高校生の時、僕が広告の世界に憧れるきっかけとなった、あるディレクター集団がいた。それがTraktor(現在Stink所属)だ。時は2000年。当時はユーチューブも黎明期。僕はインターネットの世界をくまなく探して、彼らのリールをなんとか見たものだ。
そんなTraktorの一人が、今年カンヌで「Unskippable craft」というテーマのセミナーに出演していた。彼がセミナーで何度も言っていたのが「Back to idea」。今年、カンヌのチタニウムをかっさらった「IT’S A TIDE AD」のフィルムディレクターでもあるTraktor。そのフィルムに焼きついた強靭なアイデアを見れば、彼の言うことも説得力が増していた(憧れのディレクターが発言してるだけで、僕は感化されていたわけだが)。
では、今の時代の「アイデア」とは何だろうか?
その一つとして、この情報過多な時代に「効率的に世の中に拡散する力」を求められていると思う。その答えが「HACKする」という考え方である。バーガーキングのセミナーでは「HACKVERTISING」という考え方を提唱していた。有名なプラットフォームや、すでにあるルールなり文脈をうまく使い、広告に昇華させる。その過程をストーリー化して、さらにメディアとSNSで世の中に伝搬させるのだ。例えば、スーパーボウルをハイジャックした「IT’S A TIDE AD」は、既存のプラットフォームを使っているのでコミュニケーションのスピードが速い。
もはや、ゼロから何かを生み出すのは非効率なので、すでにある何かを「いじる」のである。その、①いじりかたの「センス」、②よくそこをいじったなという「チャレンジ」、③それをこの規模でよくやったなという「スケール」。この3つが掛け合わさって、強靭なアイデアとなる。
さらにそこに社会的意義が加わったのが、パスポートというプラットフォームをいじった「Palau Pledge」と、国連というプラットフォームをいじった「Trash Isles」。2つとも、素晴らしい事例だと思う(僕はTideが好きだけど)。
さて、カンヌは今年、間違いなく変わった。良くも悪くも。9つのトラックへの新しいカテゴライズは何をもたらしたのか? 個人的には、チタニウムを除いて、全ての部門が同一化してしまったように感じた。デザイン部門は最たる例だろう。全ての部門で、ソリューションが統合コミュニケーション化したからだ。
もちろん、今日の複雑化する課題や、我々が置かれている現状から考えれば当たり前の流れ。しかし、全てのプロジェクトが、2分のケースムービーでまとまるようストーリー化され、もはや、アウトプットからストーリーを想像するのではなく、ストーリーの一部にアウトプットがある状態。
僕の天邪鬼な部分が、ふと思う。Back to idea。僕が高校生の時に憧れたTraktorのフィルムは、むき出しのアウトプットそのものが、イコールideaだった。そこには効率なんて求めてなかった。非効率でも、統合されてなくても、ゼロから生み出された得体のしれない「何か」をもっと見たい。もっと触れたい。そう思えた2018年のカンヌでもあった。
佐藤雄介氏は電通のクリエーティブディレクター・CMプランナー・コピーライター。
(編集:田崎亮子)