Mat Maroni
2022年1月13日

メタバースとはいったい何か?

UMでAPAC(アジア太平洋地域)を担当する最高戦略責任者が、メタバースの概念を6つの視点から解説し、APACにおけるマーケティングにどのような意味を持ち得るか、展望を語る。

メタバースとはいったい何か?

我々の業界はきらびやかな新しいパラダイムを好む。そして今、私はディスプレイに映る、「メタバース」というタイトルだけが書かれた白紙のドキュメントを見て、頭を抱えている。

「メタバース」とは、いったい何なのか?

ニューヨーク・タイムズのジョン・ハーマン氏が言うように、「テクノロジー業界においては、最大級のアイデアはしばしば、真の実体を持つより先に言葉として定着する」。上品な言い回しだが、要するに極めて捉えどころのないテーマだということだ。

では、取り掛かろう。

荒野で道に迷ったときには2つ以上の目印を探せという。それと同じで、メタバースのように正体のつかみづらいものに出会ったときは、複数の視点から考察することが助けになる。そこで、このメタバースを「三角測量」して、我々の理解を促進するのに有用な6つの視点を紹介していこう。

1. 定義する

メタバースはホットな話題なので、定義を試みるのは有意義な時間の使い方だ。未来を先取りしたいマーケターは、真っ先にこれを把握しておく必要があるだろう。上司から「メタバースとは何か?」と聞かれることもある(私の上司はきっと聞くと思う)。何より重要なのは、このメタバースへの熱狂が、単なる流行りもの好きによるものではなく、業界のトレンドセッターによって引き起こされているということだ。こうした主唱者たちは、メタバースについてどう語っているのだろうか?どう定義しているのだろうか?

熱烈な支持者であるマーク・ザッカーバーグ氏によれば、それは「モバイルインターネットを継承するもの」であり、もう少し具体的には「デジタル空間で人々が共存できるバーチャル環境」だという。興味深いが、かなり味気ない感じだ。

メタバースの具体的な特徴に、もっと迫ってみよう。

2. 分解する

ベンチャー投資家のマシュー・ボール氏は、以下の7つの特徴に注目している。すなわち、「体験の一貫性」「同時性とライブ性」「同時参加ユーザー数に上限がないこと」「経済としての機能」「デジタル世界と実世界の両方をカバーすること」「かつてないほどの相互運用性」「多数の関係者による脱中心化された運用」の7つだ。

面白くなってきた。だが、まだかなり難解だ。

3. 絞り込む

ヴァージ(The Verge)のケイシー・ニュートン氏は、メタバースを「物理的現実、拡張現実(AR)、仮想現実(VR)が、共通の一つのオンライン空間に集合したもの」だと定義する。

具体例を示そう。

ボール氏は、今どきのフォートナイトプレーヤーになったつもりで考えてみよう、と言っている。彼らは本物のマーベルキャラクターのコスチュームを身につけてゴッサム・シティをねり歩き、NFLのライセンスユニフォームを着た他のプレーヤーたちと交流している。このプレーヤーたちが、ゲームから抜け出して、別のプラットフォームに移動したとしても、ゲーム内で獲得したアセットをすべて、他の企業が提供する体験にも持ち込めるとしたら、かなりわくわくしないだろうか。メタバースはポップカルチャーIPのるつぼになるだろう。

4. 見たままに語る

ある人物が「メタバースにいる」というのは、実際のところ、どういう意味なのか?

今ここに、私の目の前にそんな人物がいるとしたら、私には何が見えるのか?

その人物はおそらく、VR技術やAR技術を利用してメディア環境に入り込んでいるだろう。その体験は、極めて没入的で、自然で、実体を伴ったものに感じられる。そしてそれは、一貫性があるブロックチェーン技術によって実現されているだろう。このメタバース体験には、クラウドコンピューティングサービスが利用されている可能性が高い。

人々はメタバースで、フォートナイトをプレイする以上のことをしているだろう。バーチャル不動産の賃料を支払っているかもしれない。あるいは、人的ネットワークづくりに不可欠な、インパクトのある高価なアバターの設定に勤しんでいるかもしれない。ホログラフ化された同僚と出会い、音声通話を介して親密なやりとりをしているかもしれない。これまでは現実世界だけのものだと思われていた活動のすべてが、メタバースでも同様にできるようになり、そうしたオンライン活動には対価を支払うこともあるだろう。

5. ありのままを受け入れる

物事を固定的にとらえるのは便利だが、蝶を標本にするのと同じように、それには限界がある。ニューヨーク・タイムズのケレン・ブラウニング氏の言葉を借りれば、「メタバースの厳密な定義や、それがデジタルライフにもたらす価値は、明確とはとても言い難い」のだ。この曖昧さは、バグというより、特徴の一つなのかもしれない。ティム・バーナーズ=リー氏が思い描いた、最初期のウェブの精神がそうであったように、メタバースという概念には、統一的な一つのビジョンや「所有者」が存在するわけではないことを、念頭に置いておく必要がある。あらゆるウェブサイトが、インターネットのオープンプロトコル上に階層をつくらずに存在しているのと同じように、メタバースは画一的な定義を拒むのだ。

6. 逆方向から考える

捉えどころのない概念と格闘する時に、便利な方法が一つある。正反対のものからスタートするのだ。メタバースの対極には何があるだろうか?

ボール氏が挙げた7つの特徴を反転させると、メディア環境を取り巻く現在の状況が見えてくる。つまり今の私たちは、「個々の疑似アプリを使ってネットの世界を回遊している」「アプリを変えればそこでの成果はゼロに戻る」「アプリごとに人格を切り替えることができる」「別のアプリやウェブサイトに移ったら、元のアプリやサイトはほぼ休眠状態になる」「ちょっとしたことで体験が途切れてしまう」「オンライン上の”私物“は他所に持ち出すことはできない」「ほとんどの活動はカードサイズの画面上だけで起こっていて、電源を切ればそれまでだ」

このような不満足な世界から足を踏み出そうとするなら、それがメタバースへ近づく一歩となるだろう。

メタバースはAPACの私たちにとってどんな意義をもつか?

メタバースという概念の構成要素は徐々に明らかになってきたが、まだインフラは整っておらず、消費者も準備ができていない。最大の課題が分断であるのは、今も同じだ。昨年、我々はプラットフォームとサービスの「スプリンターネット(分断されたインターネット)」化について、多くの記事を発表した。世界のテクノロジーエコシステムが2つに分岐し、その断絶はますます広がりつつある。

相互運用性が大幅に後退したが、こうした相互運用性がなければ、メタバーステクノロジーのユートピア的理想は実現し得ない。数々の重大な問題は切迫度を増すばかりだ。グローバルなプラットフォームは、どれだけ本気で互いに協力したいと思っているのだろうか? どのくらい相互運用性が実現されるだろうか? メタバースは、ブランドが需要を生み出し収益を得る方法を、将来どのように変えるのだろうか?

こうした問いは、我々すべてに関係するものだが、答えはまだおぼろげにしか見えない。しかし、もっとポジティブな見方もできる。グローバリズムの壮大な実験が実世界で失敗しつつあるなか、メタバースでなら、デバイスを介したメディア環境の中で、世界共通の豊かな体験を築けるかもしれない、ということだ。


マット・マローニ氏は、UM APACの最高戦略責任者。

提供:
Campaign; 翻訳・編集:

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