人工知能(AI)が労働市場に及ぼす影響については、これまでも多くの議論がなされてきたが、その結果を明確に予測したものはほとんどなかった。
だが、調査とアドバイザリーを手がけるフォレスター・リサーチがこの議論に加わった。同社が6月15日に発表した予測によれば、ジェネレーティブAIと自動化がエージェンシーの業務に深く組み込まれるようになり、2030年には米国のエージェンシーで3万2000人分の仕事がAIに置き換えられるという。この数は、広告業界の全従業員の7.5%に相当する。
同社の予測では、2030年までに、広告エージェンシーの仕事の約3分の1が自動化のリスクにさらされるという。ただし、そのすべてがテクノロジーによるものではないようだ。
自動化の影響を特に大きく受けるのは、単純作業やプロセス中心の業務だ。こうした業務は手順通りに行うものであるため、自動化される可能性が高い、とフォレスターは指摘している。具体的には、失われる仕事の28%を、事務職、秘書業務、管理業務が占める。また、22%を営業職が、18%を市場調査業務が占める。
これに反し、クリエイティブな問題解決に関わる業務は、むしろ増える見込みだ。フォレスターによると、独創性は、自動化されるリスクを低減する最も大きな要因になるという。編集者、ライター、作家のような創造性の高い仕事や、プロンプトエンジニアやトレーナーなどAIの能力強化に関わる仕事が、今後数年間、労働市場を席巻するだろうと同社は見ている。
また、デジタルマーケティングや戦略スペシャリストも安全な職種だ。今後5年間に世界全体で20%を超える人員増が見込まれるという。データサイエンティストも同様だ。
もっとも、これらの仕事もジェネレーティブAIの影響を大きく受けることになる。しかし「ChatGPT」、グーグル「Bard」、「DALL-E」、「Midjourney」、「Stable Diffusion」といったジェネレーティブAIテクノロジーは、上級職やクリエイティブ職の生産性向上に利用されるが、彼らの仕事を奪うことはないと、フォレスターは考えている。
実際、マーケター幹部の半数以上がすでにこの最新テクノロジーを利用している。フォレスターが6月に発表した最新の「B2C Marketing CMO Pulse Survey」によれば、バイスプレジデント以上の役職にある回答者の56%が、ジェネレーティブAIをすでにマーケティングに利用していると述べていた。また、40%がジェネレーティブAIの利用に関心があるか、そのユースケースを検討していると述べている。
広告分野でジェネレーティブAIの影響が最も少ない職種は、制作現場や印刷オペレーター、それにパッケージやイベント関連のデザイナーだと、フォレスターは付け加えた。
ジェネレーティブAIの利用により、エージェンシーの従業員構成は、コストの低い若い人材からジェネレーティブAIとペアを組むクリエイティブ幹部職に重点が移り、結果、管理職の割合が増加するだろうと同社は見ている。
とはいえ、ジェネレーティブAIには知的財産権、バイアス、正確さへの懸念など、さまざまな法的および倫理的リスクがあるため、少なくとも今後2年間は、すぐに仕事が奪われるというような顕著な動きは生じないという。
しかし、いずれにしても、2030年までには広告の仕事の3分の1が自動化によって失われることになると、フォレスターは予測している。