Brett Gillett
2019年11月07日

広告主の「ゲームチェンジャー」、ラグビーW杯

ホスト国・日本の快進撃で大会スポンサーには多くの視線が注がれた。巨大スポーツイベントでブランドはデジタルキャンペーンをどう活用できるのか −− 東京2020大会を前にした教訓だ。

キヤノンは大会のオフィシャルスポンサーを務めた
キヤノンは大会のオフィシャルスポンサーを務めた

ラグビーは決して日本の国技とは言えないが、ワールドカップ(W杯)大会組織委員会は開幕直前に実施した国内調査で、大会認知度が過去最高の83.9%だったと発表した。前回W杯があった2015年は辛うじて過半数(51.2%)だったことを考えると、大きく伸長。結果として日本代表は5試合で25万人の観衆を集め、スコットランド戦では過去最高の6万7666人を集客した。

この人気は、W杯期間中に広告キャンペーンを行ったブランドにとってどのような意味があったのだろうか。その結果を検証することで、今後のスポーツイベントを見据えるブランドの糧としたい。

日本の快進撃で、ブランドへの注目度がアップ

日本代表が1次リーグで勝ち進むに連れ、試合中継の視聴率はより高い数字を記録した。初戦の対ロシアは平均18.3%だったが、NHKで放映された次戦の対アイルランドは22.5%に。日本には6つの主要放送局(1つの公共放送と5つの民間放送)がある。ゴールデンタイムに試合が放映されたことを鑑みると、国内で約3000万人が視聴したことになる。

もし日本代表が1次リーグで早々に脱落していれば、視聴率は大会序盤から低迷したに違いない。日本の躍進で広告主は膨大なオーディエンスの目に触れることとなり、準々決勝の南アフリカ戦の平均視聴率は41.6%を記録。当初の予想以上の費用対効果と価値提供を実現した。この目覚ましい数字はその直前の1次リーグ最終戦、アジア勢として史上初めて準々決勝進出を決めた対スコットランドの39.2%をも上回った。ちなみにこの試合の瞬間最高視聴率は49.1%。つまり、日本の全人口の半分が見守ったことになる。南ア戦で日本は敗れたものの、選手の活躍から広告主は大きな恩恵を受けた。

ラグビーW杯のようなスポーツイベントはブランド構築や認知度の最大化に極めて効果的だが、視聴率の高さだけがテレビ広告の究極の目標ではない。広告主はキャンペーンを通じて、エンゲージメントとパフォーマンスを高めなければならない。そのためにはテレビ広告の時間帯枠を活用せねばならないのだ。

テレビが示すオーディエンスの反応

現代の視聴者はテレビ観戦の間、携帯のデジタル機器を利用する。この「セカンドスクリーン」という消費者トレンドで、広告主は検索連動型広告やコンバージョン機能を強化してテレビ広告を最適化できる。大会のオフィシャルスポンサーを務めたキヤノンは、10月5日に行われた日本対サモア戦のハーフタイムに視聴者の検索が一気に増えることを示した。

試合中継の際、視聴者がキヤノンを検索した割合を時間別に表したグラフ 注:縦軸の数字は対基準値(=0)比


この図はエンゲージメントのピークの時間と、スポーツイベントにおけるブランドと視聴者との関係性を明確に示している。テレビ広告を受けて視聴者がスマートフォンやノートパソコン、タブレットを使ってオンラインに殺到、キヤノンに関する検索をしていることがよく分かる。

この試合では、他社のデータもハーフタイムが広告にとって最も効果的な枠であることを示した。同じくスポンサーを務めたスバルやリポビタンD(発売元の大正製薬は大会のオフィシャルスポンサー)も、この時間に検索が一気に増えている。

同じく、視聴者がスバルを検索した割合


特にリポビタンDは、試合前と試合後にも目立ったピークを示した。

視聴者が商品(リポビタンD)とブランド(大正製薬)を検索した割合の比較


テレビ広告の影響力を可視化することで、広告主は時間帯枠と効率、パフォーマンスの関係性を把握できる。テレビ広告を受けて消費者がいつ、どこで、どのようにブランドと関わるかを理解することは、広告支出を最大限に生かし、ROI(投資収益率)を高めるために不可欠だ。日本戦で放映された広告を無作為に選び、その結果を分析することは、消費者のリアルタイムのインサイトの把握につながる。その行動を随時理解することで、広告キャンペーンの最適化が可能になるのだ。

Gが「ゲーム」を変える

ドコモが5G(第5世代移動通信システム)を実質的にスタートさせたことで、この新技術が放送局や視聴者にどのような影響を与えるのか、広告主は理解する必要があろう。これによってメディアプラットフォームの相互接続性は最大化され、消費者のデジタル機器の利用法も劇的に変化するだろう。

5Gにより、テレビ番組はスマホで見られるようになる。つまり、より多くの人々が様々な場所でテレビを見るようになり、視聴者はより細分化される。この変化に適応するには、広告主はキャンペーンを計画する際にコネクテッドデバイスやOTT(Over The Top、動画コンテンツなどを提供する事業者)を念頭に置かねばならないだろう。メディアプラットフォーム全てで展開される広告が効果的でなければならず、テレビやデジタルがサイロ化されてはならない。今回のW杯はこうした点で広告主に良い教訓となる。

テレビキャンペーンは消費者のデジタル上の行動にリアルタイムでどのような影響を与えるのか −− キヤノンやスバル、リポビタンDの例で分かったように、この点を理解することでブランドはエンゲージメントを高め、効果的なデジタル広告戦略を実現できる。総合的なメディアプラットフォーム戦略を描いてこそ、広告キャンペーンは消費者をマーケティングファネルの考え方に沿って導き、コンバージョン率を最大化できるのだ。

進化を続ける広告界で、テレビの存在は今も欠かすことはできない。ブランド構築だけでなく、エンゲージメントとパフォーマンスを高める上で極めて有用な媒体だ。ラグビーW杯は、今後の主要なスポーツイベントでメディア戦略をどう有効化し、データに基づくインサイトを活用できるかを示した。これを踏まえてテレビ広告を最適化すれば、ブランドはメディア予算を効率的に使い、広告主の究極の目標であるROIを最大化できるだろう。

(文:ブレット・ジレット 翻訳・編集:水野龍哉)

ブレット・ジレットは、テレビ広告キャンペーンの効果測定会社TVスクエアード(TVSquared)のビジネス成長担当グローバルディレクターを務める。

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