Campaign Asia-Pacificとニールセンが毎年共同で実施する消費者意識調査「トップ1000ブランド」で、トヨタは国内企業ランキングの46位にとどまった。だがニールセンによる別の調査では、国内の消費者が「日本最強のブランド」とみなしていることが分かった。
トヨタの最大のライバルはホンダで、同調査で16位。依然不祥事に喘ぐ日産自動車は36位だった(トップ1000ブランドでは171位から201位に陥落)。
周知のごとく、トヨタの強みはブランドそのものより豊田章男社長の存在によるところが大きい。5月に東京で行われたアドバタイジングウィーク・アジアで、ブランドファイナンス社のチーフエグゼクティブ、デビッド・ヘイ氏は豊田氏をLVMHのベルナール・アルノー会長兼CEOやアップルのティム・クックCEOと並ぶ、世界で五指に入る「ブランドの守護者」として挙げた。
また、ワールドワイドオリンピックパートナーとしてのステータス(国内ブランドではパナソニック、ブリヂストンとともに3社のみ)も威光を放っていることは間違いない。東京2020大会はトヨタにとって「モビリティプロバイダー」としての提唱を実現する最大の機会となろう。2年前に発売を開始したハイブリッドベースのハイテクな「ジャパンタクシー」には五輪エンブレムが施され、既に大会のシンボルとなるとともに、トヨタと大会とのつながりを十二分にアピールしている。
昨年9月にはトヨタ初のグローバルブランディングキャンペーン「Start Your Impossible」がアジアでスタート。その中で大々的にうたわれたのは、イノベーションやロボット工学を駆使した「全ての人にモビリティを(mobility for all)」提供する取り組みだ。自動車業界でモビリティに注力することは決してユニークではないが、トヨタは早くから着目、人の効率的移動の実現を自社の使命としてきた。世界でのビジネス規模や知名度の高さと相まって、こうした指針は日本人がトヨタに誇りを感じる大きな所以だろう。そして何よりも、 海外の新興企業に先を越されなかったことが重要な要素と言える。
パナソニックを凌ぎ、2位となったのがソニーだ。マッキャン東京本社でエグゼクティブ兼プランニング本部長を務める松浦良高氏は、「ソニーのレガシーがある意味効果を発揮した」と語る。「多くの若者にとってはいまだに憧れのブランドなのです」。家電業界ではもはやイノベーションのフロントランナーとは言えないが、その世界的なステータスと部分的改革を成し遂げた実績は日本人が誇りとするのに十分だろう。この数年は音楽やゲームで成長を遂げた(ゲームへの参入は遅かったにもかかわらず)が、「転換期を乗り切るため、今後はまずこれらに代わる新たな事業を見つけ出さねばならないでしょう」(同氏)。
日本の消費者が三番目に敬愛するブランドがパナソニックだった。「トップ1000ブランド」の国内ランキングでは依然首位を堅持。「家電業界で非常に健闘している」(松浦氏)ことの証が、市場シェアで過去30年首位を走っていることにほかならない。「生み出す製品は常に優れており、『ふだんプレミアム』のキャンペーンは今の時代の消費者から大きな共感を得ています」。テレビCFでは俳優の西島秀俊を起用、積極的に家事を行う父親役を演じさせ、日本のマスマーケットに蔓延するステレオタイプ的なCFに新風を吹き込んだ。
パナソニックの中核事業は堅調だが、多様化にも取り組んでいる。同社の実験的プロジェクトやイノベーションを担う「ゲームチェンジャー・カタパルト」部門のディレクター、深田昌則氏は昨年Campaignに対し、「全く新しいアイデアに関し、消費者が常にダイレクトで有意義なフィードバックをくれた」と話した。長い伝統を持つ他の企業同様、パナソニックも「思考を製品からエクスペリエンスやエコシステムにシフトしようとしています」。同氏の管轄外ながら、その一例が昨年末に試験的に踏み込んだ遺伝子検査の分野だ(この世界は議論が百出している)。ある女性のDNAに基づいてつくった寝室を東京・二子玉川で展示、生活環境へのビジョンを示した。
この3社に続きトップ5に入ったのがユニクロと楽天。ユニクロは海外の小売業界で今も存在感を増しつつあり、楽天は既存のネットワークを維持しようとする携帯電話会社にチャレンジする。また両社は国際的な知名度を高めるべく、スポーツスポンサーシップにも莫大な投資を行った。これは国内でも大きな評価を獲得。「多くの日本人はこの二つのブランドに勢いを感じています」と松浦氏。ただし楽天に関しては「参入しようとしている業界の体質を考えると、その勢いをビジネス成長に結びつけられるかが課題でしょう」とも。
(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:水野龍哉)