運転者のいない自動運転車が普及した近未来はどのような社会になっているか――。想像も議論も尽きないが、この新技術が秘める可能性について、広告会社やメディアは驚くほど静かだ。
今年上旬にUBSが発表した予測によると、自動運転車関連の収益は2030年までに、米国だけで約2.3兆米ドルに達する見込みだという。また、広告やその他「エクスペリエンス関連」のサービスは、4720億ドルの市場規模に達する見込み。グーグルの親会社であり、自動運転開発企業「ウェイモ」を傘下に収めるアルファベット社が、最大のシェアを獲得すると見られている。
だが電通も、静観しようという様子ではなさそうだ。同社は今月初め、MaaS(Mobility as a Service:車両の所有ではなくサービスの組み合わせによる新たな交通体系)のコミュニケーション・プラットフォームの可能性について研究を進めるため、群馬大学とモビリティプロジェクトチームを設置したと発表した。
Campaignは同社がこのプロジェクトに取り組む動機や、自動運転車の領域が広告会社の事業をどのように変えると考えているか尋ねた。同社のプロジェクトチームのスポークスパーソンによると、車内がくつろげる空間へと進化することで、同社にとって重要なメディアチャネルが新しく創出されるととらえている。
「自動運転により自動車は、従来以上に生活空間としての存在感が高まることが想定されます」と同氏。「単に移動に集中するだけでなく、車内でどう過ごすかという場の提供において、コミュニケーション手法やコンテンツが果たす役割は増大すると想定しています。どうすれば車内、ひいては移動そのものを楽しく過ごせるかを提案することに、電通が貢献できると考えています」
電通では、これまで以上に「モバイルになる」可能性がある人々(遠隔地域に住む高齢者など)や、運転から解放される人々に対し、広告やコンテンツを配信する方法を研究しているという。詳細については秘密情報につき明らかにできないとのことだが、「広告やコミュニケーションにより、移動そのものが今まで以上に楽しくなるような」ものを含むという。
従来のテレビCMのような広告のままでは、乗客にとって移動時間が今まで以上に楽しいものにならないのは明らかだ。そこで同社では、どのような種類のコンテンツが効果的なのかを模索しているという。電通にとって、そして広告主にとって、長期的にどのような影響が考えられるかと質問したところ、スポークスパーソンはこのように語ってくれた。
「自動運転で運行される車内や街なかで、新しい広告・コンテンツとの接点を活かしたサービスを提供できると考えています。移動体験の価値を高め、同時に地域の方々に喜んでいただけるサービスを、さまざまなパートナーと連携して検討できればと考えています」
(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:田崎亮子)