Matthew Keegan
2024年7月04日

マーケティングは成長と持続可能性を両立できるか?

あらゆる犠牲を払ってでも成長を追求するというパラダイムから、多くのCMOは抜け出せないでいる。しかし、伝統的な利益構造に対抗する「グリーン成長」や「脱成長」の概念が、気候変動に対応する企業の試みとして徐々に波紋を広げている。

マーケティングは成長と持続可能性を両立できるか?
* 自動翻訳した記事に、編集を加えています。

「私たちの環境、地球は有限です。有限な環境の中で無限に成長することが可能だと考えるのは、狂人か経済学者のどちらかです」。環境保護を提唱するテレビ番組で有名な英国のデヴィッド・アッテンボロー氏は、このように言った。

広告業界は多くの点で、その "狂人 "である可能性が高い。気候危機が悪化する中でも、何がなんでも消費と成長を全力で推し進めるからだ。最近では国連事務総長のアントニオ・グテーレス氏が、大規模な広告キャンペーンによって「恥知らずにもグリーンウォッシュを行ってきた」化石燃料企業を「気候のカオスのゴッドファーザー」と称し、これらの企業の広告を禁止するよう各国に求めた。

国連のトップが指摘したように、気候変動に伴う災害に広告業界が加担してきたことは否定できず、しかもその代償を払わずにきた。これほど至るところに広告が存在し、なおかつ洗練されているとなると、過剰消費は避けられない。しかし、広告業界は変わるだろうか?

「広告業界は、成長を成功の唯一の指標としてとらえるのではなく、その先を見据えるべき」と語るのは、気候変動に取り組む広告関係者のネットワーク「パーパス・ディラプターズ(Purpose Disruptors)」共同創業者のジョナサン・ワイズ氏だ。「成功の指標として別のものを中心に据えるよう、事業を再設計するのです。成長にとらわれない存在となり、地球と人類の幸福を目指して事業の方向性を設定し直せます」。

 

国連のアントニオ・グテーレス事務総長は各国に対し、化石燃料企業の広告を禁止するよう呼びかけた。

それをどのように実現するのかが重要で、決して容易ではないだろう。過去70年にわたって近代資本主義経済システムが世界経済のパラダイムを支配してきた結果が、消費主義なのだ。このシステムの特徴は、株主至上主義であること、そしてビジネスリーダーが四半期単位の短期的な考え方で、あらゆる合法的な手段を駆使して利益を最大化してきたことだ。極端なまでに増強された資本主義と、あらゆる犠牲を払ってでも成長を追求するという哲学に傾倒してきた広告業界は、成長と気候危機の目標をどのように両立できるのだろうか?

「歴史的に、経済の成功を測る主な尺度は成長でした。これは他の業界と同様、広告業界にも当てはまります」と語るのは、世界広告主連盟(WFA)のステファン・ロークCEO。「私たち全員が今直面している課題は、環境と社会への影響を、財務指標とどのように統合するか。これは大きな挑戦です」。

その移行を加速させる上でCMOとマーケティング部門が重要なパートナーになれると、ローク氏は考えている。

「CMOは製品イノベーションと新しいビジネスモデルによって、気候変動対応の機会を先取りし、受け入れることができるユニークな立場にある。リジェネラティブエコノミー(再生型経済)の一部としての責任ある成長が、財務だけでなく環境や社会といった指標も考慮できることを、多くのCMOが証明しています」。

グリーン成長は本当に存在するのか?

OECDは「グリーン成長」を、「自然資産が今後も我々の健全で幸福な生活のよりどころとなる資源と環境サービスを提供し続けるようにしつつ、経済成長および開発を促進していくこと」と定義している。

「『グリーン成長』は存在し得ると思います」と語るのは、ピュブリシス・グループ(Publicis Groupe)でAPACならびにMEAのサステナビリティー部門ヘッドを務めるスージー・ゴールディング氏だ。「私たちは、好むと好まざるとにかかわらず、資本主義で成長主導の社会に生きています。しかし自分たちが作り出して販売している製品・サービスについて、もっと注意を払う必要があります」。

ゴールディング氏は製品・サービスの革新、そしてそれらのマーケティングや広告で持続可能性を優先させることに関して、アジア太平洋地域はまだ遅れていると考えている。

「法規制が持続可能な変化を促している欧州や米国では、このような動きを多く目にします。アジア太平洋地域でも潮目が変わり始めていると思いますが、法規制がもう少し強化されれば、改善されることは間違いないでしょう。ここでは進展が遅いですが、私たちが開発したソリューションやプロセスを使って、アジアのクライアントが欧州のクライアントと同じような道を歩むよう積極的に働きかけています」。

