アジア太平洋地域を代表する広告代理店やメディア、デジタルエージェンシーを総合的に査定する「エージェンシー・レポートカード2017」。業績やイノベーション、イニシアティブ、作品、受賞歴、人材、そしてリーダーシップなどといった観点から、ADKには以下のような評価が下された。
社長:植野伸一(日本)、ロブ・シャーロック、片木康行(ADKグローバル)
持ち株会社:ベインキャピタル
2017年の評価:C
2016年の評価:C
ADKとWPPとの激しい論争、そしてベインキャピタルによるADKの買収は2017年の大きな話題だった。この買収、そしてADKが新たに得た「自由」は同社にとってだけではなく、おそらく広告界全体にとっても大きな意味合いを持つ。ADKが今後どのように生まれ変わるのか多くの推測が飛び交ったが、まだその答えを出すのは時期尚早だ。
ADKはこの刷新から、明らかに恩恵を受けるだろう。使命として掲げる「デジタル優先」を達成するにはまだ時間がかかるだろうが、被買収による利点は十二分に生かしていくに違いない。同社は今年、粉飾決算の疑惑があった傘下のアニメ制作会社ゴンゾーと法廷外で示談を成立させた。
ベインによる買収劇以外には2017年は大きな前進も混乱もなく、極めて平穏な1年だった。利益は前年比で6%増加したが、海外市場での存在感はまだ決して高くはない。
その潜在力を発揮する兆候はある。ADKは自らを「日本の多国籍企業」と位置づけ、日本ブランドのグローバルな成功を支えてきた。その証しが、アジアのビジネスの中心地シンガポールで15のピッチのうち12を勝ち取ったことだ。
ロブ・シャーロック氏はADKグローバルCEOとして責務を果たしてきたが、2018年には会長となり、元マッキャン社長の片木康行氏がシャーロック氏に代わってCEOとなる。ADKは「海外ビジネスを成長させるには国際的感覚を持った日本人リーダーが必要」と説明する。
東京本社とアジアの支社との橋渡しは長年の懸案だったが、進歩が見られた。特に五輪・パラリンピックのブランディングという重要案件を勝ち取ったことは、「ネットワークの拡大が要因」と同社幹部は見る。国内では小売業界とファストフード業界でビジネス案件を獲得したことが、最も大きな成果だった。
クリエイティブの面でも大きな信用を勝ち取った。ハイライトとなったのは、名古屋の建材メーカー「鶴弥」のために制作したキャンペーン「耐える男たち(Sticking together, no matter what)」がカンヌライオンズでシルバーを受賞したこと。この作品は娯楽性が高いものの、鶴弥はメジャーブランドではなく、ADKが主要クライアントのために同様の偉業を達成することを期待したい。
クリエイティブ面や戦略性で傑出していたものの、広告賞に恵まれなかった他の作品に台湾のユニ・プレジデント(統一企業)のために制作した「Little House of Moment」や、性的行為をスマートフォンで撮影するのをやめるよう説くインドのコンドームブランド「マンフォース」のためのキャンペーンなどがある。国内では日本広告業協会が主催するクリエイター・オブ・ザ・イヤー賞の7名のメダリストに、同社の女性クリエイティブディレクター、三井明子氏と渋谷三紀氏が選ばれた。
データ主導のサービスを提供する取り組みもいくつか行ったが、比較的スケールが小さい印象だ。最も意義あるベンチャーは、VRやAR、MRを専門とするクリエイティブスタジオ「ワン・トゥー・テン・イマジン」の買収だった。
ADKは2018年を楽観的に捉えている。ベインのビジネスへの関与が本義的に何を意味するかは、次第に明らかになるだろう。
概況報告:議論を呼んだADKのコンテンツビジネス
・ADKは人気の高い「ドラえもん」「クレヨ ンしんちゃん」の版権の一部を保有する。
・WPPのCEO、マーティン・ソレル卿はこの投資を「誤った道楽」とみなした。
・対照的にベインキャピタルは「大きな強みであり、差別化の要因」と捉える。
・ADKはコンテンツビジネスと広告主相手のビジネスとのリンクを図る。
(文:Campaign Asia-Pacific 翻訳・編集:水野龍哉)