メディアでは、今も汚職が蔓延
新興市場の広告・メディア界では汚職が依然大きな問題であることを、今週明るみになった2つの事件は示唆している。
1つめは、ロサンゼルスのインフルエンサーマーケティング会社「ソートフル・メディア・グループ(TMG)」が、同社ベトナムオフィスの幹部3名を詐欺、契約違反、横領、不公正な取引を理由に解雇、訴訟の手続きを開始した事件。同社は2016年にベトナム市場に参入後、ほどなく取締役が収賄の罪に問われ、辞職している。
TMGのダン・ソーマンCEOはCampaignのインタビューに応じ、ベトナムでの汚職は「大きな問題」とコメント。近年、汚職取り締まりを強化している中国と比較し、「ビジネスの観点からすると、ベトナム政府は汚職の解決に向けて本腰を入れるべき」と話す。
もう1つは、ヴァンサン・ボロレ氏が贈収賄の疑いで西アフリカで逮捕された事件。ボロレ氏は企業買収を繰り返すフランスの複合企業「ボロレグループ」のCEO。同社は広告大手ハバスの筆頭株主でもある。ハバスはギニアとトーゴの大統領選挙において、相場よりも低い価格でコミュニケーションアドバイスを提供した疑いが持たれている。ボロレグループ内の別会社がギニアで賄賂を受け取ったことも伝えられている。ボロレグループは、これらの不正への関与を否定している。
ユーチューブ、過激コンテンツの根絶に苦戦
ユーチューブ上では依然、300以上のブランドの広告が過激なコンテンツとともに表示されている −− CNNの調査でこうした結果が明らかになると、スポーツメーカーのアンダーアーマーはユーチューブへの広告の掲載を中止した。問題になったのは白人至上主義やナチズム、小児性愛、北朝鮮のプロパガンダなどを取り上げたコンテンツだ。CNNが調査したブランドは、こうした事実をまったく把握していなかったという。グーグルは不適切なコンテンツへの対策に取り組んでいたが、問題の根の深さが露呈した形だ。だがこの結果に対するグーグルの反応は、あまり深刻さを感じないものだった。
「広告主を優先した我々のガイドラインを満たした動画が全て、あらゆるブランドに適切かというとそうではないでしょう」と、グーグルのスポークスマン。「それでも、広告主と協働してこの状況の改善に全力を尽していきます。我々の規約にそぐわないコンテンツに広告が表示されているのを発見した場合は、即座に除去します」。
それでも、グーグルは増収
ブランドの安全性の問題は解決していないが、少なくともグーグルには損害を与えていないようだ。親会社のアルファベットは第1四半期の収益が26%増加し、310億米ドル(約3兆4千億円)になったと発表した。ルース・ポラットCFO(最高財務責任者)は収支報告で、「モバイル検索とプログラマティックがその原動力」と述べた。
一般の広告主がブランドの安全性をどれだけ真剣に受け止めているかは分からないが、グーグルは彼らを安堵させようと必死だ。サンダー・ピチャイCEOは収支報告で、昨年第4四半期に同社規約に反する「600万本以上の動画を除去した」と発表。そのうち75%は、「一度も閲覧されることなく取り除かれた」と強調した。
インフルエンサーの有効活用、大麻でも
米国では8州が大麻を合法化したが、その広告・宣伝は厳しく規制されている。フェイスブックとグーグルでは全面的に禁止だ。だがインフルエンサーのマネージメント会社Traackrは、「インフルエンサーを介して大麻のコミュニティーとつながることは、ブランドにとって大きなビジネスチャンス」と唱える。現在、インフルエンサーのプラットフォーム上での活動には制限がないことを念頭に置いているのは言うまでもない。「インフルエンサーは、顧客が最も興味を示す分野のコンテンツを見つけ出すことができます。ですからブランドは認知度を高めつつ、顧客と極めて高いレベルの個人的関係を築くことができる」と話すのは、同社CMOのカーク・クレンショー氏。同社が行った大麻ブランドの活動と有効性に関する調査では、ブランドエンゲージメントを高めるプラットフォームは「断トツでインスタグラム」という結果が出たという。
電子タバコの流通は無責任?
広告代理店がタバコの話題を嫌うのは分かっているが、敢えてその話をしよう。英国の国民健康サービス(NHS)監視機関の副責任者ジリアン・レング氏は、電子タバコが「ライフスタイルのデバイスとして売られており、長期にわたる健康への弊害にもかかわらず、過剰な摂取を促す危険性がある」と警告した。
デイリーテレグラフ紙によれば、同氏は禁煙補助具としての電子タバコの使用は受け入れるが、「興味深く、エキサイティングで先端を行くプロダクト」という今の市場でのイメージには倫理的な疑念を持つという。通常のタバコより95%安全といううたい文句も、「残りの5%は解明されていないのです」。電子タバコの主要市場である日本にとっては考えさせられる見解だろう。
余談ながら、米国では1971年からタバコ会社のテレビ広告は禁止されているにもかかわらず、米国で最も価値あるトップ10ブランド(カンター・ミルウォード・ブラウンのランキング調査『ブランドZ』による)にマールボロが入っていることは特筆すべきことだ。
ゴールデンウィークのため、来週のニュースレターはお休みとさせていただきます。皆様、良い休暇をお過ごしください。
(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:水野龍哉、田崎亮子)