8月末より公開された「白戸家ミステリートレイン」シリーズは、アガサ・クリスティーの推理小説『オリエント急行殺人事件』のパロディー。データ通信量の上限を気にすることなく動画やSNSを楽しめる料金プランを訴求する内容となっている。
話は、同社CMに2007年から登場してきた白い犬のお父さんが、列車の中で行方不明になったところからスタート。堺雅人扮するポアロ風の探偵が、疑わしい乗客に事情聴取を行うと、容疑者はずっとスマートフォンで動画を見ていたと主張するのだ。
この事情聴取に、さまざまなゲストが出演する。あるときは、パグ。またあるときは、倒れたゆりやんレトリィバァに皆が駆け寄るが、スマートフォンでヒカキン(人気ユーチューバー)の動画「人工呼吸やってみた!」を見ていた証拠が見つかり、竹内涼真に人工呼吸をしてもらいたかっただけだと判明する。
中でも興味を引いたのは、「菊川怜の事情聴取篇」だ。わざとらしい演技が印象に残るハズキルーペのCMを彷彿とさせる内容なのだ。渡辺謙とステージ上で拡大鏡のプレゼンテーションを行うという設定のこのCMは、4月から公開。ルーペの壊れにくさを証明するために菊川怜がお尻で踏みつけたり、「ハズキルーペ、だーい好き」と手でハートマークを作ってウィンクするなど古典的で大げさな演出なのだが、話題となっただけでなく、伝えたいメッセージをきちんと届けている。そしてソフトバンクが今回、自社のパロディーCMの中にさらにパロディーを入れ込む形で融合させたのである。
さらに数日後、今度は映画館で本編上映の直前に流されるマナームービー「NO MORE 映画泥棒」のパロディーCMを公開した。
ソフトバンクが他社CMとクロスオーバーした作品を発表するのは、今回が初めてではない。2012年にも、サントリー缶コーヒーBOSSの宇宙人ジョーンズシリーズに登場していたトミー・リー・ジョーンズが、白戸家シリーズにゲスト出演している。だが前作から年月も経った今になって、しかもハズキルーペとコラボレートしたという点が新鮮で、驚かされる。このような取り組みを、他のブランドが簡単に真似できるかと問われれば、恐らく難しいだろう。異彩を放つソフトバンク(とハズキルーペ)のCMは価値ある資産であり、テレビCMで遊び心を発揮できるのだということを再確認させてくれる。
(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:田崎亮子)