マッキャン・ワールドグループが新たに実施した調査によると、平均的な日本人は他国の人々よりも老化に対して否定的イメージが強いことが分かった。
28カ国の市場、2万4000人を対象とした「年齢についての真実(Truth about age)」と題された同社の調査。「年を取ることは問題」と答えた日本人は56%で、世界全体の47%を上回った。その反面、世界の4分の1が「日本の高齢者が世界で最も健康的」と回答。これは今までで最も高い数字だった。
日本と世界との意識の違いには目を見張る。日本人のほぼ半数は年を取ることを「心身の緩やかな衰え」とみなす。こうした悲観的見方は、世界ではほぼ半分の26%。日本は若さを追い求める傾向が最も強い国の1つで、若々しく見られ、若々しい気持ちでいようと奮闘する人々が多いのだ。このことだけでも、「いかにもシニア層向け」の広告が日本では的外れなことを示唆している。
一方で、「年を取ることは知恵と経験を得ること」という日本人が4分の1以下なのに対し、世界では32%。「次の誕生日を楽しみにしている」という日本人もわずか35%(世界57%)だった。
年配者に十分な敬意が払われない今の時代を考えれば、こうした数字はやむを得ないのかもしれない。日本で「自分より上の世代を尊敬する」と答えた人は57%に過ぎず、韓国の48%に次いで少なかった。
年を取ることに最も不安を感じているのは20代(46%)と30代(50%)の若者たちだ。裏返せば、彼らの懸念を払拭し、安心感を与える役割をブランドは果たすことができるだろう。「老化についてきちんと考えている」と答えた人は、70歳以上で32%だけだった。
日本特有のユニークな結果が出たのは、女性よりも男性の方が加齢に対して否定的なこと(女性15%、男性25%)。世界ではこの割合は女性33%、男性15%と逆転する。
人々は通常、有名ブランドやその試みを懐疑的に見るが、この調査では世界の83%が「ブランドは世界を良くするために貢献できる」と答えた(もっとも、回答者が本音を言っていればの話だが)。東京で調査を担当したマッキャンのグローバル・チーフ・ストラテジー・オフィサー、スザンヌ・パワーズ氏は「こうした結果は、人々がより賢明な年の重ね方を求めていることを表しています」と話す。
前向きに年を取ることを後押ししている企業、として広く認められたのはグーグル。世界で68%がその名を挙げた。だがほとんどの業界は、消費者の高齢化への対応を理解していないようだ。最も健闘しているのは美容業界で、「エイジングをそれなりに理解している」と回答したのは39%。一方、ファッション業界はわずか24%だった。
ブランドにとっての意味
マーケターであれば、なぜ日本人が年を取ることに対してこれほど否定的なのか考えてみる価値があろう。長寿国として名を馳せるにもかかわらず、日本では加齢を肯定的に語ることはほとんどない。テレビ番組やそれに付随するCMは程度の差こそあれ、健康や容姿、活力などが衰える「老いへの恐怖」がベースになっている。
マッキャンのチーフ・ストラテジー・オフィサー、ジョン・ウッドワード氏は「今こそブランドが“ポジティブなエイジング”を打ち出すときではないでしょうか」と語る。加齢に対するネガティブな捉え方は、もちろん日本のマーケティングに限ったことではない。だが、日本の高齢化社会を他国が肯定的に捉えていることを考えれば、シニア層をターゲットとした革新的マーケティングで日本は世界に範を示せるのではなかろうか。
例えばウッドワード氏は「ブランドがスポットライトを当てるべきアクティブなシニア」として、82歳でスマートフォン用ゲームアプリを開発し、アップルのイベントでプレゼンテーションを行った若宮正子氏を挙げる。若さを追求するのではなく、自分の年齢を前向きに捉え、これまで常に活動的に生きてきた同氏。こうした高齢者は決して彼女1人ではない。「ブランドは固定概念を打ち破る、エイジングに対してポジティブなアイコン的存在を生み出せるはずです」(ウッドワード氏)。
「大きな実績を上げた人々をフィーチュアすれば、より良い概念を作って環境を変えることができる。『クリエイティビティーは若い世代特有のもの』という考え方がありますが、そうでなければならない理由はありません。何歳であっても創造は続けられるのです」
マッキャンのクライアントであるロレアルは、老いに抗わないキャラクターとして英女優ヘレン・ミレンを世界キャンペーンのために起用した。パワーズ氏曰く、「これはブランドが文化にどのような影響を与えられるかを示しています」。このキャンペーンは年を取ることに最も不安を覚えている若年層だけでなく、上の世代からも好意的に受け止められた。「社会が作り出すステレオタイプに陥らないことが大切です。ブランドがデモグラフィックではなく個人の姿勢にもっと焦点を当てれば、エイジングに対する人々の考えももっと変わっていくでしょう」(パワーズ氏)。
広告代理店に年配のスタッフが少なく、シニア層の消費者に十分対応できていないことは世界的課題のようだ。「業界では年齢による差別、つまり経験を積んだベテランを意図的に排除する傾向が広まっています」とパワーズ氏。「ジェンダーや人種だけでなく、年齢の多様性もより良い結果につながっていくのです」。
マーケターへの教訓:
若者たちはエイジングを最も恐れているが、大多数の人々もネガティブに捉えている。こうした「恐怖感」は往々にして増幅されるが、皮肉にもその要因となっているのは広告だ。エイジングに対する固定観念を捨て去り、あらゆる世代にアクティブな生活を推奨する −− こうした方向性を確立することが、皆が求めるより希望に満ちた社会づくりにつながっていくだろう。
(文:デイビッド・ブレッケン 編集:水野龍哉)