女性が起業したブランドが、マーケティングを変える

広告業界の将来についての刺激的な考察を提示する新シリーズ。初回となる今回は、女性が設立したブランドの新しい潮流から、ブランドが女性に対するマーケティングを学ぶことができること、また学ぶべき理由について、「Brandsplaining」の著者たちが説明する。

女性が起業したブランドが、マーケティングを変える

マーケティングはその歴史のほぼすべてにわたり、もっぱら男性によるビジネスだった。マーケティングを考案したのが男性なら、マーケティングを採用する企業の経営者も、実施するエージェンシーの創業者も、制作するクリエイティブチームのメンバーも、承認するクリエイティブディレクターも、撮影するディレクターとフォトグラファーも、掲載するメディアのオーナーや編集者も男性だった。

当然のことながらその結果、ほとんどのマーケティングと広告は、その歴史の大半で、男性目線から女性を捉えることによる産物でありつづけた。業種カテゴリーにも性別による線引きがあった。アクション、アドベンチャー、エージェンシー、機械、システム、金融など、世界全体に係わる主要部門は男性向けのものだった。外見、家事、内助、家族に関する(主要ではない)カテゴリーが女性向けのものだった。

女性の顧客は、愛らしい小さな天使、セクシーで魅力的な恋人、皆の用事をこなす完璧な母、すこしぼんやりした年配の女性など、男性が好む表現で描かれた。企画書は完璧さ(および、そこに向けた改善)を中心に据えたものとなり、非の打ち所がない見た目や理想の家、白い洗濯物、若い肌、幸せな家族などが取り上げられた。

女性には補佐的な役割が与えられた。そして、受け身で、目の保養になり、笑みを絶やさず、そしてしばしば中身がなく、だまされやすいのが女性だという形で示された。カメラの目線は男性のものであることがあまりに多く、ブランドの宣伝文句は決まって教え諭すような、良いものとはどういうものかを女性に説明するようなトーンだった。どれも性差別があまりにあからさまで、いったんそれを探し始めてしまうと、偏見が随所に見てとれた。

オールウェイズの「Like A Girl(女の子らしく)」キャンペーン(Leo Burnett)


しかし、時を経てフェミニズム第4の波が到来すると、ダヴ(Dove)オールウェイズなどのブランドがこの波に乗り、少なからずけん引したことで、業界は自らの至らなさを自覚し、偏見と思い込みの修正を試みることになった。強さが新たな愛らしさになった。プラスサイズモデルが人気者になった。キャスティング書類には堂々と「diverse(多様性)」と書かれたチェックボックスが加わった。ユニリーバ(Unilever)が明白なステレオタイプに戦いを挑むと、アンステレオタイプアライアンスが、さらにはASA(英国広告基準協議会)がこれに続いた。完璧になる方法を女性に教える代わりに、ブランドは女性にフェミニストになる(自分が求めるものを自分の意志で成し遂げる)方法を伝えるようになった。あなたらしく。勇気を出してと。

女性を応援する「go girl」というハッシュタグや「フェムパワーメント(fempowerment)」、「フェムバタイジング(femvertising)」といった首を傾げたくなるような言葉を、シニカルに扱うことが流行になったものの、こうした語り口によって、ブランドにとっても女性にとっても適切な前進があったのは紛れもない事実だ。ダヴは間違いなく美の基準に対する考え方を純粋に変えた。オールウェイズは常に、「女性の衛生用品」(生理用品)に関する進歩的なコミュニケーションを先導した。ナイキは女性スポーツへの関心を高めた。英国のスポーツ政策を担うスポーツイングランドが始めた「This Girl Can」キャンペーンはあらゆる面ですばらしかった(いまもそうだ)。今日称賛されているフリーダ・マム(Frida Mom)やトミーティッピー(Tommee Tippee)などのキャンペーンも、こうした経緯があって生まれた。

だからといって、マーケティング活動に強固に組み込まれた人為的な偏見が適切に解消されたわけではなく、前述のような動きが今後も長きにわたって、ブランド構築のためのプラットフォームを提供し続けるとも言えない。実際我々の調査によると、大きく前進している一方で、変わっていない部分も多い。まず、女性を起用した広告のうち85%は、従来の意味での魅力的な女性を起用していた。また、調査した広告の4分の1以上で、女性が昔ながらの「男性の視線」を意識したポーズをとっていた。それだけではない。ある意味ではさらに悪いことに、マーケティングでは今もなお、中身がなくものも言えない存在として女性が描かれている。女性の最も優れた特性を、女性に質問した回答のトップ3には「ユーモアのセンス」と「知性」の2つが入っているにも関わらず、女性が人を笑わせる広告も、知性を要することを女性がやってみせる広告も、わずか3%しかない。

その上、まさに形だけ「意識している」ものも数多く登場してきている。白人の出演者にBAME(黒人、アジア系、少数民族のいずれか)の女性が交じっていても、それはチェックボックスにチェックを入れるためだけであって、実際の演技は求められていなかったり、たまに年配の女性が起用されても、見た目が実年齢よりずっと若々しく美しい人ばかりだったり、プラスサイズモデルが起用されたとしても、規格外である点に注目させるためだけだったりする。

また、表層的な表現の部分では是正されているように見えても、本質や言葉に表れない部分では、相変わらずの古い比喩が繰り返されている。あからさまなピンクは、「彼女の」ための花とパステルカラーのパターンに置き換えられ(目立つ強い色彩は「彼」のためにとってあるため)、減量することを健康的だと描写したり、アンチエイジングを「エイジレス(年齢を感じさせないもの)」と位置づけたりする。最悪なのは、このところ広がってきている、女性は行動を変える必要があるとするものだ。かつて女性に、体型を改善する必要があると言っていたブランドが、今度は一転、強くなれ、勇気を持て、頭を下げるな、などと態度を改善する必要があると伝えるようになった。

