日本では依然として「地域再生」が熱い。そして地域再生をテーマにしたキャンペーンには、個性の感じられないものや、逆に奇抜すぎるものが多く、当たり外れが歴然としている。しかし、ブランドの売り上げ拡大を目的に制作され地域再生にもつながった、キラリと光る作品もある。ブランドと地域の両方にプラス効果をもたらした、既成概念を覆す事例をここに紹介する。
髪の毛の聖地「髪毛黒生駅」は、スカルプケアシャンプーメーカーのメソケアプラスがオリコムと組んで展開したPRキャンペーン。この企画が、経営不振に陥ったローカル鉄道と地域社会にも恩恵をもたらした。
背景
メソケアプラスは、現代人の髪をストレスから守ることを使命としており、ブランド認知向上を目指していた。一方、シャンプーとは何の関係もなさそうな千葉県の銚子電気鉄道(全長6.4キロメートル)は、観光客の減少に伴い、廃線の危機に幾度も瀕していた。車両の修理費用を捻出するために、銚子の特産品である醤油を使ったぬれ煎餅を販売したところ、話題となって注文が殺到したことでも知られる。
コンセプトと実践方法
メソケアプラスはローカル鉄道の窮状を逆手にとり、銚子に観光客を呼び戻し、地域の活性化にも貢献できるアイデアを実践することにした。
経営不振にあえぐ銚子電鉄は、全9駅のうち7駅につきネーミングライツの販売を決定した。メソケアプラスは、笠上黒生(かさがみくろはえ)駅のネーミングライツを年間150万円(約15,000米ドル)で購入。2015年12月に駅名愛称を、「強く健康な黒髪が生える」という趣旨の「髪毛黒生(かみのけくろはえ)」とした。つまり、「髪の毛の聖地」を作るというアイデアだ。
聖地の誕生を世の中に伝えるため、髪の毛に良いとされている昆布に印刷した記念切符を100枚限定で売り出し、1週間で完売した。また、映像コンテンツや駅看板を含む屋外メディアにより、一層の注目を集めた。
結果
当然ながら、髪毛黒生駅には実際に髪の毛を生やす力はない。黒生という地名はもともと、この地域に多い黒い岩に由来する。髪毛黒生駅を訪れてふさふさの髪を手に入れたいと期待した、髪の毛に悩む人は落胆したかもしれない。しかし、このアイデアの話題性はとにかくインパクトがあった。
2015年12月から2016年4月末までのメディア露出は9100万件近くに上り、うち約7500万件がテレビ、730万件が新聞、9万件がオンラインだった。このキャンペーンを実施したメソケアプラスにとって最大の関心事である売り上げは、格段に高い伸び率を示した(同社は具体的な数値を公開していない)。
このキャンペーンで伸びたのはシャンプーの売り上げだけではない。銚子電鉄の利用者数は前年比23%増え、笠上黒生を訪れる観光客の数も前年比11%増加した。
このような小さな取り組みがこれほどまでに大きな影響をもたらしたことは、外部の目には奇異に映るかもしれない。このキャンペーンにコピーライター兼プロデューサーとして参画した関口博人氏は、昆布の記念切符のようなノベルティーが呼び水になったことは確かだが、成功の要因は他にもあると話す。例えば、日本では地方の苦境は周知の課題だが、地元を盛り立てようという自助努力を支援する機運が高いことが挙げられる。関口氏はまた、ローカル鉄道の保存を切に願い、そのためにできることは何でもしたいという想いを持った、多くの鉄道ファンの存在にも言及した。
髪毛黒生という愛称が使えるのは2016年12月まで。メソケアプラスが2017年も契約を更新してネーミングライツを維持するかどうかは、まだ明らかになっていない。
(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳:鎌田文子 編集:田崎亮子)