広告業界でそれなりの経歴を積んだ私の経験から、成功を収めたビジネスパーソンについていくつか学んだことがある。それは、彼らの多くが広告に馴染めず、広告を評価することが苦手だということだ。実は、これにはもっともな理由がある。
教育、ビジネストレーニング、さらにはキャリア全体を通じて、最も重視されるスキルは論理的思考だ。
問題を解決する能力は、ビジネスで成功するための核心である。私たちは論理的思考のおかげで、学業で優秀な成績を収め、ビジネスで成功することができた。携わる仕事が財務であれ、運営/運用や販売/流通、あるいは経営であれ、論理的思考は重要である。しかし論理的思考があまり有効ではない唯一の事業が、広告クリエイティブ部門なのだ。この事実は大勢の優秀な人々を悩ませている。広告の成功が論理的思考では導けないという事実を受け入れられないからだ。過去に学んできたことはむしろ足かせになる。
広告を評価する際にありがちなのは、しっかりと分析し、研ぎ澄まされた論理的思考力で、何が良いか、何が悪いかを判断しようとすることだ。だが残念ながら、広告は裁判ではない。最良の論理が勝つわけではないのだ。論理的思考は、驚くほどに広告には役立たない。
私は、何が広告を成功させるのかは知らないが、これだけは分かる。それがロジックではないということだ。
私が一緒に働いた一流のアドマンの多くが、その広告の良さは分かっても、その理由をうまく説明できなかった。良い広告をクライアントに売るには、合理的な理由を考える必要があるが、彼らが語る理由は強引で、非論理的だった。彼らは大抵、良い広告であることを直感では分かっていても、しかしなぜかを説明できなかった。
広告はアートとビジネスが交差する領域にある。広告のビジネス面は、予算編成やメディアに関する意思決定、戦略などで、これらは整然とした論理思考を必要とする。一方で、広告のクリエイティブな側面、つまり「アート」の領域は、いやになるくらい論理的思考が役に立たない。もし広告クリエイティブが単に説得力のある論拠を示すことだったら(多くのビジネスパーソンはそう考えているようだが)、広告ビジネスはさぞかし簡単だろう。
論理的思考を好む傾向は、データが多いほど創造性が発揮されるという誤った認識を生み、広く受け入れられている。だが、これは幻想だとはっきりしている。マーケティング業界は現在、かつてないほど大量のデータを利用できるようになった。それなのに、広告はかつての効果と創造性を失った、というのがマーケティング幹部たちのほぼ一致した意見だ。
広告の成功要因は、論理的思考では解明できないほど、奇妙な要素が複雑に絡まりあったものなのかもしれない。だが、それが広告の面白いところでもある。
広告は変化球:一筋縄ではいかない……
- 広告において、論理的な戦略が有効な場合もある。それでも広告を魅力的にしている一因は、確実な定理がないということだ。そこにあるのは可能性と確率だけなのだ。
- 論理的な戦略は、ブランド広告よりダイレクトレスポンス広告(コンバージョンを得ることを目的とした広告)で効果を発揮する傾向にある。
- 優秀なクリエイターとは、良い広告を直感でわかる人々だ。ただし、その直感が間違うこともある。そのことを受け入れよう。
ボブ・ホフマン(Bob Hoffman)は広告を題材にした本を執筆し、ベストセラーも多数。広告やマーケティングをテーマにした講演でも国際的に活躍している。「Ad Contrarian」というニュースレターとブログを運営しており、本記事はそこからの転載。過去には、独立系エージェンシー2社および国際的エージェンシー米国法人のCEOを務めた。