SNS、デジタル、ビッグデータ、AI……。人々にとってこれらのキーワードは、きちんと把握できていなくとも、話題性があり重要であることは明らかなものだった。
そして今年登場した新たなキーワードが「ブロックチェーン」だ。だがこれは手軽に使える、ちょっとしたキーワードというわけではない。2、3カ月後に忘れ去られてしまうブームでもない。ブロックチェーンは、この業界にいる人間が詳細をよく理解しておくべき、真のゲームチェンジャーだ。その適用範囲はビットコインをはるかにしのぎ、考え得るほぼ全てのサービス型産業に及ぶ。
もちろんそこには広告やマーケティング、通信といった業界も含まれる。これらのサービスの実行や販売において、ブロックチェーン技術がパラダイムシフトを引き起こすかもしれないと言っても、決して大げさではない。
中間業者よ、さようなら
大まかに言ってブロックチェーン技術は、プロトコルによるオープンなプラットフォームを形成し、分散型のデジタルエコシステムの中でステークホルダー(利害関係者)を結ぶことを可能にする。つまり、そこにどんな参加者がいて何が行われているかが誰にでも分かる、完全に透明なネットワークのことだ。ブロックチェーンが可能にするシステムとは、ネットワーク内の全員にその内容が開放され、暗号技術のおかげで改ざんが不可能な、公開台帳とも言える。
実際の運用において、ブロックチェーンは企業と消費者とを直接結びつけることができる。そこでは、誰かの代理として振る舞う中間業者を必要としない。もう取引によって「無用の価値」が生み出されることがなくなるわけだから、これが意味するところは大きい。
例えばウーバーは大人気のサービスに成長し、現在では時価総額510億米ドル規模になった。だがブロックチェーンを使えば、運転手と利用希望者とを直接つなぐシステムを作ることができる。そこでは暗号通貨やトークンによって支払いが直接行われ、中間業者としての役割は不要になり、ウーバーに手数料を払う必要はなくなる。同じことはエアビーアンドビー(Airbnb)やレコード会社、あるいは多くの企業にも言えるだろう。
イーサリアムの共同創設者で、ブロックチェーン企業「コンセンシス(ConsenSys)」の創設者であるジョー・ルービン氏は、次のように説明する。「企業が消費者にサービスを提供するという形が、逆のものになるのです。プロトコル主導のこういったオープンフラットフォームが、かつて企業が提供していたサービスを消費者に届けるエコシステムを作り出すというわけです」
マーケティングや通信の世界で中間業者といえば、通常それは代理店や、アドテクノロジーのベンダー企業を指す。後者の場合を見てみよう。デジタル広告のサプライチェーンが得ている多くの利益に対し、長年不満の声があった。2016年、ガーディアン紙の最高売上責任者が語ったところによれば、広告主がプログラマティックに使う1ポンド当たり、実際にパブリッシャーに渡ったのは、最悪の場合でわずか30ペンスだったという。
数多くの中間業者が存在し、その一つひとつが分け前に預かっている。でもブロックチェーンがあれば、もう中間業者はいらなくなるだろう。パブリッシャーは自前のアドエクスチェンジの仕組みを作り、広告主と直接取引することによって、CPM率を大きく向上させることができる。
「中間業者になったり、モノやサービスなどの流れの間に立つことで利益を得てきた企業や人々、あるいは流れの間に立った上で人の注意を引くことに長けてきた代理店はもういなくなるというわけです」。ブロックチェーンベースのコンテンツプラットフォームを提供するヴーラー(Vuulr) のCEOで、かつてはアドマンだったイアン・マッキー氏はこう語る。
「ブロックチェーンでは中間業者は不要となります。実は消費者から見れば、中間業者は何の価値ももたらさないのに、金銭的利益を得ているのですから」
広告業界の要となるのは、質の高いコンテンツだ。スマートフォンの登場により、消費者はこれまでになく多くの質の高いコンテンツを求めるようになっている。長い間、広告業界はコンテンツ作りに資金を費やし、デジタルの時代にその力関係は広告主やブランドに有利な形に大きく変わった。
だがブロックチェーンは、新たなコンテンツのエコシステムを作り出すことで、これをひっくり返すことができる。クリエイターがブランドやパブリッシャーと直接結びつき、サービスの提供において同じ土俵に立つことができるからだ。同様に、これまで押し付けがましいくらいに消費者の注意を引くことに傾注してきたブランドは、消費者と直接結びつき、消費者が求める広告を提供することができるのだ。
「こういった状況では誰かが過剰に支配したり利益を得ることはなくなり、理想的には、もっと物事が公平になるというわけです」とルービン氏は言う。
このように聞くと、絵空事、あるいは場合によっては啓示的に聞こえるかもしれない。ブロックチェーンの普及やマーケティングコミニュケーション産業の転換には、まだ多少の時間を要するだろう。だが、VMLで 東南アジアの国際アドバイザリー部門の責任者を務めるオリバー・エリクソン氏は、押し寄せる潮流を見据えてこう語る。
「短期的に見ればブロックチェーンは、広告主や代理店、アドテク企業、そしてパブリッシャーの間にもっと説明責任を持たせることができます。つまりエコシステムに信頼を呼び戻すことができるのです。長期的に見れば、コンテンツクリエイターやブランド、そして消費者の間の基本的な経済関係を大きく向上させるものだと信じています」
次週はパート2として、ブロックチェーンの透明性や信頼性、そして広告活動における影響について、より詳細にお届けする。
(文:ファイーズ・サマディ 編集:田崎亮子)