ウェビナー、製品発表、ブランドキャンペーン、ズンバ(フィットネス)のクラス、収支報告など、マーケターや組織はこの10カ月というもの、イベントの種類を問わず、すべてオンライン化することを余儀なくされた。オフラインのイベントと同じようにオーディエンスを引き込むにはどうすればいいのか。バーチャルイベントのログアウト率を下げる方法はあるのか。オフラインイベントの「会場」にあたるものをオンラインでも同じように再現できるのか。業界は新たな難問を突き付けられた。
バーチャルイベントに関するOgilvyの新しいレポートによると、人がたくさん集まるイベントに対する人々の態度は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって完全に変わったという。この行動の変化をうまく利用する人気ブランドもすでに出てきており、たとえばFortniteは先ごろ、ラッパーのトラヴィス・スコットと組んでゲーム内で音楽パフォーマンスを提供し、1000万人を超えるファンを集めた。
しかし、イベントの制作費を削減してバーチャルで必要な部分はすべてZoomに頼ればよいわけではなく、その前に考えるべき点がいくつかある。オフラインのイベントでは、イベント前の登録からイベント後のフォローアップまでのすべてのフローを考えるのと同じように、バーチャルなイベントでもフローについて考えをまとめておくべきだ。
Ogilvyのリージョナルマネージングパートナーでアジアにおけるソーシャル責任者を務めるアンドレアン・ルクレール(Andréanne Leclerc)氏は、バーチャル環境では「インターネット接続」が必要なことを除けば、引き続き同じルールがあてはまるのではないかと語る。
「イベントの前には、登録して議題等の情報を受け取る。少し変わるとすれば、人々が見られるようなプロフィールの作成が必要になるかもしれないことだ。場合によっては、アバターを作って使えるようにすべきかもしれない」(ルクレール氏)
オフラインのイベントでは、サイドテント(ブレイクアウトルーム)や打ち解けた雰囲気の会話、並行して実施されるプレゼンテーションなど、「副次的」な催しが行われたり、さまざまなセクションが設けられたりする。バーチャルイベントでも、たとえばさまざまな対話やテーマをブレイクアウトルームで取り上げたりすれば、同じことが十分にできる。
また、ルクレール氏によれば、バーチャルイベントがリードジェネーレションの優れたモデルとして機能することも、大きな利点だという。
同氏は「イベント前からイベント後まで追跡できる完全なリード生成のファネルが手に入る。オフラインイベントでは、ブースを訪問して、名刺を渡してくれる人もいるが、その人をさらにフォローアップするのは難しいこともある」とした上で、次のように述べた。
「しかし、バーチャルイベントでは、電子メールの情報を追跡できるのでフォローアップがずっと簡単だ。これがイベントのマネタイズにおいて大きなゲームチェンジャーになっている。手に入るデータが増えてリードの生成に繋がるのだから、ブランドからするとまさにうれしい驚きだ」
主催者側が活かし切れていない部分があるとすれば、イベント後のフォローアップだ。ルクレール氏によると、コンテンツやフォローアップミーティングによるリターゲティングもずっと簡単になっており、手段も増えている。
「今はあまりにも短期的なイベントで終わっている。イベントの内容をチャネルで使うのでもいいし、ジャーナリストとの交流でもかまわないが、プレゼン後の顧客との対話の進め方にブランドは目を向ける必要がある。バーチャルイベントを開催するだけでお終いと考えるのは本当に間違っている」とルクレール氏は言う。
「イベント後の調査もあり得るだろう。会話を続けるためソーシャルメディアでつながる人や、関心が共通しているのでグループに招待してくれる人もいるかもしれない。いずれも(イベント後の)対話のきっかけになる」
注目のバーチャルイベント
>欧州の観光協会Visit Faroe Islands(VFI)は、観光客の関心を維持するのに苦戦していたことから、1日2回のバーチャルツアーを開始した。ツアーガイドが頭にカメラを取り付けて、ゲームの世界のようにフェロー諸島を案内する。なかでもすごいのは、案内するガイドに視聴者が指示を出せる点だ。何なら、ガイドに走ったりジャンプしたりしてもらうことだってできる。
>日本ではパンデミックのため多くの学校で実際に人が集まる卒業式が中止を余儀なくされた。そんななか、発想を転換して「Minecraft」を取り入れたバーチャルな卒業式を開催した小学校があった。この日、生徒たちは、ゲームをしたり笑ったりしながら、この日一日を共に過ごしたようだ。とにかく楽しそうな少年の顔を見てほしい。このアイデアはペンシルベニア大学の卒業式でも採用された。
バーチャルイベントにはエンゲージメントの問題がつきまとう。オフラインであればイベントに最後まで参加する人も、オンラインは参加のハードルが低いこともあり、途中で離脱してしまう可能性があるのだ。
「オフラインのイベントは、来場するのに手間がかかるので最後まで滞在する可能性が高い。(バーチャルイベントでは)ほかのイベントにはないものを考え、人々が集まるサブスペースを作ることが重要だ。また、プログラムを組む際は盛り上がるものを最後に取っておくべきだ」(ルクレール氏)
オフラインイベントにおける聴衆の行動を再現してみるのもひとつの方法だろう。イベントに参加する理由はさまざまで、学習、発見、交流、制作、視察、体験などがある。ならば、Zoomによる一方通行の講演ではなく、こうしたものをバーチャル環境で再現する方法を考えてみる価値はある。
新しいフォーマットをいろいろ試してみるという点について言えば、Zoomや従来型のウェビナー方式に依存しすぎるきらいがあるとルクレール氏は言いたいようだ。ブランドはソーシャルメディアも、ポッドキャストなどの音声フォーマットも十分に活用できていないと同氏は述べている。ルクレール氏がパンデミックによって今後成長すると予測している分野は、拡張現実(AR)と仮想現実(VR)だ。
ルクレール氏は、「最終的な選択肢として残るのはVR体験とAR体験であり、人々はそれを待ち望んでいる。本当に心をつかんで人々に喜んでもらえる分野だ」と述べている。たとえば、年1回開催されるコンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)は、Microsoftと提携し、2021年には、出席者が「展示会場を歩き回ったり」「さまざまなカンファレンスルームに入ったり」できる完全なバーチャル見本市を開催する。
バーチャルイベントの開催を目指すなら無料にしてはならない。ルクレール氏はそう提言している。「無料イベントの問題点は、価値が低いと受け止められることだ。無料イベントは、申し込むだけで参加しない人の割合がかなり高くなることが多い」
「もちろん、著名人のような、他のイベントにはないものを用意すれば人々は参加する。しかし、提供するイベントの真の価値は何かをもっとよく考えるべきだ」