この1年半、世界中の人々がパンデミックを乗り切るため、デジタルサービスに依存してきた。ロックダウンによって、いつもの習慣や行動が突然中断され、人々は生活のほぼすべてをアプリに頼るようになった。食料雑貨の購入や料理の注文から、リモートでの仕事や学習、そして重要な医療や公共サービスへのアクセスまでほぼすべてだ。
これらの「必要不可欠」な用途に加え、アプリは人々の感情的、身体的な健康も支えてきた。具体的には、(ビデオ会議プラットフォームやメッセージツールを介して)大切な人とつながったり、(バーチャルエクササイズクラスで)フィットネスプログラムを継続したり、(オンラインクイズ、バーチャルハッピーアワーなどを通じて)社会的交流を楽しんだりする手助けもしてきた。
アップダイナミクス(AppDynamics)の新しいレポート「アプリケーション注目指標2021:アプリの罪は誰の責任?(The App Attention Index 2021: Who takes the rap for the app?)」によれば、シンガポールの回答者の95%が、デジタルサービスは生活にプラスの影響を与えており、それゆえ、パンデミック中も困難な時期を乗り越え、不確実性に対処し、生活の大半を普段通りに過ごせていると回答している。
消費者は「完全なアプリ体験」を手に入れた
パンデミック中、シンガポールの人々が使用するアプリの数は急増し、その用途も多様化した。全体のアプリ利用量も2019年から30%も増加している。ソーシャルメディアコンサルティング企業ウィーアーソーシャル(We Are Social)のレポート「デジタル2021(Digital 2021)」によれば、シンガポールの人々は2020年に2億4000万回もアプリをダウンロードしている。シンガポールの人口が600万人足らずであることを考えると、驚異的な数字だ。
これは、消費者が最高のアプリと出会い、直感的でパーソナライズされた体験を享受するようになったことも意味する。消費者はパンデミック中、一流ブランドが顧客をサポートするために何を実施したてきたかを見ており、必然的に、他のすべてのアプリケーションにも同等の品質やサービスを期待するようになった。
「アプリケーション注目指標2021」では、消費者は今、「完全なアプリ体験」を求めているという結果が出ている。具体的には、シンプル、安全、有益で、楽しく利用できる、信頼性の高いデジタルサービスだ。しかも、嗜好に合わせてパーソナライズされていることや生活に真の価値をもたらすことも求めている。
期待値は急上昇し、寛容さは消え去った
現在、人々はアプリに大きく依存しており、過去1年半のあいだに多くの人が素晴らしいデジタル体験を享受したことで、アプリへの期待値は飛躍的に高まっている。
消費者は今、信頼性、セキュリティ、パーソナライズなど、デジタルサービスのパフォーマンスや機能性に関わる幅広い領域で、アプリにより多くのことを求めるようになっている。
利用体験がこの高い期待値を下回った場合、人々が以前よりも強い拒絶反応を示すのは確かなようだ。その証拠に、シンガポールの消費者の67%が、デジタルサービスに対する期待値はすっかり変わってしまい、期待を下回るパフォーマンスはもはや許容できないと回答している。
多くの人にとって、それは個人的な感覚だ。期待するレベルのデジタル体験をブランドが提供していない場合、人々はそのブランドに軽視されていると感じ、もしそのようなことがあれば容赦しない。
「アプリケーション注目指標2021」の調査結果は、人々が、最適とはいえないデジタル体験に遭遇したとき、断固たる行動を取る確率は2年前よりはるかに高まっており、アプリをすぐ削除したり、迷わず競合アプリに乗り換えたりするだろうことを示唆している。
どのような問題でも、責任はブランドにある
ブランドにとって憂慮すべき点は、消費者はトラブルに遭遇すると、その原因の如何にかかわらず、問題をすぐアプリのせいにしてしまうことだ。
ページの読み込みや応答が遅い、ダウンタイムやセキュリティ障害が発生したなど、アプリと直接的に関わるパフォーマンス問題については、確かに責任は常にアプリオーナー側にある。しかし今は、インターネット接続や4G/5Gのモバイルネットワーク問題、決済ゲートウェイの遅延やサードパーティ製プラグインの技術的問題など、アプリ以外の外的要因によるトラブルも、すべてアプリの責任にされてしまう。
消費者は例外を認めないのだ。シンガポールでは、78%の人々がデジタルサービスやアプリを完璧に機能させる責任はすべてブランドにあると考えている。
しかも、世界規模のデジタル体験の提供に関しては、ブランドに2度目のチャンスはない。大多数の人々は、アプリを第一印象で判断するため、もし失敗すれば、すぐに別のアプリケーションに乗り換えられてしまうだろう。
高まる期待に応えるには、ビジネスを考慮したフルスタックのオブザーバビリティ(可観測性)が不可欠
ブランドやアプリ開発者にとっては、非の打ちどころがないスムーズなデジタル体験を常時提供する必要性がますます高まっている。ほんのわずかなパフォーマンス上の問題が発生しただけでも、ロイヤルティの高い顧客を永遠に失ってしまうかもしれないような状況に置かれているのだ。
この途方もないプレッシャーだけでも十分なのに、さらにアプリオーナー、特にアプリのパフォーマンスを管理する技術者は、無秩序に広がり続けるIT資産全体に及ぶ、非常に深刻な複雑さにも対処しなければならない。これは、大変大きな課題ではあるが、アプリをベースとしたこのデジタルファーストの経済の中で、組織が成功し続けるためには、技術者がこの試練を乗り越えるしかない。
試練を乗り越えるためには、ます顧客向けのアプリから基幹インフラに至るまでの、ITスタック全体におけるパフォーマンスをリアルタイムに把握することが急務だ。そして、技術者が問題を素早く特定し、解決するためには、フルスタックのオブザーバビリティを備えたシステム監視が不可欠だ。
しかし、たとえ十分なオブザーバビリティを備えていたとしても、ITインフラ全体から送られてくる膨大なパフォーマンスデータから、どの問題が最も重要かを特定するための方法論が必要だ。
それにはITパフォーマンスの向上に、ビジネスの視点を取り入れ、顧客やビジネスに最も大きな影響を与える問題を特定することが、極めて重要となる。それが特定できれば、技術者は時間とスキルを最も適切な箇所に割り当てることができる。技術者は、フルスタックのオブザーバビリティとビジネス指標をリアルタイムで結び付け、アプリケーションのパフォーマンスを絶えず最適化することで、目の肥えた消費者の高まり続ける期待にも応えることができるだろう。
グレッグ・オストロフスキー氏はアップダイナミクスのリージョナルCTO。