Daniel Wilkinson
2018年5月15日

フェイスブック、ブロックチェーン専門チームを設立。今、何が求められているのか

ブロックチェーンがマーケティングに重要な意味合いを持つことは言うまでもない。だが期待が先行し、「まだ歩き出す前に走る」ことを皆が求めているかのようだ。この技術の活用を狙うマーケターは今、何を考慮すべきなのか。

フェイスブック、ブロックチェーン専門チームを設立。今、何が求められているのか

マーケターと消費者との関係を変え、企業間の合理的契約を実現し、プログラマティックを駆逐する……ブロックチェーンにはかなり大きな期待が寄せられている。だが、この技術はまだ誕生したばかりだ。ヒトに例えるなら、病気治療のためにもう貯金を始めなければならない、と言ったところか。

ブロックチェーンの恩恵は、かなり大きいと考えられている。既に金融市場には変革をもたらし、この技術をマーケティングにどのように生かすか研究に励む人々も少なくない。実際、フェイスブック(FB)はこれまでで最大規模のエグゼクティブの配置換えを行い、ブロックチェーン対策の専門チームを発足させた。先週までFBメッセンジャーアプリのチームを率いていた元ペイパル社長のデビッド・マーカス氏が新チームを主導。また、インスタグラムのエンジニアリング担当副社長ジェームズ・エヴァリングハム氏とプロダクト担当副社長のケビン・ヴェイル氏を引き抜き、「ブロックチェーンとは何であり、どう活用すべきか」という課題に取り組んでいく。

こうした動向はFBだけではない。多くのブランドやパブリッシャーも同様のテーマに取り組むが、いくつかの難題がある。3月に開かれた「ランプアップ(RampUp)2018」のワークショップでは、その課題や現実的な可能性にスポットライトが当てられた。

課題:
ブロックチェーンはスピードアップが必要

デジタルブランドマーケターがブロックチェーン技術の恩恵を受けるには、毎日数十億のウェブサイトを訪れる何百万という人々の情報をブロックチェーンに処理してもらわねばならない。現段階でブランドがブロックチェーンを利用するには、そのスピードがまだまだ遅いのだ。

消費サイドからのデータを挙げてみよう。ペイパルは毎秒平均で193件、VISAは1667件のトランザクションを行う。これに対し、ビットコインが現行のブロックチェーンで扱えるのは毎秒約7オペレーション。残念なことに、このスピードはブロックチェーンのスケールが拡大するにつれ更に遅くなる。

消費者の理解

もう1つの課題は、消費者にブロックチェーンの考え方を納得し受け入れてもらい、広告に個人情報を利用することを了承してもらわなければならない点だ。加えて、個人情報の照合を効率的に行うには、ほとんどの消費者に標準的なデータ体系化に適応したブロックチェーンを選んでもらう必要がある。

消費者にIDネットワークへの参加を促すには、ソーシャルネットワークとほぼ同様、彼らに明らかな恩恵がなければならない。FBの場合、写真のシェアや投稿の閲覧機能などがあってもユーザーが10億人に達するまで10年ほどかかった。前述したように、ブロックチェーンの課題は克服できないものではないし、FBもそれに取り組んでいる。だが、一夜にして全てを解決できるものではないのだ。

大いなる可能性:
個人的なつながり

ブロックチェーン技術によって、ブランドがマス市場でのコミュニケーションから消費者とのマンツーマンの関係に移行できることは明白だ。このつながりは非効率性を排し、デジタルマーケティングにおける企業のROI(投資利益率)を高めるだろう。

ブロックチェーン内の情報を活用することで、マーケターは消費者のオンライン上の行動を妨害することなく、適切な時に、適切な人々に、適切なメッセージを届けることができる。消費者はより迅速かつシームレスに、必要な時に必要とする商品やサービスを見出すことができるだろう。

プライバシーの問題を解決

最近は、個人情報の漏洩問題がしばしば取り沙汰される。消費者は保護措置を強く求めており、政府機関による対策も強化されつつある。ワンタイムパスワードのようにブロックチェーン技術を活用すれば、消費者は自分たちの情報を移動させずにブランドに開示でき、ニーズを最も満たしてくれるブランドとつながることができる。暗号キーを使うことで消費者情報のデータベースはハッキングなどから守られ、高い安全性のもと、マーケターはターゲットとする市場に到達できるのだ。

消費者にとってのインセンティブ

こうした特徴は全て、消費者の金銭的メリットにもつながってくる。マーケターは消費者の情報をより細かく知ることで、予算を再配分して顧客や潜在顧客により効率的に、より適切な特典やディスカウントを提供できる。このようにブロックチェーンは、情報の蓄積によって消費者に利益を還元できるユニークな側面がある。

マーケターが今、できること

ブロックチェーンの様々な可能性が具現化するには多少時間がかかるだろうが、それまでにマーケターが準備すべきことをいくつか挙げる。

消費者のプロフィールの確立

ブロックチェーンの戦略的優位性の神髄は、現在の顧客の嗜好や興味、趣味に基づいて新たな顧客を素早く見極められる点だ。今の顧客の正確なプロフィールや、なぜあなたのブランドを支持するようになったかというプロセスを把握しておけば、ブロックチェーンの進歩とともにその潜在力も高められるだろう。

マーケティングミックスの最適化

現行のツールを見直し、マーケティングミックスを最適化することが大切だ。適切な消費者に適切な場で、適切なタイミングで適切なメッセージを届ける −− このことを理解すれば、ブロックチェーンが進歩したときにライバルたちに大きく差をつけられる。マーケティング上の基本的な課題は、一朝一夕に変わるものではないのだ。

変化への準備

FBが現在行っているように、ブロックチェーン技術をきちんと理解し、「幻想」と「現実」を判断できる社内の人材を見極めることが肝要だ。まだ全ての社員がフルタイムでブロックチェーンと取り組む必要性はないが、チームを編成して有用な情報を集めておけば、対応が求められた際に迅速に行動でき、ライバルより優位に立てる。

最終的には、現在の広告モデルは全く新しいものに取って代わることになろう。この新しいモデルでは、ブランドは消費者にとってより近しい存在になり得る。個人情報に関する消費者の懸念は払拭され、ブランドは自らのメッセージがいつ、どこに発信されるかをよりコントロールできるようになる。

パブリッシャーは、オーディエンスのニーズを最も満たすプロダクトで、彼らといち早くつながることができるだろう。ブロックチェーンを活用するブランド、特に消費者とより強固な関係を持つ消費財ブランドなどは、市場で大いに躍進することになろう。

(文:ダニエル・ウィルキンソン 編集:水野龍哉)

ダニエル・ウィルキンソンは、英・米・南アフリカにオフィスを構える独立系エージェンシー「ジェリーフィッシュ(Jellyfish)」でペイドメディア部門責任者を務める。

提供:
Campaign UK

関連する記事

併せて読みたい

1 日前

世界マーケティング短信:米司法省がグーグルにChrome売却などを要求

今週も世界のマーケティング界から、注目のニュースをお届けする。

3 日前

トランプ再選 テック業界への影響

トランプ新大統領はどのような政策を打ち出すのか。テック企業や広告業界、アジア太平洋地域への影響を考える。

3 日前

誰も教えてくれない、若手クリエイターの人生

競争の激しいエージェンシーの若手クリエイターとして働く著者はこの匿名記事で、ハードワークと挫折、厳しい教訓に満ちた1年を赤裸々に記す。

2024年11月15日

世界マーケティング短信:化石燃料企業との取引がリスクに

今週も世界のマーケティング界から、注目のニュースをお届けする。