エクスペリエンス分野を牽引するマーケティングコミュニケーションエージェンシー「モメンタム・ワールドワイド」が最新調査「We Know Experience 2.0」の結果を発表、世界に先駆けて東京でプレゼンテーションを行った。調査対象となったのは米国、英国、ブラジル、ルーマニア、日本の計5カ国、3200人。
その結果、消費者が最もブランドに求めているものは「ポジティブな刺激と意味」であることが分かった。この項を挙げた回答者は前回2012年に行われた同調査の2倍に達した。また、76%は「モノよりも体験にお金を使いたい」と回答した。
「消費者の志向は明らかに変わった。これまで『ハイ・コスト、ロー・リーチ』とみなされてきたエクスペリエンスは、今やマーケティングプランの中核でなければならないのです」。こう話すのはモメンタム・ワールドワイドのクリス・ワイルCEO。「ほんの数年間で消費者のブランドに対する気持ち、またエクスペリエンスへの期待感が大きく変化した。今のペースで期待値が高まっていくと、ブランドが消費者のニーズに応えるのは難しくなっていきます。だからこそ我々は、今の時代に合う形でこのテーマを見直そうと考えた。事実、消費者はエクスペリエンスを社会的課題への解決策と位置付けるようになっています。消費者に個人レベルで訴求できる卓越したイベントを創出するため、ブランドはこうした『期待』を留意しなければなりません」。
調査結果からは、ブランドと消費者の関係性が明らかに進化し、より人間的なエクスペリエンスが求められていることが明らかになった。前回調査で消費者が最も重視した「実用性」は、今回3割数値を下げた。
こうして浮かび上がったブランドが認識すべき点とは、1)消費者と真摯に向き合う2)より社会意識を持つ3)個人とより深く関わること。回答者の58%は「非日常的な体験がしたい」と答え、「笑ったり楽しめたりする体験」を挙げたのは70%、「新しいことが学べる体験」は63%だった。
消費者がブランドに対して望むのは、「気分を良くしてくれたり、高揚させてくれること」が86%で最多(前回調査では23%)。続いて、「ストレスや不安感を和らげてくれること」が83%。不透明感がより増しつつある現在の世界情勢を如実に反映する結果とも言えよう。同時に、社会・環境問題に対する消費者の意識も高まった。こうした問題に「関わるようになった」と答えたのは70%に上った。
北米モメンタムのエレナ・クラウCSO(チーフ・ストラテジー・オフィサー)は、「こうした消費者意識の変化は過去7年で社会が経験したマクロな変化に起因する」と話す。「ストレスの増加やさまざまな公的機関への不信感、テクノロジーによってもたらされる疎外感……。こうした要因から、消費者はこれまでよりも多くのイベントに参加するようになっています」。
モメンタム・ジャパンのエクスペリエンス戦略局でインサイトとアナリティクスの責任者を務める柳瀬健司氏は、日本での調査結果をさらに詳しく報告した。特徴的だったのは、日本人の二面性を表す数値だ。「自分はどのような人間か」という問いに対し、「好奇心がある」と答えたのは43%で5カ国中最高。また、「新しいものが好き」は33%、「フレンドリー」は29%だった。その反面、「冒険心がある」は7%、「勇気がある」は5%、「自信がある」は7%。いずれも極めて低い数字で、好奇心はあってもなかなか行動に踏み切れない日本人の内向的な性格を表わしている。
また、テクノロジーへの信用度も日本人らしさの象徴か。「テクノロジーが新しい興味に導いてくれる」は74%、「好奇心をかき立ててくれる」は69%。「テクノロジーによって日常が非日常になる、と考える傾向が消費者の間に強い」(同氏)。さらに、「良いエクスペリエンスに対価を支払う価値を感じる」と答えたのは69%。年齢別にみると34歳以下では75%、35歳以上では65%だった。「エクスペリエンスは現代の貨幣とも言えましょう」(同)。
日本人がブランドエクスペリエンスに求める要素では、「元気をもらえる」(86%)「ストレスを取り除く」(84%)「新しい可能性を発見する」(77%)などが上位に入った。
こうした結果を踏まえると、ブランドエクスペリエンスを向上させるためには3点の重要項目が挙げられる。まずは、人間性。「ブランドは人間の感情や真実に触れ続けることが重要」。次に、個人のニーズに合わせてカスタマイズされた製品を提供するパーソナライズ。さらに、言わずもがなのテクノロジー。時代は明らかに、「ブランド・ファースト=ブランドメッセージのコントロールからコンシューマー・ファースト=生活者体験のコントロールへ」推移したと言えよう。
(文:水野龍哉)