今年になって多くのマーケティングチャネルの需要が落ち込むなか、唯一成長を遂げているのがインフルエンサーマーケティングだ。だが、ブランドの戦略は明らかに変化。軸足は製品の宣伝からブランドパーパス(ブランドの存在意義)へと移り、プラットフォーム利用も多様化したことがCastingAsia(キャスティングアジア)社の調査でわかった。
AnyMind Group(エニーマインド・グループ)傘下でインフルエンサーマーケティングを担う同社は、昨年9月から今年8月にかけて行われた1300本余のキャンペーンと、17万人以上のインフルエンサーの活動を分析。過去1年間でどのようなインフルエンサーマーケティングが行われたかを調査した。対象となったのは日本を初め、台湾、シンガポール、タイ、インドネシア、香港、マレーシア、ベトナム、フィリピン、カンボジアの10市場。プラットフォームはフェイスブック、インスタグラム、ユーチューブ、ツイッターなどを分析した。
その結果、パンデミック宣言が出された3月以降、ソーシャルディスタンシングや安全・予防対策といったCSR(企業の社会的責任)、ないしは社会性をテーマとしたインフルエンサーキャンペーンが2倍以上(130%)に増えたがわかった。また、ブランディングをテーマとしたキャンペーンは85%の増加。インフルエンサーマーケティングは1年間を通して需要が落ちることはなかった。
3月から第2四半期にかけては多くのブランドがマーケティング支出を見合わせた時期だが、キャスティングアジアによれば「インフルエンサーマーケティングの業績は落ちなかった」。ゲームやeコマースなど、デジタルに依存するブランドは4月から6月にかけてむしろ積極的にインフルエンサーマーケティングを展開し、他のブランドも多くが7月からキャンペーンを再開したという。
コロナ禍ではキャンペーンの内容だけでなく、プラットフォームの需要も変化した。昨年9月から今年3月にかけ、群を抜いて高い人気を誇ったのはインスタグラム。3月から4月にかけてはフェイスブック上のキャンペーン数が約10%増え、全キャンペーンの39%を占めた。
ツイッター上のキャンペーン数も2月までは横ばいだったが、3月から上昇。ユーチューブも4月からは7%増加した。過去1年間を通して見ると、最も多く利用されたプラットフォームはインスタグラム。インフルエンサーキャンペーンの45%を占めた。
また、エンゲージメント率が最も高かったのもインスタグラムで、平均2.98%。インフルエンサーの種類別に見ると、インスタグラムとフェイスブックで最もエンゲージメント率が高かったのはマイクロインフルエンサー(フォロワー数が1〜10万人)。ユーチューブではナノインフルエンサー(同0.1〜1万人)だった。
エニーマインド・グループのロイット・シャルマCOO(チーフ・オペレーティング・オフィサー、最高執行責任者)は、「アジアはまだインフルエンサーマーケティングの初期段階にあるので、今後も持続的な成長が見込まれる」と話す。「アジアのマーケターが徐々にインフルエンサーマーケティングを取り込み、消費者との地理的・物理的境界を乗り越えようとしていることがこの調査結果からわかります」。
インフルエンサーにとって人気が高いプラットフォームは国によって大きく異なった。インスタグラムが最も使われたのは香港、マレーシア、シンガポール。フェイスブックがトップだったのはミャンマー。ユーチューブが過半数を占めたのは台湾、インドネシア、ベトナム、カンボジア。日本ではツイッターの占める割合がほかのどの国よりも多かった。
インフルエンサーの種類別では、ミャンマー以外の9市場で最も多かったのはマイクロインフルエンサーで、全体の46.32%。ミャンマーで最も多かったのはマクロインフルエンサーだった。また、インドネシア、タイ、マレーシア、フィリピンの4市場ではマイクロインフルエンサーの数が過去1年間で急増した。
(文:ジェシカ・グッドフェロー 翻訳・編集:水野龍哉)