっており、アジア太平洋地域(APAC)では、オーディエンスの大半がテレビを1時間以下しか見ていない。あるいは、見ているとしても、テレビ以外のデバイスを使っている。
ライブストリーミングでショッピング番組を提供する場合であれ、シドニーで開催された映画「ブラックアダム」のプレミアイベントのように、レッドカーペット(このときはパープルだったが)に著名なストリーマーを招待する場合であれ、マーケターは、エンゲージメント指標とアテンション指標を重視して、過剰なリーチを補正しようとするだろう。
これから数カ月のあいだに、ゲーム業界に新たな課題とチャンスがもたらされると私たちは考えている。信頼、つながり、コミュニティに焦点を当てたキャンペーンが成功をもたらす鍵となる。
ブランドとエージェンシーにとっては、クリエイターやストリーマーを信頼し、戦略的パートナーシップを築いて、オーディエンスに最適なキャンペーンを提供することが、強固なエンゲージメントと高いコンバージョンにつながるはずだ。今は、ゲーム業界にとって非常にエキサイティングな時代だ。2023年の残りの期間に、どんな素晴らしいゲーム体験が生み出されるのか、とても楽しみだ。
ポール・ネスビット氏は、ツイッチの国際インサイトおよび測定担当ディレクター