しかし、グリーン成長が広告業界にとって実行可能な選択肢であるということに、確信を持てない人もいる。消費を促すということを、環境への影響から切り離すことは究極的にはできないと考えているからだ。

「継続的に成長するには、それが"グリーンな"成長であったとしても、継続的な消費が必要で、そのためには限りある自然界を商品やサービスに変換し続ける必要があります」と、リワイルド・プロジェクト(ReWild Projects)創業者のデヴィッド・マーフィー氏は言う。「これを両立させる最も明確な道筋は、企業自身が再生型のビジネスモデルを採用することです。簡単なことではありませんが、企業が(成長よりも)生命に軸足を置いたモデルに移行するのが早ければ早いほど、持続可能な生き方への移行が早く進むでしょう」。

 
 

シンガポールを拠点とする持続可能性に焦点を当てたエージェンシー「アーリー・マジョリティー(Early Majority)」の創業者アンディ・ウィルソン氏は、グリーン成長は排出量の少ない代替手段を見込んでいるものの、それが消費量やエネルギー使用量、化石燃料や鉱物の使用量、排出量、採鉱を削減し、壊滅的な気候変動を回避できるという確証はないと言う。

「現在多くの企業にとって、持続可能性と成長は相容れない目標となっている」とウィルソン氏。「しかし、そうである必要はありません。より持続可能な技術がより優れたパフォーマンスを、同等あるいはもっと手ごろな価格で実現でき、結果としてより優れたコストパフォーマンスを発揮する『持続可能性のティッピングポイント(転換期)』の兆しが一部の分野でみられます」。

ウィルソン氏はさらに、再生可能エネルギーや電気自動車、代替タンパク質などの技術を含む数兆ドル規模の "持続可能性のイノベーション"が進行中であると付け加えた。

確かに一部の業界、特に影響力の大きいスタートアップの分野では、成長を環境への影響から切り離すことができそうだ。さらに循環型のビジネスモデルや新素材のイノベーション、斬新なエネルギー変換技術にも期待できる。しかし、これらの大半は、あくまで傍流だ。

「刺激的な新企業が誕生して持続可能を推進したり、保守的な業界を破壊しようとしているのを目にします」と語るのは、グッドバタイジング・エージェンシー(Goodvertising Agency)の創業者でディレクターのトーマス・コルスター氏だ。「パンゲア(Pangaia)を例にとってみましょう。同社は材料科学の会社で、ファッションの新しい方向性を示そうとしています。しかし業界全体で見れば、私たちが主に支援しているのは旧態依然とした業界と、現状にしがみつこうとする人々です。クリエイティブな業界において、私たちは頑なまでに保守的なのです」。

一方、気候の大惨事と社会の崩壊を避けるには排出量と鉱物使用量を削減するべきで、そのために必要なのはシステムと管理された「脱成長」政策以外の何ものでもないと、数多くのリーダーが提唱する。

「特に欧州において、多くのリーダーや一部の政策立案者の間で脱成長が受け入れられ、人気が高まっています」とウィルソン氏。「これは現在の資本主義モデルに対する急進的な代替案であるため、現在ほとんどの民間企業やエージェンシーからは忌み嫌われています」。

経済成長を目標とし続ければ気候の破局を招くと、脱成長理論を支持する者たちは主張する。

「コミュニケーションの専門家として、この脱成長理論を初めて聞いたときの私の感想は『これは本当に難しくなるだろう』でした」。ウェーバー・シャンドウィック(Weber Shandwick)のAPACシニアバイスプレジデントでサステナビリティー担当リーダーのマルタ・ビジオ氏はこう語る。「消費にとどまらない新たな可能性を人々に伝え、結びつける必要があることには同意しますが、成長と(環境への)悪影響を切り離すことは可能だと思います。幸いなことに、この切り離しが成功した重要な例があります。これは国レベルでも企業レベルでも当てはまるでしょう」。

 

グリーン成長のコンサルティング会社「エデン・ラボ(EdenLab)」の創業者であるレオ・レイマン氏は、汚染企業を犠牲にすることで、クリーンでグリーンなブランドを成長させることができる、そして正しい考えを持つマーケターにはそうする義務があると言う。

「気候変動に対して、起こせる行動はいろいろあります。汚染企業に対して抗議することもできるし、ビジネスを活動家のツールとして利用して、製品の優位性や価格、持続可能性について正々堂々と打ち負かすこともできる。私たちの活動はすべて、よりクリーンでグリーンな製品やブランド、ビジネスへの需要を創出し、切り替えることに焦点を当てています。これは古典的なコンクエスト戦略です」。

