「人工知能クリエイティブディレクター(AI-CD)」の誕生に貢献した松坂氏が、デジタル・クリエイティブディレクターとしてマッキャン・ワールドグループのクアラルンプール・オフィスに移る。ミレニアル世代によるイノベーションを後押しするため自身が立ち上げたプロジェクト、「マッキャン・ミレニアルズ」のアジア拡大版「マッキャン・ネクスト」も現地で牽引していく。マッキャン・マレーシアのショーン・シムCEOは、同氏を「アジアにおける我々のネットワークで、輝かしき若手スターの1人」と賞賛する。
松坂氏は英・ファルマス大学を卒業後、2008年に東京のマッキャンに入社。テレビ広告のバイイングからキャリアをスタートし、この4年間はクリエイティブプランナーを務めていた。その名を一気に高めたのは、昨年「デビュー」したAI-CD。つい最近では、人々を瞑想に誘導することでクリエイティビティーを高めるロボット「CRE-P(クリップ)」の開発で主導的役割を果たした。この製品は6月末に催された「AI・人工知能EXPO」で展示されたばかり。
日本の広告界のクリエイティブが、進んで東南アジアに拠点を移すことは珍しい。同氏は東南アジアやイスラム文化、そしてミレニアル世代のイスラム教徒をもっと知りたいと考え、自ら志願した。個人的興味だけではなく、「イスラム社会の消費者は日本の企業に重要なビジネスチャンスを提示しています」。彼らのことに詳しくなれば、日本人クリエイティブディレクターとして独特のポジションを築ける。「イスラム教徒とはどういう存在なのか、ほとんどの日本人は分かっていません。知っているのは、ニュースで報道されることだけですから」。
マッキャン・ミレニアルズのネットワークを拡げ、社内でオープンイノベーションを活性化していくことにも情熱を捧げる。アジアへの進出に際しプロジェクトの名をマッキャン・ネクストに変えたのは、いくつかの国で「ミレニアル」という言葉に対してネガティブなイメージがあるため。それでも、「広告と必ずしも関係のないプロジェクトでも、革新性があれば社の内外を問わず様々な人々と推し進めていく。そのスピリットは変わりません」。
日本の広告界の若手は、「もっと海外でのキャリアを目指してほしい」。東南アジアに住む外国人の数は、今後5年から10年でもっと増えていくだろうと見る。「東京五輪の後でも日本にビジネスチャンスはあるでしょうが、東南アジアの方が多いと思います」。日本人は今でも海外移住に二の足を踏むが、東南アジアとは「文化的な共通点が予想以上に多い」。アジアの先進国・日本から学ぼうとマレーシアがかつてとったルック・イースト政策も、日本人にとっては「親しみやすさの好材料」と話す。
オープンイノベーションの提唱者である同氏から見ると、日本企業はプロダクトの開発やマーケティングに関してグローバルな思考が足りない。CRE-Pのプロジェクトでは、日本人だけでなく世界中のオーディエンスを想定して具体化を進めた。「我々は外の世界を見なければいけません。そして異文化に適応することを考えるより、初めからグローバルに思考することが、プロダクトやブランドが成功を収める上でカギとなるのです」。
(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:水野龍哉)