市場調査会社カンター・ミルウォード・ブラウン(以下、カンター社)とオックスフォード大学サイード・ビジネス・スクールによる徹底した調査の結果、フェイスブックやインスタグラム上に掲載される広告は、ブランドに対する消費者動向に概ね良好な効果を上げていることが明らかになった。
「フェイスブックやインスタグラム上の広告の多くが、ブランド顕出性やブランド連想、動機といった面で消費者に好影響を与えていることが分かりました」と語るのは、オックスフォード大学サイード・ビジネス・スクールのロレアル記念講座でマーケティングを担当するアンドリュー・スティーブン教授だ。
良くない印象を与えた広告はいくつか存在したものの、消費者のブランドパーセプション(主観的な認識)や、商品への関心という点において、効果がゼロだというものは無かったという。
また、効果が最も高かった広告と最も低かった広告との間には最大35ポイントの差があった。この差は、コンテンツや広告スタイルの違いによるものと考えられる。
スティーブン教授らは、フェイスブックとインスタグラムに掲載された110社の広告235件に関する、カンター社のデータを分析。これは「他に類を見ないほどの徹底した分析手法」だと、携わった研究者たちは強調する。
調査対象となった広告は主に、米国、英国、カナダで掲載されたもの。235件のうち、49%はフェイスブックのみ、48%は双方、そして3%がインスタグラムのみに掲載されたものであった。
調査チームは、SNS上で最も効果のあった広告とそうでなかった広告の差を明らかにするため、広告フォーマット(動画、画像、テキストなど)の種類、広告ユニット数、クリエイティブのタイプ数、業種、地域、フェイスブック単体への出稿なのかフェイスブックとインスタグラム両方に出稿したものなのか、といった要素を排除した。
「我々が調べる広告効果に、これらの要素が大きな影響を与えないことは明らかでした」とスティーブン教授。「そこで我々は、差を生むのはブランドのビヘイビア(行動)なのではないかという仮説を立て、検証することにしたのです」
ブランドのビヘイビアが広告効果にもたらす差を検証するため、調査チームはブランドが「人間的であるか」を、機械学習によって分類した。
「ブランドがオウンドメディアとして運営するフェイスブックのページに掲載された自然言語を分析し、それぞれのブランドが訴求するのが親しみやすさなのか、感情面あるいは機能面なのかで分類しました」
その結果、親しみやすくて感情面に訴求し、機能面の訴求が控えめなブランド、すなわち「より人間的なブランド」は、ブランドの認知度向上において最も効果が高いことが判明した。
しかし、より人間的なブランドであることと、ブランド連想や動機(購買意欲など)との相関性は、ほとんど見出すことはできなかった。
「しかし、これらの要素は間接的に影響し合っていると考えています」とスティーブン教授は語る。
デジタル広告は大概、影響力がある
スティーブン教授の調査チームは、デスクトップ広告やモバイル広告の効果についても分析した。
分析にあたり使われたのは、ブランドリフト効果(認知度や好感度、購買意欲などが向上したかを測る指標)の調査のため、過去7年間にわたって世界中で実施された8,811件の広告を集めた、カンター社の広告データベースだ。
「デスクトップ広告には、常に2~4%の効果が見られます。一方でモバイル広告は、当初は大きな効果を上げたものの、普及が進むにつれ、デスクトップ広告と同等に落ち着いています」
カンター社でメディア部門とデジタル部門を率いるマネージングディレクター、ジェーン・オストラー氏は、「一般的に、新しい広告フォーマットが登場すると、初めのうちは既存のフォーマットをしのぐ勢いを見せますが、その勢いもやがて衰えていきます」と説明する。「この傾向は、普及が進むにつれて目新しさを失っていくというごく自然なものか、あるいは市場環境の変化がそうさせているかのどちらかでしょう」
ここで重要なポイントは、デジタル広告においてはデスクトップ広告もモバイル広告も同レベルの効果を示すということだ、とスティーブン教授は語る。
SNS広告やデジタル広告に、それだけの価値はあるか?
SNS広告とデジタル広告にそれだけの時間とお金をかける価値があるかと問われれば、スティーブン教授は「イエス」と答える。だが、それは「慎重に行うならば」という条件付きだという。
「さまざまなチャネルを試すことは、広告主にとって良いことだと思います。もちろん、消費者が存在するところに出稿することが大切です」
オストラー氏は「メディアをより効果的に活用できるかどうかは、広告主やマーケター次第」と話す。「広告のフォーマットによって、消費者が広告に期待するものは変わりますし、反応も敏感です。無論、これらの広告は単体で完結するわけではありません。広告の影響はメディア横断的に、広範に捉えることが大切です」
この調査結果で注目すべき点
1. デジタル広告は、長期にわたるブランド構築と、販売促進に大変重要である。
2. デスクトップ広告は、依然として有効な手段である。
3. いつまでも新鮮さを失わず、輝き続けるフォーマットはない。
4. より人間的であれ。
5. デジタル広告は、メディアミックスの一部として最も機能を発揮する。
(文:エミリー・タン 翻訳:岡田藤郎 編集:田崎亮子)