ソレル卿、早くも再始動
マーティン・ソレル卿は30日、新たな「多国籍コミュニケーションサービスのビジネス」を始めることを明らかにした。新設した「S4キャピタル」社で、既にいくつかの企業買収案を検討している模様だ。同氏は個人資産から4千万ポンド(約60億円)を出資、更にシュローダーなどの投資会社が1100万ポンドの出資を予定している。
73歳のソレル卿は声明の中で、「今、テクノロジーやデータ、コンテンツの分野では大きな成長機会がある。それを生かし、ぜひ発展を遂げたい」と述べた。
これまでの経緯を振り返ってみよう。ソレル卿がWPPを辞したのは、わずか6週間前のこと。その後の展開の速さが、ビジネスへの意気込みを物語る。同氏が辞任した際(いまだにその理由は謎だが)、観測筋は「彼は精力的な投資家になるか、一流企業の役員になるだろう」と予測した。“もう1つのWPP”を創立すると考えた者はほとんどいなかったが、ソレル卿が今やろうとしていることはまさしくそれだ。ただ、新会社はWPPとは異なり、よりコンパクトで柔軟な組織になると考えられる。すなわち、ソレル卿が辞職する前に目指していたWPPの改革を具現化したものにほかならない。
こうした動きを奇妙に思う向きもあるだろう。長年業界のトップに君臨していた者が、成功の確率が低いにもかかわらずなぜ早急なカムバックを果たすのか? ビジネスで極めて大きな成功を掌中に収めた人々というのは、往々にして合理的な考え方をしないようだ。少なくとも、我々にとっては興味深い展開だが。
「ブランドZランキング」、日本勢は?
今週、カンター・ミルウォード・ブラウン社が発表した毎年恒例の世界ブランド価値ランキングで、eコマースの巨大企業アリババが中国勢として2番目のトップ10入り(アジア勢としても2番目)を果たした。同社は9位にランクインし、テンセント(騰訊)が5位。
アジアブランドのトップ10は中国が8社、韓国と日本が1社ずつ。サムスンは昨年からランクを5つ上げて33位となり、唯一の日本勢、トヨタ自動車は36位に後退した。100位以内に入った他の日本企業はホンダだけで、辛うじて97位。両社とも昨年に比べ順位を6つ下げた。
なぜ、このような状況なのだろう。グーグルやアップル、アマゾンがランキングの上位を占めたことは驚くに値しないが、今でも世界中に無数のプロダクトを供給する日本の多国籍企業が大きく後れをとっていることは残念でならない。2020年の東京五輪・パラリンピック大会をきっかけに、日本ブランドがモチベーションとプラットフォームを復活させ、真に再活性化することが期待される。
世界金融危機は再び起きるのか
著名な投資家ジョージ・ソロス氏は、「世界は大規模な金融危機に近づいているかもしれない」と警鐘を鳴らした。同氏はその要因として、ドルの急騰と新興市場からの資金の流出の可能性を指摘。モルガン・スタンレーのCEOなど一部の要人はすぐに反対意見を表明したが、現在世界で起きていることを鑑みればソロス氏の予測はまったく起こり得ないことではない。もしそうなれば、世界の広告費に多大な影響を及ぼす。ゼニスなど複数の企業は、今年の広告費の伸びを4%と予測。そのうち40%以上はオンラインという。危機が襲えば、広告主はデジタルを含めた広告費の効果を更に精査する。明白な効果を生まない支出は、間違いなく削減の対象となるだろう。
広告主は40歳以上の女性を軽視
女性消費者を重視する米国の独立系クリエイティブエージェンシー「ファンシー」が、バックグラウンドやキャリア、ライフスタイルの異なる40歳の在米国女性、約500人を対象に聞き取り調査を行った。その結果は興味深く、明白な課題が浮き彫りとなった。「ブランドは、私たちの購買力を過小評価している」と考えている者は64%。彼女たちの「知性を過小評価している」と答えた者は80%。そして、「外見を何よりも重視している、とブランドが考えている」という項に賛意を示したのは84%。
仮に日本で同じ調査を行っても、同じような結果が出ただろうか。おそらくそうだろう。率直に言って、ステレオタイプの消費者を想定する方が、ターゲットとする消費者を理解し、関係を構築しようとするよりもはるかに容易だ。故に、オーディエンスを心から共感させられるブランドこそ、大きな恩恵を受けると言えよう。
ブランドが編集記事を操作か
英国の独立調査サイト「オープン・デモクラシーUK」は30日、ウーバーやグーグルを含む6つのブランドが自社に都合の良い編集記事を書いてもらうため、ロンドンの主要紙イブニング・スタンダードに「多額のお金を払っていた」と報じた。イ紙はすぐさまメディア業界誌「ザ・ドラム」に声明を出し、「広告コンテンツは紙上ではっきりそれと分かるようになっている」と主張、同サイトの発表を否定した。
こうした事実を紐解くのは非常に厄介だが、パブリッシャーや広告主が業績不振でプレッシャーを受ければ、不正の誘惑にかられることは十分ありうる。だが、この手の“課金ビジネス”が許されない(広告枠を買ってもらうために、ブランドに都合の良い記事を書くことも含め)ことは言うまでもなく、世間の視線が以前より厳しくなっている今、その誘惑に負けることは致命的な自爆行為なのだ。
そして……日本初の大麻広告
大麻(ヘンプ)のオイルドロップを製造する豪州ブランド「エリクシノール(Elixinol)」は、当局と長い交渉を重ねた末、ようやく東京・表参道にビルボードを設置した。同社の製品は完全に無害。その点が掲示許可につながったのだろう。同社日本代表の松丸誠氏は、「日本は大麻と強い文化的つながりがあります」とコメント。米国では、大麻関連製品の売上は毎年100億ドル余りに達する。にもかかわらず、広告の表示は決して容易ではない。そのことを鑑みれば、この日本での動きは注目に値する。
(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:水野龍哉)