同社の最新調査で、東南アジアで最も理想的なオンライン広告環境を提供しているのはタイという結果が出た。
「微笑みの国」タイはディスプレイ・動画広告において最も安全性が高く、ビューアビリティに関してもディスプレイ広告で1位、動画広告で2位だった。
一方、ブランドにとって最も安全性が低い国は動画広告でインドネシア、ディスプレイ広告ではマレーシア。マレーシアは唯一、両広告のビューアビリティにおいても国際平均値や米国の平均値を下回った。
東南アジア6カ国(インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム)の2016年度下半期におけるデータを集めたIASの「H2メディア・クオリティ・リポート」。同地域におけるこの種の調査は初めてで、結果が公表された週にはグーグルが「信頼できる複数の第三者機関と提携し、ユーチューブ上の安全性確保を目指していく」と発表している。IASはそれら第三者機関の1つ。グーグルのこの動きは、大手ブランドの広告がテロリストの動画と並列して配信されているという最近の報道を受けてのものだ。
報告書は、東南アジアでの75社のオンライン広告に対する200億インプレッションの分析結果に基づいたもの。広告がブランドの安全性を脅かす可能性のあるコンテンツと共に表示されている頻度に基づき、「ブランドリスク」を算出した。 IASではこの種の危険なコンテンツをアダルト(ポルノ)、アルコール関連、ヘイトスピーチ、違法ダウンロード、違法薬物、誹謗中傷、暴力という7つのカテゴリーに分類した。
タイではこれらのウェブサイトに表示されたディスプレイ広告はわずかに1.6%、動画広告は2.2%だった。IASのマネージングディレクター、ナイアル・ホーガン氏曰く「タイは規制が行き届いており、他の国々と比較してコンテンツの検閲が厳しいからでしょう」。マレーシアでは、ディスプレイ広告におけるブランドリスクは6.7%に跳ね上がる。
また、インドネシアとベトナムでは動画広告の安全性が他の国々に比べて著しく低く、ブランドリスクはそれぞれ15.3%と13.2%。国際平均の8.9%を大きく上回った。
ブランドに悪影響を及ぼすコンテンツの種類も「東南アジアは独特」とホーガン氏。 「7つのカテゴリーのうち、世界の他地域でブランドにとって最も脅威となるのはアダルトと暴力です。だが面白いことに東南アジアだけがこのどちらでもなく、脅威なのは違法ダウンロード。最新のディズニー映画やサッカーのプレミアリーグなどが権利者の許可なしにストリーミング配信されるコンテンツです」
自社広告がどのようなコンテンツに表示されているか気になるならば、米国の業界団体「メディア・レイティング・カウンシル(MRC)」の取り組みがまず参考になる、と同氏。MRCは、誤った場所に広告が表示されないよう広告主をサポートする企業を認定評価している。
報告書は、広告におけるブランドの安全性は全ての企業が取り組まねばならぬ課題と提言する一方、東南アジア市場はディスプレイ広告のビューアビリティにおいて「成功例」であるとも指摘。東南アジア6か国のうち4カ国のそれは米国平均の53%を上回り、土壌としての優位性を示唆した。
4年前にIASが英国で広告のビューアビリティに関する調査を開始した際は、基本的数値が「わずか40%弱でした」(ホーガン氏)。 「過去4年で米国をやや上回る約58%にまで押し上げたのですが、その裏で我が社や同業他社が広告代理店、広告主、パブリッシャ―、販売業者などに広く呼びかけ、ビューアビリティ改善のために尽力しました。東南アジアの場合は基本的数値が自ずと高いようなので、広告主にとっては良い環境です。それでもあなたの会社が高い数値を上げていないのなら、他社より遅れを取っているのです」。
動画広告のビューアビリティに関しては、東南アジアはまだ改善の余地が大きい。現在インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポールで国際平均値(58.2%)を下回っている。例外はベトナムで、75.2%。その理由は「ユーチューブに対し、過度に多額な投資が行われているからでしょう」。
「現在、ユーチューブは様々な報告が示す通り、広告の安全性に関して多くの課題に直面しています。しかしあまり話題に上らないのが、ユーチューブのビューアビリティは非常に高いということ。ベトナムの数値からは、シンガポールやフィリピン、マレーシアなどに比べてユーチューブが広告媒体として非常に活発に利用されていることが憶測できます」
IASは年内に更なる詳細な分析をまとめる予定だが、ホーガン氏はこのように付け加える。 「東南アジアの広告におけるブランドの安全性は、まだ調査が始まったばかり。広告の透明性を強く求めたマーク・プリッチャード氏(P&G最高ブランド責任者)の最近のスピーチや、ユーチューブ上の広告に関するこの数週間の報道でブランドの安全性に対する関心は一気に高まりました。我々のところにも、これまでにない数の広告代理店や広告主が相談に来ています。クライアントが増えればデータも増え、近い将来より正確な分析ができるようになるでしょう。今後3〜6カ月間で、データの数値が大きく変わることも十分あり得ますね」
(文:オリビア・パーカー 編集:水野龍哉)