Campaign Staff
2018年4月05日

世界マーケティング短信: ソレル卿の不祥事、スナップチャット対フェイスブック、中国ブランド

今週も世界のマーケティング界から、注目のニュースをお届けする。

世界マーケティング短信: ソレル卿の不祥事、スナップチャット対フェイスブック、中国ブランド

WPPに暗雲、ソレル卿に不正調査

WPPの取締役会は今週、CEOであるマーティン・ソレル卿の個人的な不正行為に関する申し立てを受け、独自で調査を始めたことを明らかにした。告訴内容は詳しく分かっていないが、ある業界筋はCampaignに対し、「ソレル卿の『終わりの始まり』でしょう。役員会が弁護士を雇ったことは非常に悪い兆候」と語った。またWPP幹部の1人は、「こういう事態になってしまったこと、こうなる前に役員会が解決できなかったことは深刻な問題」とコメント。ソレル卿はこの申し立てを拒否し、「会社に対する絶対的な責任を担い続ける」と語った。

結論を下すのはまだ時期尚早だが、被告発者がどれほどの権力者であろうと、白黒が証明されるまでは無実と見なされねばならない。それより重要なのは、「ソレル卿が本当に辞職するのか」「後継者は誰か」という問題だ。現在のところ有力な候補者はおらず、創立者であるソレル卿の個性が色濃く反映されたWPPの継承問題は大きな混乱をもたらすだろう。だが、調査開始の報道後もWPP株は2%下落しただけ。投資家たちはこの一件をそれほど気にしていないことを示している。

また、WPP傘下にあるジェイ・ウォルター・トンプソンのグローバルコミュニケーションオフィサー、エリン・ジョンソン氏が前上司のグスタボ・マルティネス氏を相手どって起こしたセクハラ訴訟が2年を経て決着、ジョンソン氏は示談を受け入れた(示談金額は非公表)。人種・性差別的行為をしたとして訴えられたマルティネス氏を、WPPは一貫して擁護。同氏は引き続きスペインにおけるWPPのプロジェクトに携わっていく。

グーグル、スキップされる広告に課金

まるで10年ほど逆行するかのような動きだが、ユーチューブは広告主や広告代理店に対し、広告を視聴した時間にかかわらずリーチした回数で課金すると発表した。この新たなシステム「TrueView for Reach」は、ユーチューブやクリエイターにこれまでなかった収入源を与えることになる。彼ら以外には誰にも利がないように思えるが、シンガポールに本社を置くコンテンツマーケティングエージェンシー「クリック2ビュー」のサイモン・カーニーCEOはこのように語る。「広告のスキップは頭痛の種ですが、同時にエンゲージメントのレベルを表します。ですから有料にすることは妥当でしょう。広告主は少なくとも人間が見ていることを知っているのですから(、エンゲージメントを考慮するのは当然)」。「ヒトが見る」ことは基本的な前提条件だ。 エンゲージメントの高さが、単純なリーチよりもはるかに重要であることは言うまでもないだろう。

フェイスブックの将来への不安、情報流出事件だけに非ず

フェイスブック(FB)は今週、ケンブリッジ・アナリティカ社に流出していた個人データが8700万人分に上ると発表した。当初発表した5000万人分を大きく上回る。また、20億人分のデータの大半が悪用される危険性があることも認めた。

このスキャンダルは、これまで日の出の勢いだったFBにとって岐路となるのだろうか。そうなる可能性は極めて低いながら、今回の同社のコミュニケーション面での対応は非常にお粗末で、この経験から多くを学ばねばならないだろう。それにしても、同社を擁護する声がほとんど上がらなかったことは注目に値する。世間が「FB疲れ」を起こしていることの表れなのか。リンクトイン(LinkedIn)のプロダクトマネージャーであるフィル・スパイツァー氏はツイッターへの投稿で、以下のようにそれを代弁した。

「皆、実はFBのずさんなデータ管理などには無関心なのです。FBに不快な思いをさせられたり、集中力を邪魔されたりすることを多くの人々が感じているので、漠然とした敵意を抱いている。今回の一件は、FBに対して一斉に批判の声を上げられる良い機会と言えるのです」

「フェイスブック問題」で、スナップチャットは利を得ず

複数の観測筋は広告主がFBを見捨て、スナップチャットに移るのではないかと述べているが、デジタルマーケティング情報メディア「Digiday」が行った調査によると、マーケターの42%がスナップチャットを「最も使いにくいデジタル広告プラットフォーム」に挙げた。FBは実際、最も使いやすいプラットフォームの1つだ。故にユーザーや広告主にとって、利用をやめるのは思っているよりもずっと難しい。その一方、マーケターにとって最も価値あるデータを保有しているのはアマゾンのような企業であることは間違いない。結局のところ、ユーザーが検索したり購入したりするプロダクトを知ることが、人気あるプロバイダーを知ることよりもずっと重要、ということだろう。

中国人の自国ブランドへの信頼は、日本にとって脅威

クレディ・スイスが中国の18〜29歳の消費者を対象に行った調査で、90%以上がこの半年から1年以内に「国内家電ブランドの製品を優先して買う」と答えたことが分かった。国粋主義的傾向が強いとされる中国だが、今回の結果はそれが全てではない。近年、中国製品の品質は急激に向上。かつて「中国製」のレッテルは国内富裕層に様々な否定的イメージを与えていたが、今ではその傾向が急速になくなりつつある。

こうした潮流は、業績不振にあえぐ日本の電機業界にとってはより重圧だ。どの企業も海外市場での売り上げの大部分を中国に依存しているからだ。それでも、Campaignが行った中国における直近の「トップ1000ブランド」調査で、ソニーとパナソニックが全体ランキングでそれぞれ7位と15位に入り、中国のライバル企業を大きく上回った。次の調査ではこの順位に大きな変化が起きるのか、興味深いところだ。

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:水野龍哉)

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