Staff Reporters
2020年7月03日

パワーリスト2020:「APACベストマーケター50」の日本人

Campaign Asia-Pacificは、アジア太平洋地域(APAC)で強い影響力を発揮するマーケター50人を選出した。名付けて「パワーリスト2020」。その中に名を連ねた日本人4名をご紹介する。

パワーリスト2020:「APACベストマーケター50」の日本人

パワーリスト2020はツイッター社との共同企画だ。初のリストを発表したのは2018年12月。以来、世界の情勢は大きく変化した。激動の時代にあって、ブランドのマーケターは消費者とのエンゲージメントを再構築するため、かつてない困難に直面している。その中で、我々は確かな実績を上げているマーケターに着目した(全リストはこちらから)。

“2020年はやっと半分が終わったばかりですが、波瀾万丈という言葉を使ってもこの半年を十分に表現することはできないでしょう。危機と不確実性の時代にあって、マーケターたちの素晴らしいリーダーシップと実績に目を向けることはこれまで以上に重要です。我が社は独自のプログラム「#LeadersForGood」でCampaign Asia-Pacificと協働、ここにパワーリストを発表できることを誇りに思います。このパートナーシップは、グローバルな利益を優先したものです。マーケターの選考基準は、消費者へのサポートや有意義な情報の提供、そしてインスピレーションにあふれた実績。差別化を実現し、コミュニケーションを牽引したブランドのリーダーに注目しました。これらのマーケターと仕事をする機会を、私は楽しみにしています”

−−  マヤ・ハリ(ツイッターAPAC、ヴァイスプレジデント)

ハリ氏が指摘するように、単にブランドを牽引しただけでなく、消費者とどれだけ意義あるコミュニケーションを実践し、エンゲージメントを深化させたかがマーケターの大きなポイントとなった。

では、選ばれた4人の日本人マーケターをご紹介する。


●  河野奈保(楽天 常務執行役員、チーフマーケティングオフィサー)

日本有数のeコマースプラットフォームに加え、新たにスタートした楽天モバイルでも重責を担う、日本では数少ない女性エグゼクティブ。楽天在籍は17年に及ぶ。2013年、36歳の時に女性として最年少の執行役員となり、17年にコマースカンパニーのシニア・ヴァイス・プレジデントに。18年には楽天グループ、19年には楽天モバイルのCMOに就任した。

これまでの実績で特筆すべきは、国内最大のeコマースサイト「楽天市場」のモバイル分野(流通総額の約75%)を躍進させたことだ。モバイルへの情熱は人一倍で、同社オフィシャルブログの中でも「入社の動機は、未来のプラットフォームであるモバイルに関われるから」と語っている。「独創的な視点からオンラインショッピングについて学べ、会社に貢献できるのが魅力でした」。

CMOとしては、2019年に横浜で開かれた国内最大級のイベント「Rakuten Optimism」を牽引。また米プロバスケットボールリーグNBAのスター選手、ステフィン・カリー選手とブランドアンバサダー契約を結び、北米市場への進出を強化した。他のスポーツブランディングにも積極的に関わり、サッカーの世界的名門クラブFCバルセロナとのパートナーシップ契約や、プロ野球の楽天イーグルス、Jリーグのヴィッセル神戸の運営に尽力。昨年は台湾プロ野球のラミゴ・モンキーズの株式を取得し、新たに「楽天モンキーズ」を立ち上げている。


●  西村健(マンダム 取締役常務執行役員、チーフマーケティングオフィサー)

マンダムは誰もが知るブランドではないかもしれない。だがその製品はAPACの多くの家庭で愛用されている。ソニーやパナソニックといったビッグネームとは異なるが、ブランディングに長け、海外事業に成功した日本ブランドの好例と言える。最もよく知られる製品は男性用化粧品「ギャツビー」。APAC12カ国で販売され、売上高は3000億円に上る。女性用の「ビフェスタ」「ルシードエル」といった製品ラインも広く浸透する。

西村氏は電通を経て2008年にマンダムに入社。シンガポール駐在時には企業戦略を担い、2018年にCMOに就任した。ブランドはそれ以前から確立されていたが、同氏就任後も業績は堅調。現在はすべてのマーケティング部門を管轄する。

ギャツビーは一風変わった愉快な広告で知られる。2019年には電通が手がけた「盛られハザード」がスパイクスアジアでフィルム部門のゴールド、デジタル部門のシルバーを受賞。ローカル化も巧みで、例えばインドネシアではオートバイに乗っても髪型が乱れない製品を広めたり、日本ではアニメキャラクターを広告に使ったりと多様なアプローチを実践。また、働く女性の意識調査を行ったり、学生クリエイターのための「ギャツビー・クリエイティブ・アワード」をAPAC12カ国で催したりと、積極的な活動でブランド認知度を高めている。


●堤 雅夫(日産自動車 日本マーケティング本部副本部長)

カルロス・ゴーン元会長の不正疑惑とレバノンへの逃亡、業績の悪化、リストラなど、ブランドイメージを悪化させる話題が1年半ほど続いた日産自動車。イメージ挽回の重責を託されたのが堤雅夫氏だ。P&G、フィリップスジャパン、すかいらーくでマーケティングを担当した後、2018年より日産自動車に入社。直後に、テニスの大坂なおみ選手とスポンサー契約を締結した。その後、全米オープンに優勝した同選手がブランドアンバサダー就任発表会で、プレゼントされる予定だったLEAFと「白いGT-Rが好き」と発言して話題となり、就任記念モデルのGT-Rには予約が殺到した。

だが、これだけで立て直しができないことは堤氏も熟知している。ショールームを訪れる前にすでにウェブ上のコンテンツを比較検討して購入意思を固める消費者が増えているという。そこで車種ごとにモバイル用のクリエイティブを複数用意し、投資効果もリアルタイムに検証するなど、テンポの速いアプローチを採用している。


●  山本尚美(資生堂 チーフクリエイティブオフィサー)

100年以上にわたって社内にクリエイティブ部隊を持つ資生堂は、革新的かつ実験的なクリエイティブを発信してきた。カンヌライオンズでゴールドを受賞した「High School Girls? メーク女子高生のヒミツ」や、「The Party Bus」などジェンダーのテーマを美しく描いた作品が話題となった。また昨年は横浜の研究開発拠点で、さまざまな年齢の顔立ちを3次元でリアルタイムに再現するインスタレーション「BEYOND TIME」を実施した。

クリエイティブを統括するのは、同社に30年以上勤め、ニューヨークや中国での勤務経験もある山本尚美氏。昨年からは、社会価値創造副本部長も兼務している。「未来の消費者は、あらゆることを意識するようになる」と語る同氏は、ブランドも世の中のために何ができるかを意識することが大切だと考えている。

(文:Campaign Asia-Pacific編集部 翻訳・編集:水野龍哉、田崎亮子)

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