David Blecken
2018年8月10日

「プラごみ削減に、コミュニケーション戦略は不可欠」

人々の行動を変えていくには、コミュニケーションの専門家の力が必要 −− 東京都庁の責任者が語る。

これから再資源化される廃プラスチック。中国への「輸出」ができなくなり、日本の廃棄物処理は岐路に立たされている。(写真:シャッターストック)
これから再資源化される廃プラスチック。中国への「輸出」ができなくなり、日本の廃棄物処理は岐路に立たされている。(写真:シャッターストック)

プラスチックごみによる海洋汚染は、多くの人々が認識しているにもかかわらず、ほとんど対策が取られていない問題だろう。日経アジアによれば、年間800万トンに及ぶプラごみが世界の海に流れ込み、その80%以上がアジアからのものだという。

こうした長きにわたる人間の悪習を、コミュニケーション予算を一切使わず変えていくという難題に東京都庁が挑んでいる。

日本の過剰包装は世界的に知られている。英国などではスーパーマーケットのレジ袋を段階的に廃止することにほぼ成功したが、日本の小売店では客へのサービス意識から、プラスチックを多用した包装を今でも店員が日常的に行う。エコバッグの使用はいまだ主流ではない。

つい最近まで、日本は廃プラスチック処理を中国に依存してきた。プラごみの70%をリサイクル用として「輸出」していたからだ。だがこの1月、中国政府がプラスチックを含む24種の固体廃棄物の輸入禁止措置を発表したことで状況が大きく変わった。国内の至る所で廃棄物が大量に放置されるかもしれないという、これまで想像もしなかった問題がにわかに現実味を帯び始めたのだ。

都は今年度予算に1400万ドル(約15億4千万円)を割り当て、リサイクル処理能力の向上を明言した。だが環境保護団体は、「消費者の過剰なプラスチック使用を抑えることこそ最重要課題」と指摘する。

2020年の東京五輪に向け、都は環境問題を改善すること、そして大会期間中の二酸化炭素排出量をゼロにすることを高らかに宣言した。その取り組みの一環が7月に立ち上げた、持続可能な社会づくりを直接的に推進していく「チームもったいない」だ。

チームを牽引するのは、都環境局資源推進部専門課長の古澤康夫氏。では、現在どのような課題に直面しているのか。

同氏が取り組む様々な問題の1つが、使い捨てにされる本来的には不要なプラスチック製品の削減。「人々への啓蒙を、今すぐに始めねばなりません」。

ここで「人々」というのは、一般都民と小売業者の両方を指す。「スーパーマーケットのほとんどがレジ袋を減らすことに積極的に協力してくれますが、コンビニエンスストアやデパートはまったく受け入れようとしません」。

消費者へのアプローチは、「同じ目線に立ってコミュニケーションを図ることが、トップダウン方式よりも効果的でしょう」。

大阪では、スターバックスに次いでインターコンチネンタルとヒルトンホテルがプラスチック製ストローの使用を取りやめた。だが世間一般の人々は、こうした対策がなぜ取られるのかまだ理解できていないという。「プラごみに対する人々の認識を国レベルで変えていくためにも、その先鞭をつけるのは東京都の責務」とも。

現在直面する喫緊の課題は、コミュニケーション対策の予算がまったくないこと。そして、その専門知識を持ったスタッフがチーム内にいないことだ。

同氏は通常の宣伝やPRに力を入れるより、コンサルテーションの必要性を訴える。「戦略が明確なものであれば、それによって宣伝かPRかという方針は決まってくる」。一般的に日本の公的機関のコミュニケーションツールは、「無味乾燥でやたらと文字量が多い」。「欧州のものはよくデザインされ、全てのプロセスでコミュニケーションの専門家が関与していることを感じさせる。対照的ですね」。

「日本でもやっとコミュニケーション戦略を考慮するようになってきましたが、プロセスがまったく異なります。コミュニケーションのプロを最初の段階から関与させることが大切。民間企業はその重要性が分かっていますが、公的機関は分かっていません。そのための予算を確保するには、大きな障壁があるのです」

