「行き過ぎた」ダイバーシティ対策
ジェイ・ウォルター・トンプソン(JWT)がストレート(異性愛者)の英国白人男性を差別したとして、ロンドンの元社員たちから非難を浴びている。事の起こりはこうだ。同社の女性クリエイティブディレクターであるジョー・ウォレス氏が、5月に行われたカンファレンスで自らをゲイであると告白。更に、「『JWTはストレートで特権的な英国白人男性ばかり』という評判を打ち砕いていく」と公言した。その直後、一部の社員たちが同氏の発言に懸念を表明。「将来の自分たちのキャリアにどう影響するのか」と人事担当者に問い正した数日後、彼らは全員解雇されてしまった。「ジェンダーや人種、国籍、性的嗜好に基づく差別だ」として、この元社員たちは法的措置を講じ始めている。
ニュースの視点:
英国の広告界は長年、「ボーイズクラブ(boys club)」と揶揄されてきた。この「カテゴリー」に当てはまらない者にとっては依然、ハードルの高い世界だろう。英国に限らず他国でも広告代理店は「新たな人材の発掘を積極的に進める」と公言しながら、「自分たちと同種」の人材だけを採用する傾向がいまだ強い。変革への道のりはまだまだ遠いのだ。その一方で、「フランス革命的粛清」は決してダイバーシティ促進のアピールにはならない。ダイバーシティとは、能力に応じてあらゆる人々を受け入れる環境をつくり上げることだ。何事もそうであるように、節度こそ肝要と言えよう。
ティム・アンドレー氏、電通イージスCEOに
ニューヨークに拠を構えるティム・アンドレー氏が、電通イージス・ネットワーク(DAN)取締役会議長、電通・取締役執行役員の役職に加え、DANのCEOも兼務することとなった。DANのCEOを6年間務めた現職のジェリー・ブルマン氏は、来年1月1日付で電通本社特別顧問に就任する。また電通は、2018年1〜9月期のオーガニック成長率が前年同期比で4.4%だったと発表。調整後営業利益は4%減で、国内が1.4%、海外が10.5%減だった。電通はその要因として、予定していた労働環境改革の実施とDAN関連の投資を挙げている。
また今週、電通は9社のアニメーションスタジオとの提携を発表した。国内外でブランド向けのコンテンツ制作を推進していく。同社は「ブランデッドエンターテインメントの需要が伸びている」ことを指摘。更にアニメは「自由度の高いメディア」で、「日本の最も強力な輸出品」であるとも付記している。
米デジタル広告市場、急成長するも恩恵は数社のみ
IAB(インタラクティブ・アドバタイジング・ビューロー)とPwC(プリンスウォーターハウスクーパーズ)の調査で、米国における今年上半期のブランドのデジタル広告支出が500億米ドル(約5兆5千億円)に達したことが分かった。前年同期比でほぼ25%の増加。当然ながら、その大部分はモバイル広告だ。最も恩恵を受けたと見られるのはフェイスブックとグーグル、アマゾンで、この3社が全体の60%以上を占める。問題は、果たしてこの市場が今後どれだけ伸びるかだろう。広告予算が限られ、テレビ広告も消滅しそうもないことを考慮すると、飽和状態に近づいていることは確実のようだ。
転職時の面接で、年収を明かさない方がよい理由
英国の人材紹介会社「メジャープレーヤーズ」の調査によると、同国のメディア・マーケティング分野における人材採用責任者の約4分の1が、転職希望者が現在の年収を明かさなかった経験があるという。この背景には、男女間の賃金格差がある。女性の賃金は男性よりも少ないことが多く、面接時に年収を明かせば、次の職場でも賃金が不当に下げられてしまうと転職希望者が考えるためだと、同社はみている。例えば、ある女性が現在の給与を開示せずに転職したところ、現在よりも1万ポンド(約150万円)高い給与を提示されたという。その額は、彼女の業務内容と経験を考慮すれば、妥当な金額であったとのことだ。
ニュースの視点:
これから雇用する社員に、前職の年収に応じて給与を支払うという慣習は、時代に即していない。彼らがこれまで置かれてきた環境や性別によって評価するのではなく、能力や経験に応じた、競争力のあるオファーをするべきだ。メディア・マーケティングの業界では常に人材不足が叫ばれている。転職者側にとって売り手市場となることを期待する。
「政治的すぎる」と禁止されたCMの露出が増加
英スーパーマーケットチェーン「アイスランド」の、環境破壊をテーマにしたクリスマス商戦向けCMが、同国のテレビCMを承認する組織「クリアキャスト」から放送を禁じられた。その後、このCMは数千万回も視聴されることとなった。CMは環境保護団体「グリーンピース」が制作したもののアイスランド社版で、パーム油の生産でオランウータンの生息地が脅かされていることを訴求している(同社はパーム油を使用しない商品を展開している)。クリアキャストはこれを、政治的な広告の放送を禁止する規約に違反しているとして、放送を禁止。だがCMが放送できなくなった旨をアイスランド社がツイートしたところ、ユーチューブだけでも400万回以上、ソーシャルメディア上で合計3,000万回(原稿執筆時点)もの再生回数を記録した。さらにはCMの放送を認めさせようと署名運動が起き、70万人もの署名が集まった。「環境破壊への関心を高めようと、このキャンペーンを立ち上げました」とCampaignに語るのは、アイスランド社のマーケティングディレクター、ニール・ヘイズ氏。「当初企画したようには実現しませんでしたが、最終的には多くの方々に知っていただくことができました」
ニュースの視点:
物議を醸した話題が広く拡散されるというのは、よくあることだ。今回の例で明らかになったのは、テレビという「アイデア」は依然として力強いものの、幅広い視聴者に届けるために必ずしもテレビを介さなくてもよいという点。また、特定の環境問題が人々の感情をかき立てるということ、そして人々の関心を高めるために企業側が果たすべき役割があるということも浮き彫りにした。
広告クリエイター、美術家を盗作で訴えて勝訴
服飾ブランド「ナフナフ(Naf Naf)」の1980年代の広告を、彫刻のモチーフとして無断で使ったとして、ジェフ・クーンズ氏(アメリカの美術家)がフランク・ダビドビッチ氏(フランスの広告クリエイター)に168,000米ドル(約1900万円)を支払うよう命じられた。「Fait d’Hiver」と題された両作品とも、ブランデーの入った樽を首にぶら下げた豚が、雪上に横たわる女性を救助しようとしている場面を描いたもの。クーンズ氏の作品は広告や商用の画像素材をしばしば取り入れており、これまで何度も訴訟を起こされている。
ニュースの視点:
瑣末な事件のようだが、広告の知的財産について重大な疑問を突きつけてくる。作品に対価を払ったブランド側の方が、クリエイターよりも強い権利を持っているだろう。だとすると今回の訴訟を、ブランドでなくクリエイター個人が起こしたというのは、異例な展開だ。この件とは別に、昨今は商用クリエイティブが技術的な複雑さを増しており、多くの関係者が関わるようになった。作品の権利を最終的に所有するのは誰なのか、しばらく議論を呼ぶこととなるだろう。
(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:水野龍哉、田崎亮子)