ゲーム業界の専門家は、今年はブランドがゲームカルチャーのよりニッチな分野に進出する年になるだろうと予測する。
2022年12月のザ・ゲームアワード(The Game Awards)の視聴者数が1億300万人に達して以来、ゲームと無関係なブランドも、全世界30億人のゲーマーが、オーディエンスとしていかに未開拓であるかに気付きつつある。
ゲーマーは年間を通じて、ザ・ゲームアワードやE3、PAX、複数のタイトルを賭けたEスポーツ大会など、多数のライブイベントに集結している。例えば「ゲームズ・ダン・クイック(Games Done Quick)」は、配信プレイヤーたちがゲームをクリアするまでの時間を競うチャリティイベントで、数百万ドルの寄付を集める。
こうしたイベントには、数百万とは言わないまでも、最低数千人は参加する。例えば、2022年の「リーグ・オブ・レジェンズ」世界大会は500万人が視聴した。「ゲームズ・ダン・クイック」は比較的ニッチなイベントだが、それでも9万人を超える人々が視聴し、260万ドル(約3億4000万円)の寄付を集めた。対面イベントはパンデミックを経て減少したが、マサチューセッツ州ボストンで開催されるPAX Eastには依然として数万人が参加する。
潜在的なリーチは膨大であるにもかかわらず、こうしたイベントのスポンサーはおおむねゲーム関連のブランドに限られている。ゲーム関連製品を販売しているレーザー(Razer)やドルビー(Dolby)などだ。
ゲーム業界以外からこうしたイベントのスポンサーを務める少数のブランドは、すでにこの分野で長年の経験を積んでいることが多い。例えばドリトスは、ザ・ゲームアワードの「公式スナック」にもなっている。
オーディエンスの規模にもかかわらず、まだ進出していないブランドの多くは、ゲーマーを対象とするマーケティングに躊躇をしているようだ。
「ゲームコミュニティに参加して、これまでとは異なるユーザー層と接することに尻込みしているのかもしれない」と、Twitchのグローバルスポンサーシップセールス担当責任者、ルー・ガレート氏は言う。「だが、ゲーマーはごく普通の一般消費者でもある。考えすぎは禁物だ」
ガレート氏は、ドリトスとともに、ザ・ゲームアワードを後援し、数百万人の視聴者に向けて、フォートナイトのアクティベーションイベントを開催することを発表した。同氏は、年2回開催されるTwitchイベント、TwitchConのブランドスポンサーシップも担当している。
TwitchConは他のライブゲームイベントと異なり、多様なブランドから注目されている。2022年10月のTwitchConサンディエゴでは、キャピタルワンやウェンディーズ、また牛乳加工業組合(MilkPEP)の一員であるデイリーミルクなどが提供スポンサーに名を連ねた。他にシェブロン、バターフィンガー、ベルビータなどもスポンサーを務めている。
Twitchは、高い認知度に加え、広告プラットフォームを通じて、すでにブランドと関係を築いているため、TwitchConはブランドにとっても参入しやすい。こうした関係のもと、ブランドはゲームコミュニティにある程度浸透したところで、大型イベントに進出することができると、ゲイル(GALE)のイノベーション実践部門であるアドバンスパーティーで、インフルエンサーマーケティングおよびコンテンツパートナーシップ担当責任者を務めるマックス・ベース氏は言う。アドバンスパーティーは、MilkPEPのTwitchConスポンサー契約にも携わっている。
「TwitchConで学んだ教訓は、デジタルへの進出が鍵だということだ」と、同氏は言う。「話題を提供して、イベントで直接ゲーマーたちと会う前につながりを築いておくことが、とりわけ知名度がまだ高くないブランドにとっては重要となる」
例えばMilkPEPの場合、TwitchConへの参加を円滑にするために、ストリーマーのQTシンデレラと提携して、ブランド認知のためのストリーミング配信を行った。ウェンディーズもTwitchアカウントを活発に運用しており、フォロワーは11万人を超えている。
ゲーム空間上で、年間を通して存在感を示すことで、ブランドはライブイベントの目玉となるようなカスタムコンテンツを生み出せる。こうした結びつきがなければ、1年に1日あるいは数日しかないゲームイベントのアクティベーションに価値を見いだすのは難しいかもしれない。
「ブランドが(ゲームイベントに)に参入し、そこに価値を見いだすことは容易ではない」と、GSD&Mの最高メディア責任者、デイブ・カーシー氏は言う。GSD&MはTwitchConのスポンサーシップに関際しキャピタルワンと提携している。「こうしたイベント体験のためには、それに合わせたコンテンツの制作が必要だし、オーディエンスもそれを期待している。それには相応の投資が必要だろう。ブランドはこうした体験で収益化を期待しているかもしれないが、そんなに単純ではない」
だがそれでも、本格的に参入すると決めたブランドにとって、ゲーミング・コミュニティが集合している場で存在感を示すことには、大いに価値がある。
「TwitchConの会場に実際に身を置くことではじめて、ゲーミング・コミュニティと直接やりとりすることができ(中略)牛乳とスポーツとしてのゲームのあいだに、実体を伴うつながりを構築することができた」と、MilkPEPのCEO、イン・ウン・ラニ氏は言う。
ウェンディーズのソーシャルメディア・デジタルエンゲージメント担当責任者、クリスティン・トーミー氏も、「我々はTwitchConで、まるでメタバースから飛び出してきたようなライブ体験を作り上げ、デジタル空間で築いてきた一対一のつながりをさらに拡げることができた」と語る。
ライブイベントは、たとえバーチャルであっても、ブランドがゲーマーとリアルタイムで交流できる良い機会になるのだと、Twitchのガレート氏は言う。ザ・ゲームアワードのように、視聴者数が数百万人に上るようなイベントでは、その効果はいっそう高まる。
1月20日、Twitchはストリーマーボウルの2023年の開催を発表した。これはスーパーボウルに合わせて開催されるイベントで、Twitch Rivalsと題した対戦配信では、ダンキン、ステートファーム、ターボタックスといったブランドがスポンサーを務める予定だ。