Emily Tan
2017年2月06日

排ガス不正問題を乗り越え、VWが販売台数首位に

排ガス不正問題に揺れ、2015年に販売台数を減らしたフォルクスワーゲン(VW)。だが迅速なブランドの立て直しと中国市場での強さを背景に、2016年はその数で遂にトヨタを上回った。

排ガス不正問題を乗り越え、VWが販売台数首位に

1月30日、トヨタ自動車は2016年の世界販売台数を発表、世界首位の座をフォルクスワーゲンに譲ったことが判明した。

トヨタは過去4年間にわたって世界首位を維持してきたが、2016年の販売台数は1,017万5,000台。1週間前にフォルクスワーゲンが発表した同社の販売台数、1,031万2,400台を下回る結果となった。

トヨタの広報担当者はこの結果を受け、販売台数の増加だけを目標に掲げてきたわけではないと弁明。「販売台数は、トヨタがより優れた車をつくり出し、お客様により良い体験をお届けすることに注力した結果に過ぎないと考えています」。

それにしても、トヨタが首位を譲った原因は何だったのか。そしてフォルクスワーゲンは、2015年の排ガス不正問題で受けたダメージをどのように乗り越えたのだろうか。

「確かにフォルクスワーゲンは、2015年のスキャンダルで痛手を被りました」。自動車業界の動向に詳しい「オートヴィスタ・インテリジェンス」のシニア・データジャーナリスト、ニール・キング氏はこう語る。「2015年上半期はフォルクスワーゲンがトヨタを抜いて世界トップでしたが、排ガス不正問題が影響して伸び悩んだ。その結果、通年で約990万台にとどまり、トヨタの約1,015万台を下回ったのです」。

同氏によれば、小型乗用車の排ガス規制逃れが発覚した米国市場ではフォルクスワーゲンの苦戦が続き、2016年の販売台数は2015年比で2.6%の減少だったという。フォルクスワーゲンの実績を押し上げたのは中国で、全市場合計で販売台数が38万2,000台増加したなか、同市場単体では43万4,000台の増加だった。

フォルクスワーゲンは中国市場で消費者と良好な関係を築いてきた。一方で、全ての日本企業同様、トヨタにとって中国は難しい市場だ。両社の同市場での成長率を比べると、昨年フォルクスワーゲンが12.2%の伸びであったのに対し、トヨタは8%程度だった。

また、フォルクスワーゲン傘下の高級車ブランド「アウディ」も全市場で堅調、販売実績に寄与した。同社傘下には他にもポルシェやシュコダなどのブランドがある。

キング氏によれば、昨年アウディはフォルクスワーゲンの中核ブランドを全市場合計で3.8%上回る実績を上げたという。「フォルクスワーゲンは米国市場で小型乗用車の販売を4%増やしました。2016年に同市場で何とか健闘できたのは、アウディのSUVシリーズが人気を集めたからです。フォルクスワーゲンの同市場での販売台数は、今やアウディのSUVが半分以上を占めています」。

迅速なブランド再構築

フォルクスワーゲンがいわゆる「ディーゼルゲート」事件から急速に立ち直った理由の一つに、「電気自動車への迅速な対応が挙げられる」とキング氏。

2016年12月、フォルクスワーゲンは新会社「モイア(MOIA)」を設立。配車サービスなどによってより少ない自動車でモビリティを確保、新時代の移動や輸送のあり方を追求していく狙いだ。同社はまた、「I.D.」ブランドとして提供する電気自動車のコンセプトカーを公開。1月に米国で開催されたコンシューマー・エレクトロニクス・ショー2017(CES 2017)では、I.D.ブランドで様々な性能のモデルを揃えていく計画を発表している。

「興味深いのは、トヨタがこれまでプラグインハイブリッド車よりもハイブリッド車に力を入れてきた点です。電気自動車を経て燃料電池車に取り組むことを、あたかも避けているかのようでした」とキング氏。「しかし昨年1年で、トヨタが独自の電気自動車の開発計画を進めていることがはっきりしました」

フォルクスワーゲンのような強力な競合相手が電気自動車市場を独占しないよう、トヨタはリスク分散のため電気自動車にも手を伸ばしたとキング氏は考える。

「VHSかベータマックスかという、往年の家庭用ビデオの規格争いを彷彿させるところがあります。長期的には電気自動車と燃料電池車のどちらが主流になるのか、まだ誰にも判断がつかないですね」

(文:エミリー・タン 翻訳:鎌田文子 編集:水野龍哉)

提供:
Campaign UK

関連する記事

併せて読みたい

1 日前

トランプ再選 テック業界への影響

トランプ新大統領はどのような政策を打ち出すのか。テック企業や広告業界、アジア太平洋地域への影響を考える。

1 日前

誰も教えてくれない、若手クリエイターの人生

競争の激しいエージェンシーの若手クリエイターとして働く著者はこの匿名記事で、ハードワークと挫折、厳しい教訓に満ちた1年を赤裸々に記す。

2024年11月15日

世界マーケティング短信:化石燃料企業との取引がリスクに

今週も世界のマーケティング界から、注目のニュースをお届けする。

2024年11月13日

生成AIはメディアの倫理観の根幹を揺るがしているか?

SearchGPT(サーチGPT)が登場し、メディア業界は倫理的な判断を迫られている。AIを活用したメディアバイイングのための堅牢な倫理的フレームワークはもはや必要不可欠で、即時の行動が必要だとイニシアティブ(Initiative)のチャールズ・ダンジボー氏は説く。