こういう状況のもとでは、旧来の「男性目線」を排除し、さらには、ジャーナリストのリリ・ルーフバロウがいみじくも「男性的な一瞥」と表現したものも避けるような女性向けのブランドやコミュニケーションの新しいモデルが必要だといえるだろう。この「男性的な一瞥」とは、ちらりと見るが深くは見ず、眺めはするが本当に読んだり理解したりしない傾向のことで、フェムバタイジングに非常に多く見られる。幸い、特にD2C業界で見られるような新しいモデルケースが、新しい答えへの道標となるかもしれない。すなわち、女性が(多くはほかの女性のために)構築するブランドのことだ。こうした「女性が構築する」ブランドは、女性向けマーケティングにおいて「無意識の才能」を発揮することがある。そしてその行動の多くには、従来のブランドとは一線を画す明確な特徴が挙げられる。

まず、女性が構築するブランドは顧客を、男性との関係ではなく独自の言葉で定義しており、多くは男性を喜ばせる理想像という発想を脱することから企画されている。ホイットニー・ウルフはバンブル(Bumble)を「女性が主導権を握るマッチングアプリ」として開発した。ヘレン・モリスはロンリーレーベル(Lonely Label)を、「ランジェリーを自分へのラブレターとして身につける女性」に向けて作った。ノウラ・サッキージャは、「すばらしいダイヤモンドは自分で買うもの」という確固としたポリシーから、宝飾品ブランドのメジュリ(Mejuri)を立ち上げた。

特徴の2つ目として、女性が構築するブランドは、美容や自己表現に関するカテゴリーにおいても、あるいはそうしたカテゴリーでは特に、製品とサービスの提供においてかなり実用性を重視する傾向があり、売るために飾り立てたりセクシーにしたりするのではなく、顧客に代わって課題を解決することを目指していることがあげられる。アレックス・ウォルドマンとポリーナ・ヴェクスラーは、(小さめの)フリーサイズという従来ブランドのアプローチではなく、サイズ展開の幅を大きく広げることで、ユニバーサル・スタンダード(Universal Standard)を「これまでにはなかったインクルーシブな衣料品シリーズ」として立ち上げた。ハイディ・ザックのサードラブ(ThirdLove)は、「ブラジャーのあり方を変えようと立ち上げたブランドだ。「不快感なし。試着室なし。ドラマなし。完璧にフィットするように作られた、ただすごく快適なブラ」だ。アン・ボーデンは、金融サービスのブランドが女性を思慮なく浪費する存在として扱いがちなのにいらだちを募らせ、「これまでなかった便利な銀行」を念頭にスターリング銀行(Starling Bank)を創設した。ニックス(Knix)、シンクス(Thinx)、ディア・ケイト(Dear Kate)、ルビー・ラブ(Ruby Love)は、いずれも女性が作った生理関連分野のブランドであり、より実用的な良い製品を提供している。

フリーダ・マムの「Stream of Lactation」キャンペーン(Mekanism)


特徴の3つ目としては、女性が構築するブランドは、ネガティブではなくより建設的だということだ。美容やファッションを、隠したり目立たなくしたりする方法ではなく、創造的な自己表現として扱っている。パット・マックグラス・ラボ(Pat McGrath Labs)が、メイクをテーマにした1人の女性によるアート展のようなものであるのもそのためだ。また、エミリー・ワイスのグロッシアー(Glossier)では、ビジュアルも言葉も常に前向きで明るく、美容マーケティングの多くに見てとれる不安やネガティブの要素はまったくない。

特徴の4つ目。これは完璧でなければならないとする言説に対するアンチテーゼの拡大と表明だ。女性が構築するブランドは自らを偽らない。これは、単に「本当の女性を見せる」という比較的簡単な答えにとどまらない。女性が自分で見た自分の姿を反映した語りかけをするのだ。我々の調査では、女性は知性、ユーモアのセンス、家族との関係の3つを、自分たちを最もよく表す特徴だとしている。女性が構築するブランドは、そうしたかたちでオーディエンスに語りかける。「女性の声に耳を傾けましょう。女性の知性を尊重しましょう。女性の期待を上回りましょう。女性が自分を決めるのにまかせましょう」とハイディ・ザック氏は語りかける。この点で重要なのは、わかりやすいように省略することでも、実際は違うのにすべてが順調なように装うことでもない。フリーダ・マムは母乳育児の現実を見せてくれる。ロンリーガールズプロジェクト(Lonely Girls Project)は下着姿の女性をありのままに見せている。スケアリー・マム(Scary Mommy)は、母親であることは、大変なこと、面白いこと、やりがいがあること、トラブルがあること、心温まること、難しいこと、喜びに満ちたことであるとして、それをそのままに紹介している。

最後の特徴は、おそらく最も重要なものだ。女性が構築するブランドは、従業員やサプライチェーンの一員としての女性をサポートすることに対し、自分たちが提唱するサポートを実践している。従来の女性向けマーケティングで特に不快なのは、派手な広告やフェミニストとしての立場では良いことを言っておきながら、社内や取引先で働く女性の価値となると途端に関心をなくすということが、これまで広く行われてきたことだ。ガールフレンド・コレクティブ(Girlfriend Collective)などのブランドは、企業が女性支援の謳い文句を実際に行動に移し、働く女性に適切な価値と敬意をもって報いることで、何が達成できるかを示そうとしている。


執筆者のジェーン・カニンガムとフィリッパ・ロバーツは、「Brandsplaining: Why Marketing is (Still) Sexist and How to Fix It(ブランドスプレイニング――マーケティングにまだ性差別がある理由とその解決方法)」の著者。

提供:
Campaign; 翻訳・編集:

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