東京五輪開幕まで1カ月となった6月23日は、1894年に国際オリンピック委員会(IOC)が結成された国際オリンピックデーでもあった。IOCのワールドワイドスポンサーであるアリババグループはこの日、新たなグローバルマーケティングキャンペーンを開始した。
キャンペーン動画「Let hope shine brighter together(皆でもっと希望を輝かせよう)」は昨年、トーマス・バッハIOC会長が五輪の1年延期を宣言した際に語った言葉 −− 「暗いトンネルを抜けた先に、五輪の聖火が灯っているだろう」 −− に触発されたものだ。
「五輪の再スタートは希望の灯の再点火を意味します。それを世界に知らしめ、大会に出場するアスリートにエールを送るためこの動画を制作しました」。こう語るのはアリババのクリス・タンCMOだ。
アリババは2017年からIOCのワールドワイドパートナーを務める。その最も重要な役割の1つが、テクノロジーの活用。五輪中継のデジタル化を進め、よりユニークな手法でオーディエンスに届けることで、さらに多くのスポーツファン、特に若者層の開拓を狙う。
動画の中でBGMとして流れるのは、モーツァルトの「きらきら星変奏曲」だ。言わずと知れた世界で最もよく知られる童謡がベースで、演奏するのは世界的に活躍する中国人ピアニストのサー・チェン。この選曲は2018年平昌冬季大会の同社のキャンペーン「To the Greatness of Small(小さな力の偉大さ)」との継続性を思わせる。
代替プランとイノベーション
平昌大会同様、アリババは東京大会でもクラウドテクノロジーソリューションとグローバルなeコマースプラットフォームを提供する。昨年は状況がめまぐるしく変わり、「マーケティングチームにとって非常に困難な年だった」とタン氏。3月に東京大会の延期が決定すると、社内では不測の事態に備えた様々な対応策の検討を始めた。現在のシナリオである海外からの一般客の受け入れ見送りは、その想定内だったという。
「すべてがオンラインになることで、東京大会におけるクラウドコンピューティングテクノロジーはかつてないほど重要になります」(タン氏)。
オリンピック放送機構(OBS)とアリババクラウドが2018年に共同で立ち上げたOBSクラウドは、タイトなスケジュールで行われるコンテンツ制作と中継業務のサポートをする。
「技術革新が進んで、国際放送センターの大きさは2016年のリオデジャネイロ大会時に比べて4分の3になり、スタッフの数も27%の削減になります」。東京大会では五輪史上初めて4K画像による中継が行われる。日本のNHKに至っては、さらにその上の8K画像を使用する予定だ。
「クラウドテクノロジーは五輪におけるデジタル改革の重要な柱。東京から北京、パリ、ミラノと続く五輪大会への技術的サポートを、我々は段階的に高めていく」
北京冬季大会は東京大会からわずか半年後に開かれる。「2大会の開催が決定した直後から、社内では2つのチームが並行してあらゆるプロジェクトを担ってきた。最大限のサポートの実現を目指しています」
アリババは、北京大会に用いられる聖火トーチのデザインも担当した。リボンがたなびくような螺旋構造で、その名称は「飛揚」。今年2月に公開されたトーチは、世界的コンペで集まった182のアイデアの中から選ばれたと中国メディアは伝えている。選考委員の1人は、「中国文化と五輪の精神、そして科学技術の進化を見事に表現したデザイン」と称賛する。
(文:ミニー・ワン 翻訳・編集:水野龍哉)