経済学者のミルトン・フリードマン(Milton Friedman)氏がニューヨークタイムズに寄稿したエッセイで、企業は利益を上げることに注力すべきだと主張して50年。「The Social Responsibility of Business Is to Increase Its Profits(企業の社会的責任は利益を増やすことだ)」と題されたこのエッセイは今も、役員報酬、KPI、株主の権利、コーポレートガバナンスに関する法や規範といった分野に多大な影響を与えている。多くのテクノロジープラットフォームやメディアプラットフォームがフリードマンの哲学を根拠に、その支配力と透明性の欠如を正当化している。
少数に力が集中している場合、誰が責任を負うべきか?
フリードマン氏の提言では、倫理的な問題は個人と政府のみが責任を負うべきとしており、半世紀が経過した現在ではやや近視眼的思考に思える。ごく少数の企業があまりに強大な力を持つ現状を考えると、ディストピア的な雰囲気がさらに色濃くなってくる。
マーク・ザッカーバーグ(Mark Zuckerberg)氏は、自分が運営するソーシャルメディアプラットフォームで偽情報が拡散したことに責任はないのだろうか? フェイスブックの支配力と収益を高めるために、反競争的な規制に縛られることがないようロビー活動を行い、彼の影響力と資金力で国外の競合相手を押しつぶしたことに、ザッカーバーグ氏の責任はないのだろうか? 「無料」に見えるサービスの利用と引き換えに、自ら個人情報を提供している数十億人に対する説明責任は結局のところ誰にあるのだろうか?
フリードマン氏の思想を支持する人は、ザッカーバーグ氏は自分の仕事をしているだけだと言うだろう。しかし、今の常識では違う。経済界といくつかの国の政府がこの問題について批判的な姿勢を見せていることは喜ばしい。
企業がメディアに説明責任を求める可能性も
プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)の最高ブランド責任者マーク・プリチャード(Marc Pritchard)氏は、「メディアとメジャメントに関するバーチャル会議(ANA Media & Measurement Virtual Conference)」で、メディアを、社会正義と成長の推進力に変えるという創造的破壊を、同社がどのようにけん引しているのかを紹介した。プリチャード氏はテレビCMのアップフロント(TV広告枠の先行販売)への参加を見直し、プログラマティックと直接購入への投資を増やし、マイノリティがオーナーを務めるメディア企業を選択していると述べたうえで、さらに検証済のクロスプラットフォーム測定の必要性を強調した。
多くの企業が苦境に陥っているなか、P&Gはシェアを伸ばし、2021年も売上成長を見込んでいる。なぜそのP&Gが社会正義を推進する力になることに関心を示しているのだろうか?
それはおそらく、同社が自信と数字をもって、株主に説得力のあるストーリーを伝えることができるためだろう。P&Gによれば、広告において正確な描写をすれば、信頼性と購入意思を10%高めることが証明されているという。
デロイト傘下のエージェンシーであるヒートが2019年に実施した調査でも、同様の結果が出ている。広告に多様な人々を起用しているブランドは、株価が平均44%上昇し、多様性のスコアが最も高いブランドは、消費者に好まれる傾向が83%も高かった。
スターバックスはこのような信念に基づいて事業を構築している。ハワード・シュルツ(Howard Schultz)氏は「人、地球、利益を大切にする」企業を公言し続け、彼がCEOを務めた時期、スターバックスは「人間性のレンズを通して見た成果主義の企業」だ、という有名な言葉を残した。スターバックスは7月、デジタルコンテンツ、ブランドセーフティ、透明性に関するアプローチを見直すため、すべてのソーシャルメディア広告を一時停止した。メディアにより強い圧力をかけ、説明責任を果たすよう求める企業の一つになるかもしれない。
企業が正しい存在になる方法
フリードマン氏は利益のみを追求するアプローチの長期的な影響を考慮できなかったという点で過ちを犯した。社会的責任はビジネスにとっても、人や地球にとっても有益だ。メディアに説明責任を求め、持続可能な成長へとシフトする動きが拡大しているが、この動きに同調する企業は以下に挙げる3つのことを実行すべきだ:
・外付けするのではなく組み込むこと:平等、多様性、環境保護などの社会的/地域的理念は、企業内やオーディエンスの心にまく種であり、イベント中に飾っておく花束ではない。
・追跡と測定を行い、ブランドやビジネスといつもつながっていること:プリチャード氏はバーチャル会議のプレゼンテーションで、メディアのサプライチェーンを多様化して、マイノリティがオーナーを務めるメディアプラットフォームとも直接取引することを決めた際、リーチと引き換えに関連性と共鳴を手に入れたと語った。P&Gはブランド、エージェンシーごとにジェンダーと多様性の目標を設定した説明責任ダッシュボードを運用しており、制作パートナーやメディアプラットフォームも対象にしたいと考えている。広告費の半分は無駄遣いだが、どちらの半分が無駄かわからないと主張できたジョン・ワナメイカーの時代は過去のものだ。測定フレームワークは1つの選択肢ではなく最低条件だと主張すべきだ。
・本物であること:ユニリーバやP&Gのような企業にとって、ジェンダーの平等を支持するのは当然であり、利益につながることだが、たばこ会社が健康や公害を気に掛けているとしたら、それを誠実とは呼べない。組織の存在理由と合致する高次の目的を特定すれば、それが成長を促してくれる。
企業が、利他主義や博愛主義だけで生き延びることは不可能であるが、消費者による影響と政府による規制を受け入れて、倫理と利益の間で妥協点を見つけることは可能なはずだ。