インターブランドのアナリストによれば、キヤノンやパナソニックは、BtoBブランドとしての信頼感の醸成において苦戦を強いられている。
同社が発表した「ベスト・グローバル・ブランド2017」にランクインした100ブランドの中で、キヤノン(2016年42位→2017年52位)とパナソニック(68位→75位)はそれぞれ順位を下げた。
インターブランドジャパン代表取締役社長兼CEOの並木将仁氏は、都内で開催された記者発表会後の会見で、日本企業がBtoCのブランドとして築き上げてきた価値を、今後注力していくBtoBの事業にうまく活用できていない現状について語った。
「日本企業は概して、ブランドが何であるか、何を象徴しているのかを重視しています」と並木氏。「課題は、事業の軸足をBtoBへと移す中でブランド力を失わず、いかに既存のブランド力を活かしていくか。パナソニックやキヤノンの例にも見られるように、事業のシフト自体は良いことであっても、既存のブランド力をフルに活用できるのかが問われているのです」
そういった意味では、パナソニックの方がこの課題にうまく対処できているようだが、先行きは不透明だと並木氏は見ている。同社チーフ・ストラテジー・オフィサーの渡邉祐子氏によれば、主要な欧米市場でパナソニックは既にBtoCブランドと見なされていない。しかし、だからといって主要なBtoBブランドとも見なされていないのだとか。国内ではBtoC大手としての地位を保っているが、欧米では戦いを放棄したかのようだ。
とはいえ、キヤノンもパナソニックもBtoC事業を完全に見限った訳ではない。例えばキヤノンは、スマートフォンを肌身離さず持ち歩くミレニアル世代に向け、大々的なキャンペーンをヨーロッパで打ち出したばかり。パナソニックも革新的な製品を創造していくため、オープンイノベーションの文化を育む努力を続けている。
今年のランキング発表では、トヨタ(5位→7位)、日産(43位→39位)、ホンダ(21位→20位)、ソニー(58位→61位)といった日本のブランド企業についても取り上げられた。ランキングの順位を下げたトヨタ、キヤノン、パナソニックは、金額に換算したブランド価値も軒並み下落。ただしソニーは、ランクこそ下がったものの、ブランド価値は2%増、85億米ドルとなった。
ランキングのトップ3は、圧倒的な強さを見せつけたアップル(5年連続1位)、グーグル(こちらも5年連続2位)、マイクロソフト(4位→3位)という結果だった。アマゾンは8位から5位に浮上。この1年でブランド価値が最も上昇したブランドはフェイスブック(15位→8位)で、ブランド価値も48%増の482億米ドルだ。IBMは6位から10位へと下落。ネットフリックス(78位)やフェラーリ(88位)が新たにトップ100入りを果たした一方で、MTV、ラルフローレン、ゼロックスがランク外となった。
日本のブランドが全体的に不振な結果だったことは残念と語る並木氏だが、日産については「焦点がはっきり定まっている」と評価している(ちなみに日産は、インターブランドも属する「オムニコムグループ」の顧客)。同社は、電気自動車とインテリジェント・モビリティーの2点に焦点を絞り、コミュニケーションも巧みに展開している。「ブランドが目指すものが明確です。教科書通りのアプローチで、実行面においても成功しています」
インターブランドの試算によれば、日産のブランド価値は4%増の115億米ドル。ホンダも健闘しており、「二輪事業が主な推進力だが、四輪事業も伸びている」と渡邉氏。ホンダは競合する国内のブランドよりも優位に立っているといえる。自動車ブランドでは最強のトヨタについては「今後5年間の成長率は、比較的低水準に留まるのではないか」とのことだ。
独自のDNAを見失わないよう努力を続けたソニーは、ランクの順位は下がったものの、持続可能な業績回復が狙える立ち位置にあると並木氏。「日本企業は事業に集中し過ぎるあまり、ブランドに注意を払わないことが多く、特に事業を立て直している時期にその傾向が強く出ます。しかしソニーは、そうではありませんでした」
インターブランドはランキング作成において、3つの観点(財務力、ブランドが購買意思決定に与える影響力、ブランドによる将来収益の確かさ)を総合的に評価している。ランクインしたブランドのうち、同社の現在のクライアントがどこなのかは明らかにされていない。
(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳:高野みどり 編集:田崎亮子)