Takashi Ouchi
2016年6月24日

「サービスデザインは新しいユニコーンか?」

サービスデザインがすべての答えになるわけではないが、非常に重要なコンセプトである。どのようにビジネスに正しく取り入れていくべきか理解をする必要がある。

大地崇氏
大地崇氏

サービスデザインは古く本質的な考え方

サービスデザインは、これまで自分たちができなかったことが突然できるようになる「銀の弾丸」や「ユニコーン」のような秘密兵器のように扱われている。
しかし、サービスデザインとは、顧客と提供側との間のインタラクションを計測したり、進化させたりする一連の昔から存在する考え方で、けっしてユニコーン(まぼろし)ではない。
では、とはいえ、どうすればこうした考え方を自分たちの商品や事業に取り込んで前進していけるのか、考えてみたい。

業界の潮流とその仕事の性質

この数年で、エッジをサービスデザインに置いた多くのファームが事業会社やより大きなファームに買収されていった(Adaptive PathはCapital Oneに、Hot StudioはFaceBookに、Fjordはアクセンチュアに)。
これは、「サービスデザインコンサルティング」というビジネスに対し、大きな資金やプロジェクトを持つ事業会社やファームがまず目をつけ始めたということに加え、同時にこの仕事が「すり合わせ」の塊であることが理由だ。つまり、リーガルやファイナンスアドバイザリーのように外部モジュール化していつでも取引可能というものではなく、機能させるには事業の中に取り込むか、せめて周辺のマーケティングコンサルティングサービスと一体化しないとうまくいきにくいタイプの仕事だからだ。

サービスデザインとは価値観の表明であり、ナローパスを通す仕事

コーヒーショップにしろ、ゲームアプリ販売にしろ、ユーザーが欲しいものや事業者が売りたいものがあり、この取引を良い体験に仕上げてビジネスを大きくする。この供用機能の進化と最適化の繰り返しだ。
サービスデザインは突き詰めると、この機能を構造に落とし込んで運用できるところまで持って行くことだ。それは、たいてい複数の要求や背反する条件にさらされ、このトレードオフを解決することが鍵となる。多くのコーヒーショップで、ソファーの快適さと顧客回転率はどちらも重要で、そして両立は難しい。
なので、サービスデザインとは、こうしたトレードオフが生じた場合に、なにを取ってなにを捨てるのかという価値観の表明であり、これをデザインポリシーという。「ジャーニーマップ」も「サービスブループリント」も「ペルソナ」も、すべてはこのトレードオフに直面した際の選択の可視化だ。
そしてこの、トレードオフの解決というナローパスを通す仕事は、部外者がちらりと眺めてひょいとアドバイスできるような仕事とは真逆であり、それが周辺のマーケティングサービスとの統合や事業会社への内部化が進んでいる理由だ。

いまサービスデザインが挑戦していることは「優れた偏り」

トレードオフの解決というと、「適当にバランスを取る仕事」と受け取られそうだが、皆が目指すのはおそらくそういうことではない。別の言い方をすれば「イノベーション」だろう。それまでは不可能だと思われていた両立が可能になるようなアイディアだ。
ここに、(クリステンセンが指摘したものとはまた別の!)ジレンマがある。
イノベーションとは定義上、それまでみんなが体験していなかったものを生み出すことだ。では、それが、事業や経営のプロセスとして、計画したり管理することはできるのか、会社のプロジェクトなんかになるのか?ということだ。
おそらく必要なのは合理性や合議のツールではなく「優れた、偏った意思決定」を生み出せるかどうかだ。
この実践者の代表は、スティーブ・ジョブスやイーロン・マスクだが、彼らの天才性(のせめて一部)を組織で担保する必要がある。

鍵は相互理解と決断

乱暴にいうと「わかっているやつが大胆に決める」ということにつきるのだが、大きな組織はサイロ化されてそれこそが難しい。そのためにやるべきことに、古い・新しいは関係ない。たとえば、「デザインシンキング」は最近注目を浴び始めた優れた相互理解のアシスト方法だし、たとえば「プロダクトマネージャー」はIT業界で注目されつつあるが、これはずいぶん歴史があり、自動車業界は60年代に開発主査制として広まり意思決定の偏り化を進めることができた。
重要なことは、組織の人たちがお互いの役割や立場を超えて、共通の言語で実直に話しあい、そして誰かが覚悟を持って決めるということだ。

大地崇
電通
デジタルマーケティングセンター
エクスペリエンスマーケティング部長
コンサルティング・ディレクター

(編集:水野龍哉)

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