気候変動の時代に効果的なエージェンシーになるには

国連は地球温暖化について「人類への赤信号」だと表明した。有力な科学者たちは、温室効果ガスの大量排出が続いていることから、1.5℃の気温上昇を突破する日が近づいていると結論付けている。

消費を促進する広告業界が気候災害を助長していることが明らかな今、広告とその役割を再考することが極めて重要だと多くの人が考えている。

「効果的なエージェンシーとは何か、再定義することは可能ですし、そうしなければなりません。それは持続可能なライフスタイルや行動を促進し、再生型のビジネスを支援するエージェンシーを指します」とワイズ氏。「早急に必要なのは、気候の緊急事態の影響を緩和するために必要なスキルを業界の誰もが身につけ、業界全体の知識レベルを向上させることです」。

アッテンボロー氏の「地球を救うことは、今やコミュニケーションの課題である」という言葉は有名だ。

「もしこれが本当ならば、地球上での人類の暮らしを持続可能なものにするために必要な意識と行動の変化をもたらすのに、広告業界の優秀な戦略家やクリエイターほどの適任者はいない」と、ザ・ホールウェイ(The Hallway)の最高クリエイティブ責任者で共同経営者のサイモン・リー氏は言う。「これが、P&Gやユニリーバ、ロレアルと同規模のマーケティング予算のKPIになれば、私たちはそれを達成します。その報酬は、これまでに獲得してきたどんなトロフィーよりも、はるかに重要で満足のいくものになるでしょう」。

広告業界は変わるのか?

有限な地球資源の利用して無限の経済成長を続けるという、リニア型(直線型)の消費モデルはもはや成り立たない。このことに、マーケティング業界は気付いているのだろうか? そして、変化を望んでいるのだろうか?

「今の現実から抜け出せないから物事は決して変わらない、と考えるのは簡単です」とレイマン氏。「しかし、ティッピングポイントは必ずやって来ます。例えば3つの大陸で同時に不作が起きれば、誰もが注目するでしょう。問題は、それがいつ来るか。誰にも分かりませんが、おそらく皆さんが思っているよりも早く来るでしょう」。

「消費を基盤とした経済のあらゆる分野と同様、広告も持続可能な経済を支えるために変化してます」と語るのは、英広告協会(AA)のスティーブン・ウッドフォードCEOだ。

その根拠はたくさんあると同氏は言う。ガソリン車に代わる電気自動車の普及や、肉の消費を減らす植物性食品の奨励、再生可能エネルギー供給のプロモーション、ファストファッションを中古衣料など他の選択肢に置き換えること、製品の所有からレンタル利用という概念の導入、食品廃棄物の削減方法や持続可能な移動手段といった、解決すべき課題に対する解決策の提示などが挙げられる。

「世界が直面している課題は、一つのキャンペーンで解決できるものではありません」とウッドフォード氏。「それは人々が生活する上での、あらゆる種類の持続可能な選択肢を提示する、数多くの広告キャンペーンによって解決されるでしょう」。

広告が文化的規範に重要な影響を与え、人々が望ましいと考えるものを形作る役割を担っていることは疑いようがない。「エージェンシーがクライアントに提供するクリエイティブの一つひとつが、人々が "普通 "と考える行動を形作る機会となっています」とローク氏。「エージェンシーは、クライアントとパートナーシップを組んでビジネスや社会におけるマーケティングの役割を再考し、マーケティングを解決策の一部にすることで、重要な役割を果たすことは間違いありません。昔から "it takes a village"(一人の子どもを育てるには、村が一つ必要)という言葉がありますが、これほど真実味を帯びたことはありません」。

電通でAPACの最高事業成長責任者を務めるドミニク・パワーズ氏は、広告業界が長期的に繁栄してレジリエンス(回復力)を維持するためには、変化する消費者のニーズや欲求とともに、人々や地球のウェルビーイングを考慮に入れた、ブランド構築の新しい方法を見つける必要があると語る。

「広告業界は消費者の背後にいる人間に対して、より持続可能な行動や選択を促し、影響を与える力を持っています。同時に、ブランドがビジネスモデルを変革し、プロダクトデザイン分野でのイノベーションを支援することで、コミュニティーの生活を向上させながら、プラネタリー・バウンダリー(人類が安全に生活できる領域)の改善に貢献できるのです」。

 

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