グーグルがユーチューブ上のスキップできない30秒広告を廃止すると発表したのは、2月のこと。以後、ブランドや広告代理店は同サービス上の6秒動画広告「バンパー」をいかに最大限活用するか、頭を悩ませている。
モバイル市場の激戦区、アジア太平洋地域。Campaignがユーチューブから入手した資料によれば、ユーザーの70%以上は同サービスを視聴する際にモバイルデバイスを使い、日常的に5分以上動画を見ているという。
加えて、ユーチューブのモバイルアプリ上の広告に視聴者が注目する比率は、テレビ広告に比べて84%も高い。
「マーケターはモバイルを第一に考え、最も伝えたいポイントを前面に出して可能な限りビジュアルに訴えることが大切です」と話すのは、グーグル・シンガポールのカントリーマネージャー、ジョアンナ・フリント氏。
同氏は時間とコストを節約できるグーグルの新しいツール、「ヴォゴン」の利点を説く。このツールを使えば1つの動画をもとに何千ものバリエーションが作れ、ユーチューブ上の特定の視聴者をターゲットにできる。ネットフリックスなどはこれを活用したバンパー広告で、広告想起とブランド認知度の双方で効果を上げているという。
その例が、ネットフリックスのドラマシリーズ「ザ・クラウン」のバンパー広告だ。ネットフリックスのマーケティングディレクター、ジェームス・ロスウェル氏によると、アジア太平洋地域での視聴者の広告想起率は29%上昇したという。
「現代の消費者をターゲットとするマーケターにとって、短い動画の制作はクリエイティビティーが試される究極のチャレンジ」と同氏。「6秒以内にメッセージを簡潔に収めなければならないからこそ、視聴者に説得力あるブランド価値を伝えることができる。我が社は常にその微修正を繰り返しています」。
「ザ・クラウン」の広告は、まずシンガポールとフィリピンで試験的に公開された。「両国で確かな手応えを得、ソーシャル・ネットワーク上でも話題になりました」。
「2016年初めに両国でサービスを開始してから、現在のところ我が社は最高のブランド認知度を記録しています」。
バンパー広告のビューアビリティや評価に関してはどうか。「結局のところ、それらを上げるのもクリエイティブの質とメッセージの簡潔性に尽きるでしょう」。
ネットフリックス以外にも、バンパー広告のフォーマットに力を入れるブランドがある。例えば、インドネシアのオンライン・マーケットプレイス「トコペディア」。「もうトコペディアを見た?」という簡潔なキャッチフレーズで、同社は消費者のサイトへの誘導を図った。手軽に制作できてモバイルとの親和性も高いため、このキャンペーンは2200万回以上のインプレッションを記録。広告想起率は47%、ブランド認知度は10%上昇した。
日本のインターネットサービスプロバイダー「ニューロ」は、意図的に駄洒落をフィーチュアしたバンパー広告を13本リリース。再生回数570万回のうち約75%はモバイルデバイスで視聴され、広告想起率は273%も上昇。ブランド名が検索キーワードに使われた回数も334%上がった。
まとめに、効果的なバンパー広告を制作するカギを3つ挙げてみよう。
1.モバイル志向で展開する
ストーリーは、オープニング・つかみ・結論という3つの流れで。モバイルを第一に考え、最も伝えたいポイントを前面に出して可能な限りビジュアルに訴える。ネットフリックスの「ザ・クラウン」の広告では、インパクトの強い3つの映像をフィーチュアしてメッセージを発信した。
2.楽しさを追究する
6秒のフォーマットでは遠慮は無用。真面目になり過ぎてもいけない。視聴者にインパクトを与えるには、優れたビジュアルと大胆さ、そして楽しさが求められる。
3.シリーズ化を想定する
個々の広告が発信するメッセージは1つでなければならない。ニューロが実行したように、より規模の大きいキャンペーンと連動してシリーズ物を制作することも考慮する。
(文:ファイズ・サマディ 翻訳:鎌田文子 編集:水野龍哉)