こうした取り組みを成功させるために、都は必ずしも「Trash Isles」のような壮大な作品を制作する必要はないだろう。これは海に浮かぶ膨大なごみの塊を国連に「国」として認定させ、海洋汚染に対する認識を高めようというキャンペーンで、ロンドンのAMW BBDOが手がけ、カンヌライオンズでグランプリを獲得した。

古澤氏は、公的機関は民間企業のコミュニケーション手段から多くを学べるという。シンプルかつ効果的に人々に自制を促すやり方として、コカ・コーラが自社ロゴと「スマイリーフェイス」を活用し、従業員に安全運転を奨励したキャンペーンを好例として挙げる。

「極めて重要なのは、楽しいやり方でメッセージを伝えること。そうでなければ、誰も耳を傾けてくれませんから」

東京の国内大手PRエージェンシーに勤務するある観測筋は、匿名を条件にこう語る。「海辺の廃棄物はほとんどが自分たちの家庭から出るということを、人々に認識させることが大切です。まず始めに、都はキャンペーンのターゲットを明確にするべきでしょう」。

「使い捨ての傘など、便利なものに慣れてしまった人々の行動習慣を変えるのは確かに難しい。ですが、汚染がどのような深刻な問題を引き起こすのか、具体的に見せるようなショック療法は効果的なのでは」

更に同氏は、日常の習慣を形成する過程でコミュニケーションチャンネルとなる小売業者の「パワー」を指摘する。故に「ナチュラルローソンや無印良品、パタゴニアといったサステナビリティに重きを置いている小売ブランドと協働し、コミュニケーションプランを作っていくことが有意義ではないでしょうか」

日本は主導的役割を担うべき立場にある

「そもそも海のプラごみを減らすコミットメントは、2016年のG7伊勢志摩サミットで確認されたもの」と指摘するのは、ノルド社会環境研究所の代表取締役、久米谷弘光氏だ。しかし「今年カナダで開かれたG7の海洋プラスチック憲章に日本は署名できませんでした」。パリ協定(温室効果ガス削減)などでも「日本は主導的枠割を担うべき立場にありながら、それが果たせていません」。2020年東京五輪までに、日本は世界に好事例を示すことはできるのだろうか。

そのためのコミュニケーション面において、同氏は4点を提案するの。一つ目はSDGs(持続可能な開発目標)の活用である。SDGsが掲げる17の目標の中で、プラスチックごみの問題は目標12「つくる責任・使う責任」や目標14「海の豊かさを守ろう」などに深く関連している。「貧困や飢餓の克服と同様、世界的に重要な課題であることを政府、自治体、企業を通じて示してもらいたい」と説く。

二つ目は、問題提起や使用削減を訴求するキャンペーンだ。率先して取り組むプレーヤーとして想定されるのは、飲料業界や流通業界だ。マイバッグ、マイボトル、リユース容器の普及にあたっては、その製造販売事業者も対象となるだろう。

三つ目は、プラスチック容器のデポジットシステムだ。これは容器の預かり金(デポジット)を価格に上乗せし、消費者が容器を返却すれば返金するという仕組み。「できれば全国的で恒久的なデポジットシステムを望みたい」と語る久米谷氏だが、「たとえ短期間のイベント限定、地域限定でも効果的」とのこと。対象エリアのポイ捨ては確実に減ることと、これが広域化・恒久化すればデポジットシステムによるビジネス生成も期待できるためだ。

そして四つ目は、化学業界のレスポンシブル・ケア(RC)の取り組みだ。RC活動とは化学物質を扱う企業が、開発から廃棄に至るまでのライフサイクルにおいて健康・安全・環境に配慮することを公約し、コミュニケーションを図る活動のこと。「プラスチック原料を提供する企業として、また業界として、海洋プラごみの削減や生分解性プラスチック普及のためのRC活動に取り組んでもらいたい」と期待を寄せる。

ごみ削減というと、まず生活者が気を配るべき問題であって、具体的行動を促す責任があるのは国や自治体、と捉えられがちだ。確かに最終的に製品を選んで購入する生活者と、その行動に直接的な影響を与える自治体の責任は重いだろう。だがコミュニケーションに携わる業界、流通や販売を担う業界、そして素材を提供するBtoB企業など、もっと多くのステークホルダーを巻き込むことができれば、大きなうねりを起こせるはずだ。

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:水野龍哉、田崎亮子)

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Campaign Japan

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