アマゾンのアジア太平洋地域での存在感は、市場を複占しているグーグルとフェイスブックや、広告会社、eコマース企業にとって脅威となっている。
アドテクノロジー企業だったアマゾンは5年前、広告界への参入を発表。1年の内に、アドエクスチェンジやSSP(サプライサイドプラットフォーム)に接続した、自立型のリアルタイム入札のプラットフォームを、独自に作り上げた。
ここで蓄積されたデータを使い、アマゾンは自社サイトを訪れたユーザーに商品のリターゲティングを実施。既存顧客のカート破棄率を下げ、閲覧や購入の履歴に基づき関連商品を販売することに、早くから成功したeコマース企業となった。顧客獲得がすべての世界で、アマゾンは、顧客維持という角度から攻めたのだ。
その結果アマゾンは、オーディエンスに有形の製品を販売するだけでなく、その製品のメーカーにオーディエンスを「売る」ようにもなった。
2016年には、デマンドサイドプラットフォーム(DSP)とサプライサイドプラットフォーム(SSP)を発表した。
アマゾンのセグメントに自動的にアクセスする「アマゾン・アドバタイジング・プラットフォーム(AAP)」は、ウェブ、モバイル、映像のフォーマットを問わず、アマゾンが運営するZappos(アパレル関連)、Soap.com(日用品)、Diapers.com(ベビー用品)、IMDb(映画・テレビ関連)などのサイトにアクセスする唯一の方法だ。SSP側も網羅すべく、アマゾン・パブリシャー・サービス(Amazon Publisher Services, APS)もスタートした。
実際の消費行動に基づいたデータや、購入意思を持ってアクセスしてくるオーディエンスのおかげで、同社の広告収入は世界的に見ると10億米ドルを超える。
グーグルやフェイスブックを訪れるユーザーは、単にコンテンツを消費し、広告を見るだけだ。しかしアマゾンのユーザーは、最初から商品購入の意思を持っており、自分が直接的・間接的に興味を持つ商品に関連した広告に、より影響を受けやすい傾向にある。
楽天マーケティングのアンソニー・カパノ氏も「アマゾンに対抗するため、小売業者のオンラインでの収益を、費用対効果が高くリスクが低い方法で上げる支援をしている」とし、そのために「データに基づいた広告戦略によって消費者を予測・リターゲットし、また主要アフィリエイトパブリシャーと組んでいる」と話す。
オンラインショッピングのデータ規模においてアマゾンと最も競り合っているアリババは最近、ピュブリシス・グループと提携した。ユニデスク(UniDesk)と呼ばれる市場開拓プラットフォームを作成するためだ。
グーグルやフェイスブックとは異なり、アマゾンの主たる機能はオンラインストアであり、メディアメーカー(写真投稿を中心とした米国でのサービス「Spark」によるもの)、広告システムとしての機能がそれに続く。デジタルのエコシステムの中で一気通貫したサービスを提供するアマゾンに対抗するには、グーグルやフェイスブックはさまざまな努力を同時にしていかねばならないだろう。
調査会社フォレスターのシニアアナリストである王小峰氏は「主要テクノロジープレイヤーであるアマゾンは、パーソナライゼーションや知的エージェントといった技術的な強みを活用し、より良い顧客体験を提供することも可能」と語る。
「ブランドは検索表示に甘んじることなく、新しいプラットフォームのために準備すべき」と、アイプロスペクトでアジア太平洋地域での戦略チームを率いるボウワン・スパンブルク氏は語る。「きめ細かな市場最適化戦略を含む、一気通貫したアマゾン戦略が必要。適切なアプローチやパートナーなしに、ブランドがこの新たなプラットフォームに挑戦しようものなら、消費者の関心もロイヤリティーも得るのはかなり難しくなるでしょう」
(ババー・カーン・ジェイブド 編集:田崎亮子)